2024-02

2012・6・7(木)パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送響のブルックナー「8番」他

    サントリーホール  7時

 今回の来日では、マーラーの「5番」とブルックナーの「8番」が目玉だったが、――私は、マーラーの方は聴いていない。

 重度のブルックナー・マニアを自認する私としては、好きな「8番」が、パーヴォの手でどのように料理(?)されるか、それをとにかく聴いておきたいと思ったので、こちらを選んだ次第であった。
 だが、マーラーを聴いた人々が演奏を絶賛、興奮を口々に伝えてくれるのを聞くと、そちらも聴いておけばよかったなと、内心シャクに障っているのは事実である。

 といって、その「ブル8」が、悪い演奏だったというのでは決してない。
 ブルックナーでは、パーヴォがウィーン古典派の作曲家やシューマンの作品を指揮する時に見せるあの大胆不敵な解釈が、抑制されていた。テンポの振幅にも極度の誇張はなく、彼としては著しくストレートなアプローチだ。
 オーケストラの力感は、ある程度引き締められながらも充分に発揮されており、厚みのある巨大な音塊が豪壮にうねりながら進んで行く。

 前半の2楽章と、後半の2楽章とがそれぞれ、ほとんど切れ目なしに演奏され、「静」から「動」へという有機的な関連性がつくられていたが、この発想は、この曲の場合、珍しいだろう。
 なおアダージョ楽章は極度に遅いテンポだったが、他の3つの楽章が比較的速いテンポで構築されていたため、演奏時間はほぼ75分という短いものになっていた。こういった特徴は、先頃CDで彼の指揮する「5番」を聴いた時、ある程度予想はされたものではあったのだが――。

 では、何が気に入らなかったのか。これも、単なる私の好みで言っているに過ぎないのだが、第一に、エネルギー性優先のスタイルで演奏されたために、この交響曲の持つ荘重な高貴さ、静寂の美しさ、並外れた巨大な風格がほぼ失われてしまっていたこと。
 第二には、これも力感優先の所為だろうが、響きと音色が著しく混濁してしまい、作品に本来備わっている透明さと清澄な美しさとを欠く結果になったこと。
 つまり、ありていに言えば、何だか騒々しくて落ち着きのない「ブル8」だったな、ということなのである。

 といって私は、どんな曲でも、固定のイメージに当てはめて聴くという姿勢は持っていない。
 所謂「宗教性」から解放されたブルックナー受容という考え方には大賛成だし、しんねりむっつりのブルックナー演奏がいいと言っているのでもない。シューリヒトが言った「ブルックナー演奏では、テンポを大きく変えてはいけません」というアドヴァイスを信奉しているわけでもない。この「8番」から――「9番」のような――何か魔性的な激しさを引き出そうとする試みも、悪くはないだろう。

 だがいずれにせよ、情熱一本槍の演奏は、この「8番」には似合わない。パーヴォはプログラム掲載のインタビューの中で、「8番はブルックナーの性格からは遠くかけ離れています」と述べているが、これは私には全く共感しかねる見解である。

 客席は満員だったが、いつも飛ぶべきブラヴォーの声は、かなり少なかった。ピアニストのOさんから聞いた話だが、このオケに参加して来日した友人の奏者は「今日(ブルックナー)のあとの拍手の量は、一昨日(マーラー)の時とはちょっと違っていたね」(つまり、あまり熱狂的ではなかった)と言っていたそうである。首をひねったのは、私だけではなかったらしい。

 この日のプログラムの前半は、ヒラリー・ハーンがソロを弾いた、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」だった。この曲で風格を感じさせる演奏を聴くなどということは滅多にない。が、今のヒラリーは、それをやってのけるのである。
 第3楽章の最後、第232小節のフォルティシモの最高音にいたるあたりのクライマックスで、かつてチョン・キョンファが渾身の情熱の高まりを聴かせた演奏が今でも脳裡に刻まれているが、今夜のヒラリー・ハーンは、そこで並外れたスケールの大きな演奏を繰り広げ、「圧倒的なメンデルスゾーン」を聴かせてくれたのだった。この人は、聴くたびにますます凄いヴァイオリニストになって行く。

 ソロ・アンコールに彼女はバッハの「無伴奏ソナタ第2番」から2曲を弾いたが、リサイタルならともかく、オケのコンサートでソリストが2つもアンコールを演奏するのは、いくらなんでも多すぎる。ただしこの日のヒラリーの場合は、その演奏が驚異的な求心性と放射力を兼ね備えた凄いものだったので、聴衆も楽員も息を止めて聴き入ってしまい、否応なしに呪縛されてしまったわけで。しかしやはり、オケを待たせたままの2曲というのは、基本的には「やり過ぎ」である。
 あとから考えると、彼女に贈られたブラヴォー(ブラーヴァ)の声は、ブルックナーのあとのそれより、遥かに多かった・・・・。

コメント

東条先生、こんにちは。
私はこの日、H.ハーン目当てでしたので、前から2列目で聴いていました。ブルックナーの演奏に関して、私もあまり感心しなかったのですが、それは席のせいかと思っていました。(サントリーホールの前のほうの席は、大編成オーケストラを聴くにはちょっとつらい・・・)
でもそれだけではなかったようですね。丁寧に演奏された第3楽章の弦楽器(特に中低音)のアンサンブルの迫力には満足させられましたが、全体としては、構成感に欠ける、どこに向かおうとしているのかがはっきりしない演奏に聞こえました。2008年にこの組合せで来日したときのブルックナー第7番の演奏が素晴らしいと感じたのと比べると、少し残念です。ヤルヴィさん、忙しすぎて芸風が荒れてくるようなことがないように祈ります。
H.ハーンはまだ少女(?)のころから注目していましたが、今回、ずいぶん大人になって、表現に余裕とやさしさが出てきたのがとても喜ばしく感じました。
実は、メンデルスゾーンがあまりに素晴らしかったので、前半だけで失礼しようかとも思ったのですが、その方が良かったかもしれませんね。

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パーボのマーラー5番

マーラー5番、あまり感心しませんでした。 音だけは豪快になりましたが、
繊細さに欠けがっかり。 パーヴォだから、なんでもブラボーはいけません。
もっと良い演奏あります。 例えば、日フイルのインキネンは上岡敏之・ヴッパタールの同じ曲の演奏の方が良かったです。

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