2024-03

2013・2・16(土)MET ヴェルディ「リゴレット」

   メトロポリタン・オペラ  マチネー 1時

 これも今シーズンの新制作の一つ。マイケル・メイヤーの演出、クリスティーン・ジョーンズの舞台美術、時代設定を1960年代のラスヴェガスにしたアイディアで話題を呼んでいるプロダクション。
 指揮がミケーレ・マリオッティ、リゴレットにジェリコ・ルチッチ、ジルダにディアナ・ダムラウ、マントヴァ公爵にピオトル・ベチャワ、スパラフチレにステファン・コチアン、マッダレーナにオクサナ・ヴォルコーワ、他。

 今日は「ライブビューイング」の本番とあって、アーティストたちもとりわけリキが入る。放送がある日は、演奏水準も高い。特にテレビが入れば、演技にも熱が入るだろう。METで最高の上演に接しようと思うなら、こういう日を選ぶに限る。今日の歌手陣も全員が充実した歌唱と演技を示してくれた。

 特に気を吐いたのがベチャワで、聞かせどころが多いというトクもあるけれど、歌も派手に決め、客席から歓声や口笛が盛り上がる(口笛だけは私は大嫌いだが)。
 ダムラウは可憐なジルダとして大成功。ルチッチは重くて暗い、地味系リゴレット。
 彼らに劣らず、準主役2人も受けた。コチアンは第1幕での引込みの際の「スパラフチレ」の一言を、凄味のあるよく響く最低音で思い切り長く伸ばしてみせ、客席を爆発的に沸かせてしまった。
 一方ヴォルコーワの方は、歌はともかく、見事なボディと衣装で拍手を浴びる。

 指揮のマリオッティは、すこぶる穏健、各幕の頂点でもさっぱり盛り上がらないのが難点だ。激怒したリゴレットの「悪魔め、鬼め」の前奏が爆発する瞬間や、彼とジルダとの「復讐だ!」の二重唱の個所など、ここぞという音楽の聴かせどころにさえ、全く凄味が生れないのである。だがまあ、それさえ除けば、全体としては無難な出来、というところだろうか。

 話題の舞台は、ド派手だ。実際のラスヴェガスがどんなものであるかは知らないけれども、第1幕第1場はネオン輝く屋内の賭博場。両側にはエレベーターがあり、いちいち階の標識灯が点いてドアが開く、という芸の細かさ。
 マントヴァ公爵はマイク(偽物)を持ち、女に囲まれて「あれかこれか」を歌う。
 夫人を公爵に寝取られて激怒するモンテローネ伯爵(ロベルト・ポマコフ)がアラブ人の扮装という設定は奇抜だろう。

 同第2場は、最初のうち場所はそのままで、人々がいなくなったあともバーで独り黙って飲んでいた男が振り向き、リゴレットに声をかける――それが殺し屋スパラフチレだ。
 第3幕におけるこの殺し屋の家には高級乗用車があり、ジルダは「殺されて」そのトランクに押し込められる。――殺し屋はこんなクルマを放置したまま逐電するわけだが、なんせ金持の街ラスヴェガスだから、クルマなんぞ惜しくないのだろう。

 殺し場の演出は惨酷だが、コチアンが実に巧く決めているのと、嵐の稲妻が背景のネオンの点滅で描写される可笑しさで救われる。ただし第2幕最後でモンテローネ伯爵がオタオタした挙句、背後から射殺されるというのは、衣装がアラブであるだけに、政治的なニュアンスもあるのか? ジルダはそれを眼前に見ていながら、それでも父リゴレットに、公爵への復讐を思い止まるよう哀願する。これはちょっと筋が通るまい。

 しかしこの「リゴレット」、細かいところは別として、娯楽作品という視点から見れば、視覚的にもよく出来ているプロダクションと言えようか。詳しくは映画館での「METライブビューイング」を観られたい。とにかく幕が開けば必ず、その奇抜な光景に笑い声や拍手が起きるという舞台だ。不景気な世の中の鬱陶しさを吹き飛ばす意味でも、いっとき愉しめるだろう。
 METの最近の新演出ものには比較的シリアスなものが多いが、これはお笑い分野の代表作だ。このオペラに人間的な苦悩や哲学を捜し求めたいという高級な(?)お方には向かないかもしれない。4時20分終演。

 ところで、最近はテレビ中継「METライブビューイング」の派手な展開のおかげでやや影が薄くなった感じだが、数十年の歴史を誇る土曜日午後のラジオ生中継番組は、今でも健在のようで、祝着である。これは私もCS-PCM放送「ミュージックバード」の「クラシック7」チャンネル編成を手がけていた時代に、今世紀初めの数年間、METから輸入して放送していたことがあるので、今でも何となく愛着を感じている。
 この番組では、休憩時間の一つに「メトロポリタン・オペラクイズ」という公開番組が、ロビーから1階降りたところにある「リスト・ホール」(200人ほどが入る)で行なわれるのだが、今回、懐かしくなって覗いてみた。
 入り口の小さなロビーにはTVがあり、折しも「ライブビューイング」が生放送中だ。ホールに入ると、そこでも最初のうちTV中継の音声が流れていて(これはラジオに失礼だろう)、やがてラジオ中継に切り替わり、進行役のマーガレット・ジャントウェイトのアナウンスから中継がホールに切り替わると、公開クイズ番組が始まる。
 今日はゲストにバルバラ・フリットリが出演しているとあって、会場も華やいだ雰囲気だ。彼女と、司会のケン・ベンスンが出すオペラのクイズに、パネラー3人が答える形式。僅か15分ほどの番組だが、パネラーも、客も、みんな実によくオペラのことを知っている。
 それにしてもMETは、本当にメディア展開が盛んである。

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