2023-10

2023・10・1(日)アンドラーシュ・シフ ピアノ・リサイタル

       ミューザ川崎シンフォニーホール  5時

 マチネが終ってから一度自宅へ戻り、夕方にまた川崎へ出直す。
 こちらは、プログラムは予め発表しない、会場に掲示もしない、曲目はシフがステージ上で紹介しながら演奏して行く━━という形のリサイタル。

 実際に演奏されたのは、第1部にバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の「アリア」と「フランス組曲第5番」、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ジーグK.574」、ブラームスの「間奏曲Op.117」3曲と「間奏曲Op.118の2」、シューマンの「ダヴィッド同盟舞曲集」、第2部にバッハの「半音階的幻想曲とフーガ」、メンデルスゾーンの「厳格な変奏曲」、ベートーヴェンの「ソナタ《テンペスト》」で、更にアンコールとしてバッハの「イタリア協奏曲」第1楽章、モーツァルトの「ソナタ ハ長調K.545」第1楽章、シューマンの「楽しき農夫」、という具合。
 1曲ごとにシフの話と、その通訳が入るので、コンサートは長引き、終演は結局8時20分頃になった。正味3時間、長い演奏会だった。

 アンコールを除くプログラム本体は、J・S・バッハの音楽と、それが後世に及ぼした影響━━といったような流れが基調となっており、また第2部は「ニ短調」で統一されるというように、ひとつのコンセプトに貫かれた選曲だったことは確かであろう。作品群の性格から、シフの演奏も総じて瞑想的で思索的なものになった。

 「テンペスト」も、普通のリサイタルにおける所謂「ベートーヴェンのソナタ」としての演奏とは若干ニュアンスの異なるスタイルになっていたのが面白かったが、それは第3楽章が遅いテンポで弾かれたためもあったかもしれない(シフは、普通のピアニストはみんなこれを速すぎるテンポで演奏したがる、と批判していた)。
 そして、アンコールの3曲で、シフはプログラム本体の重厚でシリアスな雰囲気を見事に打ち払う。なかなか気の利いた選曲というべきだろう。

 シフの話は興味深い内容だったけれども、本人もボソボソ喋るし、何より通訳がプロではないので話し方にも明晰さを欠く、といった具合なので、3時間にわたり気持を集中させるのは些か疲れたのは事実であった。
 通訳というものは常に明晰明快でなければならず、曲名や音楽用語など、あまり詳しくない人にも完璧に解るように語らなければならぬ責任がある。その意味では、今日の通訳氏は全くそれに向いていなかったと言わなければならない。

 もっとも、音楽史にも精通しているような一流のプロの通訳に、3時間の本番中ずっとシフのうしろの椅子に座っているような滅私奉公ができるはずはないから、その点では今日の通訳君はよくやってくれたということになろう。

2023・10・1(日)モーツァルト・マチネ スダーン指揮東京響

        ミューザ川崎シンフォニーホール  11時

 東京交響楽団の前音楽監督(現桂冠指揮者)で、この「モーツァルト・マチネ」シリーズの創設者でもあるユベール・スダーンの指揮するモーツァルトを、久しぶりに聴く。スダーンはこのシリーズには5年ぶりの登場、とどこかに書いてあったような気がしたが、もうそんなになるのか。

 プログラムは「ディヴェルティメント ニ長調K.136」、「交響曲第31番ニ長調《パリ》」、「交響曲第35番ニ長調《ハフナー》」というもので、アンコールは「パリ交響曲」の第2楽章。

 スダーンのモーツァルトは、やはりいい。引き締まったアンサンブルだが、響きには凝縮よりもむしろ膨らみがあって、柔らかさとあたたかさを感じさせる。シンフォニックで厚みのある音だが、決して物々しくはならない。それはまさに昔ながらのスダーンの音楽だが、強いて変化を感じさせたところがあるとすれば、やや自由な解放感のようなものが加わったか、というところか。

 いずれにせよスダーンのことだから、きっとまた東響を絞り上げたのだろうな、と勝手に考えていたのだが、楽屋に立ち寄ってスダーンから話を聞いたら、「驚くなよ、リハーサルはただ1回だけだ」と笑っていた。事務局でもそう言っていたから、たしかなのだろう。しかし、たった1回の練習で「スダーンの音」が復活するとは。オーケストラ自身が昔の音を覚えていたのだろうか。

 ただ、今日は客員奏者も少なからず乗っていたようだから、そうするとやはりスダーンのカリスマ性か、ということになるが━━。とにかく、久しぶりに、いいモーツァルトを聴いた感。コンサートマスターは関朋岳(客員)。

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