2024-03

2012・3・28(水)小澤征爾音楽塾 プッチーニ:「蝶々夫人」(非公開上演)

    東京文化会館大ホール  6時30分

 小澤征爾(小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクト音楽監督)の指揮降板により、結局は「公演中止」となった今年の「蝶々夫人」だが、せっかく何ヶ月も一所懸命に練習して来たものをホゴにしてしまうのはもったいない、として、せめて出演者の関係者(家族親戚・知人友人・恋人、etc.)と、それに評論・マスコミ関係者のみを客席に入れて、その成果を見てもらおう、ということになったそうな。

 それでも客席は超満員、補助席まで出ているという盛況なのにはびっくりした。ただし場内あげて、関係者それぞれのグループが賑やかにひしめき合うという状況で、何となく音楽学校の同窓会のような雰囲気もあったが・・・・。
 いくら内輪の公演でも、制作費は同じようにかかるはず。大変な持ち出しではないのか? 例年通り立派なプログラムも出来ていたが、それすらカウンターに「ご自由にお持ち下さい」と並べられていたのが、痛々しく目に映った。

 今回の上演はセミ・ステージ形式だが、障子と居間のセットは体裁の整ったつくりで、「シンプルな舞台装置」と言っても通用する水準のものだろう。
 その手前からオケ・ピットにかけ、かなり大編成のオーケストラ(オーディションで選ばれた若手からなる「小澤征爾音楽塾オーケストラ」)が配置されている。

 歌手の演技はそれなりに行なわれているが、演出が相変わらずあのデイヴィッド・ニースだから、いまさら多くを期待するのは無理だ。
 蝶々さん(アディーナ・ニテスク)が派手に泣きわめいたり、スズキ(エリザベス・デション)が怒ってゴローを殴る蹴るの目に遭わせたりする演技も、いかにもアメリカ人的感覚の演出である。特にスズキを荒っぽく描くのには驚いた。そりゃあ、日本の女性にだってそういうのもいるだろうが、「蝶々夫人」の舞台には合わない。

 指揮はピエール・ヴァレー。小澤のアシスタントをやっている指揮者だ。昨年もサイトウ・キネン・フェスティバルの「青ひげ公の城」を代役で指揮したのを聴いたことがある。その時は、いかにも真面目に正直(?)に「きれいにまとめる」人だという印象にとどまったが、――今回も似たようなものである。

 若手のオーケストラは技術的にも非常に優れており、よく「鳴っていた」ものの、いかんせん表情の変化に乏しく平板に流れるのみで、ただちゃんと演奏しているという段階にとどまる。
 ほんの一例だが、僧侶ボンゾの威嚇のモティーフが愛の二重唱の中や第2幕冒頭の静かな音楽の流れの中に一瞬甦り、蝶々さんの宿命を暗示する個所など、あまりに淡々と無造作に、一本調子に演奏されてしまう。その音楽の意味するところを指揮者や楽員が理解していれば、こんな演奏にはならないはずである。
 もし小澤征爾が指揮していたなら、そのあたり、本能的に音楽に起伏が生れ、もっと劇的になるだろうに――言っても詮無いことだが。

 歌手陣は、ピンカートン役のアレクセイ・ドルゴフ、領事シャープレス役のアンソニー・マイケルズ=ムーア、ゴロー役のデニス・ピーターセン、ボンゾ役のデニス・ビシュニアら、男声の方がサマになっていた。

 小澤音楽監督は、演奏開始直前に1階の客席に入って来て、場内の大拍手を浴びていた。カーテンコールの時には、豊嶋泰嗣らオーケストラ・コーチたちと共に、客席から舞台前に移動し、前列の楽員たちとハイタッチを繰り返していた。
 何しろ小澤さんが出て来れば、観客の目はすべてそちらに集中し、舞台上の指揮者や歌手たちさえ霞んでしまう。彼の存在が如何に大きいか。
 しかし聞くところによると、彼は今回もリハーサルに立ち会って、5分間だか10分間だか指揮してオケを鼓舞したという。これではちっとも「静養」になるまい・・・・。

 カーテンコールの時、私の隣に座って熱烈に拍手をしていた一人の年輩の女性に、あなたはどの出演者の「関係者」でいらっしゃいますか、と尋ねたら、「いえ、私は一般の客なんです」と言う。一般の客?
 詳しく話を聞いたらこうだ――「主催者の方から中止の連絡はいただいていたらしいんですが、なぜか私の電話と繋がらなかったので、中止とは全然知らないでここに来てしまったんです。切符の払戻しはしていただきましたけど、オペラが好きで楽しみにしていたので、がっかりして帰りかけたら、主催者の方がよほど気の毒に思ったらしくて、それならせっかくだから観ていらっしゃい、と言って、この席を下さったんです。何だか宝くじに当ったような気分。すごく愉しかったわ」。
 年輩の女性の顔が、幸せそうに輝いて見えた。よかったですね。これからもオペラに来て下さい。

コメント

2007・3・4 ウィーン国立歌劇場で鑑賞した際、スズキ役はElisabeth kuiman
という歌手で、日本人の所作の美しい演技が未だに忘れがたく思い出されます。
藤田嗣治の舞台装置と衣装が劇場全体を包み込むようでした。蝶々さん役はHui He.小澤征爾氏は当時音楽監督でした。

日本のゴローさん、女性が殴る蹴るなどの行動に走らないよう守ってください・・・

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