2024-03

2012・3・31(土)大阪フィル 「大植英次スペシャルコンサート」

   ザ・シンフォニーホール(大阪)  3時

 かねてから噂のあった、この「ザ・シンフォニーホール」の身売りが、ついに決まってしまった。今秋9月末を以って、朝日放送から(株)滋慶(滋慶学園グループの関連会社)にホールの所有権が移る(但し2013年末までは朝日放送が管理運営)。
 わが国屈指のこの名コンサートホールは、今後どうなるのか。主婦の友社から日本大学へ移されたあのカザルスホールの二の舞にならぬことを願うばかりである。

 もろもろの激動が続く大阪の地で、同市のオーケストラ界の雄、大阪フィルハーモニー交響楽団では、大植英次がこの日を以って音楽監督を退任した。在任最後のコンサートのプログラムは、何とブルックナーの「交響曲第8番」(ハース版)――前任者・朝比奈隆がオハコとした、あの大曲である。

 大植は、音楽監督就任の年の翌年、2004年7月8日と9日に、大阪フィルでこの曲を、同じハース版で指揮したことがある。私が聴いたのは9日だったが――それは故・朝比奈氏の誕生日に当っていた――大植はカーテンコールで故・朝比奈氏の写真を掲げ、氏を偲ぶ意図を明らかにした。
 だが、その時の演奏そのものは、敢えて「偉大な前任者」の影を振り払おうとするような、テンポの変化の大きな、激烈な気魄にあふれたもので、大阪フィルを強引に振り回して自らのペースに引き込もうとする姿勢がありありと感じられたものであったことを記憶している。演奏時間も計80分弱、正味75~76分、という速いテンポだった。

 それにあの時は、第1楽章途中のピアニッシモのさなか、屋外から雷鳴らしき物音が響いて来た想い出がある。実は当日、大阪には雷雨が頻発していたのだが、その物音はまるで、朝比奈さんが「わしもちゃんと聴いておるぞ」と威嚇しているかのように思えたものだ・・・・。

 それから8年。大植と大阪フィルのブルックナーの「8番」は、同じハース版使用ながら、ガラリとその性格を変えた。
 何より、彼らの音楽が、以前には聴かれなかったような落ち着きと風格を滲ませるようになった。
 テンポもぐっと遅めになり、ゲネラル・パウゼも大きく息を整えるように長いものとなった。その結果、演奏時間も計90分、正味87分ほどに達していたのである。

 第4楽章など、8年前の演奏では急加速と急制動を頻繁に繰り返し、慌しい印象を与えたものだが、今回は随分と控え目になり、安定した構築が試みられている。せいぜい、最強奏の大行進曲調の【N】の個所と、コーダの【Ww】から【Yy】の終りにかけての個所などに、以前の名残が聞かれた程度だろう。
 その反対に、「心をこめて荘重厳粛に」と指定された【L】の8小節間で、あたかも立ち止まって詠嘆するかのように大きくテンポを落したり、また弦楽器群のピチカートの上に4本のホルンが寂寥感のある息の長い動機を吹く【P】の個所では、それぞれの最後を極度にリタルダンドしたり――いずれも無理なく、演出くさくなく――したことなどが印象的であった。

 また第2楽章のスケルツォの、ダ・カーポも含めた計4度のエンディングでの力感は物凄かったが、このあたりでも8年前のそれのような強引さと慌しさは消え、どっしりとした意志の強さを感じさせるようになっていたのだ。

 何より圧巻は第3楽章のアダージョで――ここは8年前にも叙情的な美しさを示していたと記憶しているが、今回の演奏の出来は、それを遥かに凌ぐ、まさに傑出したものであった。
 弦楽器群の澄み切った音色、管楽器群の均衡豊かな響き、楽章全体に及ぶ張りつめた緊張感など、見事というほかはない。
 私はこの演奏を聴きながら、大植英次と大阪フィルは、その9年間の共同作業の末に、ついにこの境地にまで到達したのか、という感慨を抑え切れなかった。

 この「第8交響曲」の象徴的存在ともいうべきアダージョ楽章でこのような演奏が実現できたのなら、もうそれだけで大植と大フィルのコンビには、大成功を収めたのだと自ら誇る権利があるだろう。
 大植も、朝比奈が得意としたこの作品において、全く己のやり方を以って成功を収め、かつ大阪フィルを全く己のやり方で自らの手中に収めたと言っていいだろう。

 カーテンコールは20分以上続いたが、そのうち最初の10分間は、大植と楽員との交流を含む挨拶。そのあとは大植のソロ・カーテンコールだ。彼はまた客席に降りて来て聴衆との握手を繰り広げたが、驚くべきことに、ホールの聴衆1700人のほとんどが最後まで残って彼に拍手を贈っていたのだった。
 思えば、あの音楽監督就任後最初の定期(2003年9月18日)のカーテンコールで、彼がタイガースのハッピを羽織って飛び出して来た光景など、つい昨日の出来事のようである。

 大阪フィルにおける「Age of Eiji」は、こうして華やかに終りを告げた。

コメント

東条先生、お疲れ様です。

ブル8は、大植さん、大フィル両者の成長と進化を高らかに示すような見事なものでした。

演奏前に、プログラムに掲載された御高論を拝読し、先生の冷静なれど温もりのあるまなざしに胸が熱くなりました。
我々関西のファンが見て聴いて感じてきたことを、この上なく適切に文章にしてくださったように思います。

我々関西人にとって、シンフォニーホールは誇りであり、大植さんはようやく関西の地に降り立ってくれたまさに天孫でした。
その二つの宝を失うかもしれないという現実を前に、なんともやるせない気持ちになっています。

大阪では長い歴史を誇る大阪市音楽団の解体問題がでてきて、いよいよ大変な状況になっているようです。クラシックは東京にだけあればいいというものではないはずですし、教養と言う意味で西洋を理解するためには欠かせない教養の筈ですがどうなってしまうのか。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

https://concertdiary.blog.fc2.com/tb.php/1345-06470008
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中