2024-03

旅行日記 第4日
2007・12・9日(日)ウェルザー=メスト指揮「ワルキューレ」

 ウィーン国立歌劇場

 リヨン駅近くのホテルを早朝出て、シャルル・ド・ゴール空港からウィーンに向かう。正直言って、こういう「転戦型」スケジュールは大嫌いなのだが、短い滞在期間でなるべくあれこれ観たいと思うと、こんなことになってしまう。本来、私のトシでやるべきことではない。着いたウィーンも、小雨混じりの底冷え天気。

 「ワルキューレ」は、フランツ・ウェルザー=メストの指揮と、スヴェン=エリック・ベヒトルフの演出による新制作。ウィーン国立歌劇場の新しい「指環」の第1作として話題を集めているプロダクションだ。去る2日にプレミエされ、今夜が第3回の上演。

 小澤征爾の後任として次期音楽監督への就任が決まっているウェルザー=メストは、さすがに大した人気だ。われわれ日本人には、少々複雑な思いだけれど。
 彼のワーグナーは予想通りに比較的あっさり味のもので、重厚さはないけれども叙情的な美しさと、オーケストラの明晰さで独特の個性を出す。
 とはいえこの日の第1幕での演奏は不思議に密度が薄くスカスカの音で、こちらの席が前方過ぎる(平土間5列目)からそう聞こえるのかと最初は訝った次第だが、第2幕からはオーケストラがまるで別の団体のように精妙な音を響かせるようになっていった。メンバーが入れ替わった時にはよくそういうことがある、とは事情通の方から教えられた話。
 ウェルザー=メストの指揮はそれほど遅いテンポではなく、しかも矯めがなくイン・テンポで進められることが多いので、全曲大詰めの個所ではユハ・ウーシタロ(ヴォータン)が「nie!」を倍以上の長さに伸ばして見得を切ることもできたほどだ。

 そのウーシタロだが、初日は声が出なくて気の毒な結果に終っていたそうである。第2回では歌わなかったとかで、ということは今日が彼にとっての事実上の初日になるか。しかし今日は、そんな話がウソに思えるくらいの出来で、これで文句をつける人がいたら贅沢というものであろう。歌唱と演技の上でも、父としての感情が神としてのそれに克つといった性格描写を巧みに打ち出していた(もっとも、ワーグナーの音楽自体がすでに実に巧妙にそのあたりを描き出しているのだけれども)。
 とにかくウーシタロは、自らの快調に気を良くしたか、第2幕大詰では頭上で槍をブンブン振り回して見せ、「槍の牛太郎、大見得を切る」といった趣きで場面を閉じた。回す手つきもホホウと思わせるほど鮮やかだったが、同時に冷や冷やさせられもした。あれが万に一つも手元が狂い、槍がすっぽ抜けて客席にでも飛んで行ったら、ただでは済むまい。

 ブリュンヒルデはエヴァ・ヨハンソン。今年はドレスデンでのマリア(平和の日)とサロメ、エクサン・プロヴァンスでのブリュンヒルデなど、続けて彼女を聴く機会があったが、いつもながら馬力のある声で、安心して聴ける。しかもこの人、舞台での表情が実に可愛らしいので、まさに「ヴォータンが愛してやまない」娘としての性格を描き出して余す所ないだろう。

 ジークリンデのニーナ・ステンメは、観るたびに成長を重ねている。本当にいい歌手になった。1994年のバイロイト・デビューでフライアを歌った時にはほとんど印象に残らなかったソプラノが、近年はイゾルデや元帥夫人などで見事な歌唱と演技を示すようになってきたのだ。今回も第3幕で母としての喜びに目覚める瞬間など、数年前にベルリンで聴いたワルトラウト・マイヤーの陶酔的な表現にはまだ及ばないまでも、どこか苛立たしい不安を秘めたような感情表現の巧みさで、それに伍するほどの出来だったと思う。
 ジークムントのヨハン・ボータは予想外(?)の重厚な性格表現。アイン・アンガーのフンディングは結構不気味で渋い役柄表現で、もう少し拍手を得てもよかったのではないか。どうもこの役、損な役回りのようだ。ミヒャエラ・シュスターのフリッカは少々蓮っ葉な、一風変わった役柄表現だった。なお、8人のワルキューレたちは、揃って弱い。

 ベヒトルフの演出は、期待したほどではなかったというのが正直なところだ。9月に日本でも上演されたチューリヒ歌劇場の「ばらの騎士」に比較しても、些か単調な舞台という印象である。さほど演技的に細かくないのは彼のいつものスタイルだが、何か一つ緊迫感といったものに欠けるのが問題だろう。
 ロルフ・グリッテンベルクの美術と併せての舞台のつくりは、第1幕では巨大なトネリコの幹を簡素な机が囲み、狼(つまりヴォータン)が映像でしばしば舞台を横切るという仕組み。第2幕では、その狼の死体をフリッカがヴォータン自身に突きつける。
 また第3幕では背景に馬が数頭、最後まで置かれ、魔の炎はそれらと壁面とに映像で映し出されるアイディア。この炎は絵柄が汚いのに加え、上方からも燃え下がり(?)、壁面を左右に燃え流れ(?)、しかも律儀にスペースを埋めつつ映写されて行くので、少々白ける。まあ、バイロイトでのロザリエの時のように、道路工事のランプみたいなのがカタカタ回りつつ出てくるのよりは、なんぼ好いかわからないけれど。

 深夜のウィーンは、強い雨。傘を広げて、近くのホテル・オイローパに帰る。

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