2024-02

2024・2・22(木)チョン・ミョンフン指揮東京フィルハーモニー交響楽団

        サントリーホール  7時

 東京フィルハーモニー交響楽団も1000回定期への秒読みに入って、今日は第996回のサントリー定期。
 名誉音楽監督チョン・ミョンフンの指揮で、ベートーヴェンの「田園交響曲」と、ストラヴィンスキーの「春の祭典」とを組み合わせるという、ちょっと不思議なプログラムが組まれた。3回の同一プログラムによる公演の、今日は初日である。コンサートマスターは三浦章宏。

 「田園」では、珍しくブライトコップ版の楽譜が使われたようだ━━見たわけではないが、第3楽章でのホルンの強烈なアクセントで、それと判る。現在主流となっているベーレンライター版ではもう聞かれなくなった響きだ。あのワルターとウィーン・フィルの名演レコード以来、われわれの世代のファンにとっては、長年にわたって聴き慣れていた、印象的な音だったのである。
 今日のチョン・ミョンフンの指揮では、そうした音とともに、全曲にわたって流麗で壮大な「田園」の絵巻物が大河のように展開されて行った。曲の開始個所から妙に懐かしいような、昔初めてこの曲を聴いた時のような陶酔感に包まれはじめていたと思ったのは、その所為かもしれない。

 「春の祭典」は、全曲にわたり速めのイン・テンポで、荒々しい急流のごとく全てを一気呵成に押し流して行く、といった感の演奏となった。ロシア音楽のように華麗な色彩感を誇示するわけでもなく、近代音楽としての明晰な音の構築を聴かせるわけでもなく、オーケストラをむしろ鷹揚なアンサンブルで豊麗に構築して行く「春の祭典」だったと言っていいか。

 初日ゆえにこのような演奏になったのかもしれないとも思われるが、こういう直截な演奏構築をチョン・ミョンフンはオペラなどでもよくやることがあるので、それは近年の彼の美学なのだろう。実はさっきの「田園」も、どちらかと言えばそれに近い直截タイプの演奏だったのである。

 8時35分頃には演奏が終ってしまったので、終演時間が早すぎると思ったのか、チョンと東京フィルは、「春の祭典」の第1部の終曲(大地の踊り)をアンコールとして演奏した(この手は以前誰かもやったことがあるが、誰だったかは思い出せない)。
 チョンがスタンバイした途端に楽員たちが「何番から?」と笑い出したり(そう聞こえたのだが、聞き違いかもしれない)、いざという瞬間に打楽器奏者のひとりが何かをひっくり返したのかガシャガシャンという大音響が聞こえ、お客と周囲の楽員がゲラゲラ笑い出したり、私は昔からこういう「人間的な」雰囲気の演奏会がたまらなく好きだ。
 中学生の時の音楽教室で、ティンパニ奏者の椅子が壊れ、大きな音とともに奏者が後ろへのけぞり、暫し生徒たちの爆笑が止まらなかったのがそのきっかけかもしれない。

 因みに、東京フィルの第1000回定期は、6月23日のオーチャードホールでの定期がそれで、今日と同じくチョン・ミョンフンが登場、メシアンの「トゥランガリーラ交響曲」を取り上げるそうである。

2024・2・22(木)エリアフ・インバル指揮東京都交響楽団

       東京芸術劇場コンサートホール  2時

 1000回定期までのカウントダウンに入っている東京都響、今日は第995回定期演奏会。桂冠指揮者エリアフ・インバルの指揮で、マーラーの「交響曲第10番」の、デリック・クック補訂完成版が演奏された。コンサートマスターは矢部達哉。

 インバルは、今月の都響への登場では、3種のプログラムによる5回の演奏会を指揮している。
 1936年生まれだから、今年で88歳になるわけだが、驚異的に元気だ。背筋をピンと伸ばしてすたすたと歩く。今日はこのマーラーの「10番」1曲だけだが、1時間15分ほどの長さの大曲を、椅子も使わず立ったままで精力的に指揮する。終演後も元気いっぱいカーテンコールに応え、楽員たちを各パート別に何度も起立させ、自らも何度も袖とステージを往復して、最後は聴衆に手を振って袖に引っ込む、という具合だ。

 彼が都響から引き出す音楽も引き締まって、些かも弛緩を感じさせない。前半でこそ演奏にしなやかさがやや不足していたような、もどかしさを感じさせる個所も聞かれたものの、第3楽章のあの「少年の魔法の角笛」の一節に似たリズミカルな曲想が現れたあたりからは、オーケストラ全体に揺れ動くような陰翳が満ち始めた。明日の2回目の演奏では、おそらく冒頭から深みのある世界が聴けるのではなかろうか。

 因みに、第1000回定期は今年の6月4日、同じくインバルの指揮により、ブルックナーの「第9交響曲」の第4楽章最新補訂版(SPCM版)の日本初演を以て開催されるそうである。

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