2024-03

2012・3・5(月)METライブビューイング ワーグナー「神々の黄昏」

    東劇(銀座)  4時30分

 午後4時半に上映が開始され、終映は10時。
 序幕と第1幕だけで2時間4分、ヴェルディのオペラだったら、これだけでマルマル1作すっぽり納まっている長さだろう。
 だが、長いとは思っても退屈しないのが、ワーグナーの音楽の凄さなのだ。
 しかも映画館で観れば、その間どんな姿勢でいようが、食べようが飲もうが天下御免、というのがありがたい。椅子の作りもいいから、楽だし。

 この「神々の黄昏」は、2月11日の上演の録画である。
 前作「ジークフリート」同様、MET首席指揮者ファビオ・ルイージが指揮している。前作をMETでナマで聴き、そのあと録画上映で聴いた時と同様、ルイージの相変わらずメリハリのない指揮に、聴いていると欲求不満になって来る。
 演奏はたしかに綺麗なつくりになっているし、歌とオーケストラの呼吸も合っているし、それなりの長所も少なくない。
 が、ワーグナー特有のライト・モティーフの交錯の妙味が無視され、ただのまろやかな優しい音響と化していたり、彼の音楽に不可欠な「魔性的なもの」――「巨大で底知れぬ闇」のデモーニッシュな物凄さがほとんど失われているような演奏では、とても「ワーグナーの毒」にどっぷり浸ることは難しかろう。

 近年はとかくこの種の「草食系」か、でなければ極度に体育会系のようなワーグナー演奏が多いが、どっちもあまりいただけない。
 もっとも、今回の演奏にワーグナーの良さが全く出ていなかったかといえば、決してそうではない。ワーグナーの想像を絶した音楽の本来の力は、そのままあふれ出ていた。第2幕のすべて、そして第3幕の後半など――それらは本当に、とてつもない凄まじい音楽である! 何度も聴いている曲にもかかわらず、涙が滲み出るほどの興奮を味わった。

 歌手陣には中堅が多いが、ルイージの歌わせ方も巧いのだろう、総じてバランスのいい歌唱だ。
 ジェイ・ハンター・モリスは、前作におけるよりも格段に進境を示しており、これなら世界のジークフリート役の仲間入りが出来ること確実だろう。
 ハンス=ペーター・ケーニヒのハーゲンはそれほど悪役的なカラーは出していなかったが、歌唱は安定している。またイアン・パターソンは、気の弱い、気の毒なグンターのキャラクターを見事に歌い演じた。ウェンディ・ブリン・ハーマーも、グートルーネ役としてはぴったりだろう。

 ブリュンヒルデ役のデボラ・ヴォイトは、予想を遥かに超えたノリと出来だ。生のステージでは最後の「自己犠牲」にいたって声がへたってしまう歌手が往々にして見られるものだが、この日のヴォイトは声のコントロールが巧いのか、ルイージのオペラ指揮者としての歌手への煽り方が巧みなのか、とにかく最後まで立派に乗り切っていた。

 そして何よりのハイライトは、ヴァルトラウテ役としてヴァルトラウト・マイヤーが登場していたことであった。この人が出て来るだけで、舞台に一種の劇的な緊迫感が漂う。歌唱表現は相変わらず巧みだし、ブリュンヒルデの手にある指環に秘かな執念を燃やす表情など、ちょっとした演技でもドラマに多彩さを注入する力量を備えた歌手なのである。

 ロベール・ルパージュの演出は、前作を観た時までは、単に感覚的な手法の舞台だけかという気もしていたのだが、今回はじっくり見ると、なかなか細かい演技が使われていて楽しめた。音楽のライト・モティーフと演技との密接な関連は、こうした近接の映像で見ると、いっそうその妙味が解る。
 カール・フィリヨンのハイテク舞台装置とエティエンヌ・ブッシェの照明の鮮やかさも、この「神々の黄昏」でついに完成の段階に到達したといえるだろう――とにかく見事だった。映写されるライン河の流れる水、その上に戯れる乙女たちの姿との映像のマジック、グンターがジークフリート暗殺の血に塗れた手を洗うと河の水が真っ赤な血の色に染まる光景――すべからく芸が細かい。

 なお、今回の「案内役」は、パトリシア・ラセット。この人、以前にも何かの作品で案内役を務めたことがあるけれど、インタビューの際の話の切り上げ方がいつも唐突でぶっきら棒で、感じが悪い。
 それに質問が皮相的であり、ルパージュがせっかく、ヴァルトラウテ自身も内心では魔の指環に執着しているのだ――という、ドラマの核心に触れる話をしているのに、全くそれに興味を示さないというお粗末さである。フレミングやヴォイトだったら、もう少し上手いインタビューをやるだろう。

コメント

新宿ピカデリー で、観ました。

<<演奏はたしかに綺麗なつくりになっているし、歌とオーケストラの呼吸も合っているし、それなりの長所も少なくない。>>、映画館で観ると、聴くとそう思います。

やはり、Luisi って、ヨーロッパ圏に居たほうが、良いような。ふくらみのどこかで不足する個性とその長所と短所があるから、Zurichに居ればよかったのに。いろんな人の餌食にならずに、欲出さずに。
もう、しばらくの間ヨーロッパには戻れないかも。

今、ひそかに考えること。ナーにも考えなければ、シアトルの2013年のリング、アメリカ圏で、METよりも、配役がマシ。

大歌手が、居ないのか。世代交代で、自分の志向が変わったのか。

2012/2013シーズンをはずして、ワーグナーを観に行った方がよさそう。VERDIは、行く。歌手の取り合い、が激しいから、シアトル・オペラが、あんなうまいこと考え付くのでしょうね!!(Susan BullockのCOVER歌手から。Stefan Vinke そしてMETの歌手とそのCOVER。 Asher Fischが指揮するからもっと無難)

ヨーロッパ圏のスケジュール、歌手の不満が多くなるでしょうね。もしかしたら。

けど、映画観ていたら、ますます、MET「いいや!!」になってしまう。。。。。。


あくまでも、自分の好み。。


管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

https://concertdiary.blog.fc2.com/tb.php/1318-61f85b9d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中