2024-03

2011・9・13(火)ボローニャ歌劇場東京初日 ビゼー:「カルメン」

   東京文化会館大ホール  6時30分

 今回のボローニャ・オペラ来日公演ほど、主役歌手の交替が相次いだ事件は稀ではないか? 
 サルヴァトーレ・リチートラの交通事故による急逝は何ともいたましく、心から哀悼の意を奉げたい。

 だが、その他の有名歌手の来日中止については、これほど多くの歌手が時を同じくして病気に罹ることなど、普通は考えられまい。しかもうち3人には2~3週間の加療期間とかいう、いかにもその後の欧米での活動再開に支障のない(?)理由が付いているとあっては、何とも見え透いた言い訳と受け取られかねず、むしろ不快な印象をわれわれに与えてしまう因になる。

 まあしかし、そこはそれ、お詫びコメントなどというものは、概して一種の腹芸のようなもの。ここではこうとしか申し上げられませんが、ウラの事情はおわかりでございましょう、何卒よろしくお察し下さい、ということか。
 いずれにせよ、招聘元と主催者の心労は、並みのものではなかったろうと思う。

 さて、この「カルメン」では、当初予定されていたドン・ホセ役のヨナス・カウフマン、エスカミーリョ役のパオロ・ショット、ミカエラ役のアレッサンドラ・マリアネッリが来日しなかった。
 カウフマンはどうせ来ないだろう、というのが業界の予想だったし、さして驚くには当るまい。事実それは早めに発表されていて、フジテレビの公式プログラムにも既に彼の名は載っていなかった。

 それより、代役とはいえマルセロ・アルバレスがホセに登場してくれたことはむしろ歓迎すべきことで、この数年来評判をあげ始めた彼のホセ役をじっくりと観られたことは幸いであった。演出上の打合せがあまりよく出来ていなかったのではないか、と思われるところがいくつかあったものの、とりあえずはまず文句のない舞台といえたであろう。

 一方、最近売り出し中のパオロ・ショットは、昨年のMETデビューたる「鼻」(3月)のコワリョーフ少佐での才気あふれる舞台を見て感心、どんなエスカミーリョを演じてくれるか楽しみにしていたので、これは少々残念。
 代わりに歌ってくれたカイル・ケテルセンは、どこかで聞いた名だと思ったが、ノートをひっくり返してみたら、昨年7月にエクサン・プロヴァンス音楽祭で観た「ドン・ジョヴァンニ」で、レポレッロを歌っていた人だった。
 手堅い人だと思った以外、特に印象はなかったのだが、今回もまず無難な出来である。

 また、ミカエラに代役として登場したヴァレンティーナ・コッラデッティも、少々生硬な歌いぶりだったものの、一所懸命やっていた。

 カルメンを歌ったニーノ・スルグラーゼは、なかなか愛らしい舞台姿だ。
 演出イメージによれば、その場限りの情熱に生きる奔放な悪女でなく、男の力をも借りていっそうの自由を夢見る女性像(プログラム掲載インタビュー)だそうで、それ自体は大変結構である。が、それが的確に表現出来ていたかどうかとなると、未だもう少し、というところか。
 歌も良く歌っており、これに強い個性が加われば、いいカルメンになるだろう。ただ、こういう解釈によるカルメン像は、得てして舞台では地味に見えがちになるケースが多い。

 はからずもそのカルメン像に、ミケーレ・マリオッティ(首席指揮者)の指揮が合致していたとも言える。
 彼のこの作品における解釈は、「暴力的でなく叙情的」(同)な面を浮彫りにすることだというが、それも一つの考え方に違いない。ただ、コンサート上演か、あるいはオペラ映画でならともかく、さまざまな条件が絡む舞台上演で、それで果たしてこの作品の面白さが多くの観客に伝わるかというと、さてどんなものか? 
 第3幕前の間奏曲や、全曲大詰めのカルメンとホセとの対決の場での極度に遅いテンポ、カルメンを殺したあとでのホセの慟哭場面における長い最弱音と大きなリタルダンド、そして全曲における抑制された音楽の表情などを聴いていると、これは全く燃えない、クールな「カルメン」の音楽に聞こえる。
 そして、叙情的な美しさを全面的に発揮するにしても、オーケストラに些か活気と緻密さが乏しい、という問題も絡まって来るのではないか。

 演出はアンドレイ・ジャガルス。
 物語をスペインでなく、1990年代のキューバに読み替えた。第1幕ではカストロのポスターが見え、第2幕のバー「セビリャ」の壁にはゲバラの肖像画が見える。第3幕は、遠景にビル街を望む波止場。エスカミーリョは闘牛士でなくボクサー(!)であり、このため第4幕はスタジアム前の広場ということになる。ミカエラのお仕事は、看護婦のようだ。
 この程度のものは、当節では別に珍しい設定ではないが、要するに問題はその先だ。このキューバ設定が、ホセとカルメンのドラマにおいてどのように生かされているのか、それが明確に描かれていなければ、この読み替えも、単なる目新しさをねらっただけの意味しか持たなくなるだろう。

 興味深かったのは、モニカ・ポルマーレの舞台美術と、ケヴィン・ウィン=ジョーンズ/ジュゼッペ・ディ・イオーリオの照明だ。
 第1幕と第4幕は晴朗な青空の下の場面でありながら、建物も含めて、不思議に白々とした、異様に打ち沈んだ雰囲気を感じさせる色彩である。これはラトヴィア国立オペラの舞台装置だというが、翳りのある色彩はそのためとも思われぬ。偶然かも知れぬが、何か、悲劇的な様相を感じさせるところがミソだろう。
 

コメント

東条先生、こんばんは。ボローニャ歌劇場「カルメン」。私も同じ日に拝見しました。私も、主役クラスが3人交代のせいでリハーサルが間に合わなかったところがあったように感じましたが、音楽としては、良い出来だったと思います。コッラデッティ(ミカエラ)、アルバレス(ホセ)は良い歌を聞かせてくれましたし、カーテンコールでブーイングを受けていたスルグラーゼ(カルメン)も、確かに暗さは微塵もありませんでしたが、演技の艶っぽさはなかなかのものだと思ったのですが。(特に第1幕「セギーリャ」)。悪女に見えないカルメンだったからブーイング受けたのかなぁ・・。
いずれにせよ、問題は演出ですね。舞台をキューバに置き換えた事で、色彩感は素晴らしいものになりましたが、それぞれの役の人物像がまったく見えなくなってしまったように思います。90年代半ばにウィーン・フォルクス・オパーで、舞台をスペイン革命直前のスペインに置いた演出を見た事があるのですが(Guy Joostenという人の演出だった以外、あまり記録がありません。)そのときの衝撃が忘れられず、かなり期待して見に行ったのですが、残念ながら・・・、でした。
それにしても、海外の劇場の引越し公演はリスクが大きいですね。招聘元と歌手との契約がどうなっているのか知る由もありませんが、通常だったらキャンセルした時の違約金条項があるのでは、と思うと、これってひょっとして出来レース?と思っても無理はありません。このままでは、前売りチケットが売れなくなるのは自然の流れです。世界不況と重なって、これからクラシックのマーケットも大変ですね。(今までも大変だったから、一緒、ですか?)

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