2023-11

2023・11・21(火)キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィル

      ミューザ川崎シンフォニーホール  7時

 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が来日。14日から25日までの間に10回の公演を行なうというヘヴィなスケジュールだが、後半の6回は東京と川崎での連続公演だ。

 2019年秋から首席指揮者(Chefdirigent)を務めているキリル・ペトレンコとは、これが初めての来日である。今日のプログラムは、モーツァルトの「交響曲第29番」、ベルクの「オーケストラのための3つの小品Op.6」(1929年改訂版)、ブラームスの「交響曲第4番」。

 キリル・ペトレンコの指揮は、もうオペラではかなりの数を聴いているけれど、ベルリン・フィルを指揮するのを聴くのは11年ぶりだ。あの頃(☞2012年12月19日)の遠慮がちな指揮ぶりに比べると、さすがに彼の成長は目覚ましく、まるで別人のような勢いでこの超大戦艦オーケストラを制御している。
 冒頭のモーツァルトの弦の引き締まった、それでいて瑞々しさを失わない響きは、このオケが、サイモン・ラトルの時代よりももっと前に戻ったような感を抱かせるのではなかろうか。ペトレンコの自信満々の指揮に嬉しい驚きを味わったその最初が、このモーツァルトを聴いた時だった。

 めったにナマでは聴けないベルクのこの作品を持って来てくれたことは、実に有難かった。ステージを圧せんばかりに並んだ超大編成のオーケストラを使いながら、合計20分足らずの演奏時間とは、何ともコスト比の悪い作品ではあるが、それはともかく、ここでの演奏は、まさにベルリン・フィルの「不滅の威力」を余すところなく発揮したものだったろう。
 特に第3曲での、ハンマーの打撃3回を伴う威圧的な音楽は、こういうオーケストラで演奏されてこそ、作品がその本来の力を顕すのではないかと思わせたほどだ。この曲のあとに大きなブラヴォーが飛んでいたことは、ペトレンコや楽員たちを喜ばせたのではないかという気がする。

 ブラームスの「4番」は、ペトレンコがベルリン・フィルを存分に振り回した演奏と言えるだろう。それは北国の冬の憂愁とか、作曲者晩年の諦念などといったものを感じさせる演奏ではなく、おそろしく強靭な力にあふれたものである。
 特に後半の2つの楽章は、━━第3楽章をこんなに速いテンポで爆走する演奏というのは私もこれまでにあまり聴いたことのないタイプのものであり、第4楽章もまるで嵐のような推進力に満ちている。かのフルトヴェングラーとベルリン・フィルのライヴ録音にもそういう個所はあったけれども、ああいう暗い情熱が渦巻いているような演奏とは違い、もっとエネルギッシュで荒々しい。
 中間部のフルートのソロの個所でさえ、晩年のブラームスが感慨深く物思いに耽っているといった雰囲気からは遠いだろう。

 だが、ペトレンコはその「もって行き方」がすこぶる巧いのである。第1楽章を、各フレーズに神経を行き届かせつつ憂愁に満ちた遅いテンポの演奏で開始しておき、全曲の後半からはぐいぐいと盛り上げて行くのだが、その劇的な高潮点のつくり方や、追い上げて行く呼吸の見事さなどには、彼がオペラで場数を踏んだ経験と、特にあのバイロイトで複数年間「ニーベルングの指環」を指揮して、ドイツの作曲家ワーグナーの音楽にじっくりと取り組んだキャリアがものを言っているのではないだろうか。
 シェフに就任してから未だわずか4年、ペトレンコはまだこのオケ相手に充分な個性を発揮できていないかもしれないが、しかし彼とベルリン・フィルとの相性は、私が当初危惧していたのとは違い、結構うまく行きそうな感じがする。

 それにしても、今日のベルリン・フィルのしなやかで、しかも巨大な起伏に富んだ演奏は、さすがのものがあっただろう。時たま顔を覗かせる威圧感をもった響きは、やはり昔ながらのベルリン・フィルだ。このオーケストラは、やはりこうであった方が面白い。

 アンコールはなし。カーテンコールも3、4回程度やっただけでさっさと引き上げる。それも、いかにもベルリン・フィルらしい。

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