2024-02

2012・10・11(木)あらえびす記念館(岩手県紫波郡紫波町)訪問記

 ちょっと時間が空いたので、「野村胡堂・あらえびす記念館」を訪れてみた。

 わが国の音楽評論界の大先達として業績を残した「あらえびす」。
 本名は野村長一(1882~1963)、報知新聞の記者として調査部長兼学芸部長などを務めた人だが、その一方「野村胡堂」の名で「銭形平次捕物控」などの小説を書いた人でもある。

 私は「銭形平次」の方はTVドラマを通してしか接していないが、「巌窟の大殿堂」とか「地底の都」といった彼の手になる少年少女小説は小学校の頃に読んで夢中になったものだし、まして「樂聖物語」や「名曲決定盤」などの音楽書は、私にとってはバイブルのような存在だった。
 特に「樂聖物語」は、私にレコードの素晴らしさを教えてくれた本であった。
 また、「音樂を愛するが故に、私はレコードを集めた。それは、見榮でも道樂でも、思惑でも競争でも無かった。未知の音樂を一つ一つ聴くことが、私に取っては、新しい世界の一つ一つの發見であった」という書き出しで始まる「名曲決定盤」は、音楽を愛する情熱とは何と素晴らしいものかということを、教えてくれた本でもあった。
 あらえびすの、あの新聞記者らしい歯切れのいい文体と表現とは、今も私の憧れである――。

 記念館は、彼の生れ故郷、岩手県の紫波郡紫波町にある。
 東北新幹線の「はやて」に乗れば、東京駅から盛岡駅まで僅か2時間27分。便利になったものだ。そこから東北本線で24分、日詰という駅で降り、タクシーで5分ほど行けば着いてしまう。
 予想以上に大きな、立派な建物である。広大な展示室には文筆関係の膨大な資料が展示され、2階には彼の膨大なレコード・コレクションの一部と、同好の士たちから寄贈されたものを含む各種の蓄音機が展示されている。

 前記の展示室に隣接して、2、3百人は収容できそうな広いホールがあり、タンノイのウェストミンスターとカンタベリーのスピーカー、古いヴィクトローラの大型蓄音機、ピアノなどもある。ここで定期的に演奏会やレコードコンサートが行なわれており、特にSPレコードのコンサートは大変な人気を呼んでいるそうだ。
 私も館長の野村晴一氏からそのヴィクトローラでSPレコードを聴かせていただいたが、針音を越えて聞こえてくるその音の良さと味わい深さは、筆舌に尽しがたい。SPはCD復刻などでなく、SPそのものをSPに合った装置で聴いてこそ、最高の効果を発揮するのである。

 その他、野村胡堂の幅広い政財界の交遊を物語る資料の展示室もある。
 自ら「私は音樂家でも音樂批評家でもない。新聞記者であり、小説家である・・・・私は努めて音樂愛を語り、レコード愛を語る。議論や理屈は極力避けた積りだ。それは私の柄ではない」(名曲決定盤)と任ずるあらえびすの多彩な活動の模様が一目瞭然である。彼に興味を持つ者にとっては、立ち去り難いほどの気分になるだろう。
 大正天皇の奉葬の際の、報知新聞の第一面トップの報道記事が「野村胡堂」の署名入りで書かれていることを知り驚嘆したのは、そこに掲げられている新聞の拡大コピーによってだった。
 ちなみにこの記念館は、紫波町が中心になって運営されている由。賞賛されるべき文化政策である。

 余談だが、せっかく「はやて」に乗ったからには話の種にと、大奮発して片道だけ例の「グランクラス」の車両に乗ってみた。1列が2-1という3席ずつの車内、噂どおり椅子は豪華なもので、飛行機のファーストクラスのそれ(詳しくは知らないけれど)に匹敵するだろう。軽食も出る。超快適であることは間違いない。
 ただし、窓は小さく、窓枠が厚く、椅子の肘掛も立派なので、窓までの距離は数十センチもあり、外の景色はほとんど見えない。外界からは隔絶された世界だ。私のように窓辺に倚って、移り行く窓外の景色を愉しみ、旅気分に浸りたいという好みの人間には、さして面白くはない車両である。

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