2024-03

2013・12・1(日)トリノ王立歌劇場 ヴェルディ:「仮面舞踏会」

   東京文化会館大ホール  3時

 3年前の7月に「ラ・ボエーム」と「椿姫」の2作で素晴らしい上演を提供してくれたジャナンドレア・ノセダ(音楽監督)率いるトリノ王立歌劇場が2度目の来日公演。
 今回の「仮面舞踏会」はロレンツォ・マリアーニの演出で、総督リッカルドにラモン・ヴァルガス、秘書レナートにガブリエーレ・ヴィヴィアーニ、その妻アメーリアにオクサナ・ディカ、という主演陣である。

 前回の来日の際にも感じたことだが、このトリノ・オペラのオーケストラは、ノセダが心血を注いで鍛えただけあって、しっとりと瑞々しい、透明で清澄な弦の音色が印象的だ。ノセダもまた、持ち前の均衡を重視した緻密な指揮で、「仮面舞踏会」の音楽の叙情的な要素を浮き彫りにし、力み返った激しさを強調することなく、自然体の美しさで押して行く。
 
 たとえば第2幕の幕切れで、暗殺団の声が遠く闇に消えて行ったあとに突如オーケストラが激しく盛り上がって終結するくだりなど、ノセダはその上昇して叩きつける数小節を、驚くほど柔らかく、流れるように立ち上げるのである。
 また彼は、他の指揮者がやるような「矯め」をあまり使わない。第3幕の有名なレナートのアリアの、「Eri tu・・・・」の直前に置かれたオーケストラの息づまる総休止も、ごくあっさりしたものである。暗殺者たちがクジで総督暗殺を決めるあたりも、ものものしい描き方にしない。それゆえ、音楽とドラマの生々しい情熱のスリル感は薄まって来るだろう。
 しかし、ノセダのつくる音楽は――BBCフィルとの演奏でも示されている如く――もともと極度に起伏が大きいので、たとえ流麗なスタイルであっても、そのスケールの大きさを失わせることはないのである。

 今回の演出では、場所の設定は現行のト書き通り、アメリカのボストンに設定されていたようだ。だがこれが原案通りのストックホルムになっていたとしても、その場合は歌詞が違うだけで、今回のような抽象的な装置の舞台には関係ないことだろう。
 マリアーニの演出は、第1幕冒頭、拳銃を構えた黒服の暗殺団を乱入させることにより、ドラマのテーマを一気に象徴して見せる。ただ、それだけなら特に目新しい手法でもなかろうが、その暗殺団と、あとから入って来た他の「リッカルド崇拝」グループの人々とが前後に1列に並んだ形で合唱に入るところは、2つの集団の歌が対比される形で書かれているこの合唱の性格を視覚的に表わす意味でも当を得たものだという気がする。

 舞台は、マウリツィオ・バロの舞台装置とともに、シンプルなつくりだ。渋く冷たく暗い色調で統一され、最後の仮面舞踏会のシーンで突如として赤い色調が一面に拡がる。華麗だが、その色はどぎつく、けばけばしい。いうまでもなくそれは、血の象徴でもあろう。
 だが、人物の演技そのものは、やはりイタリア・オペラの定型に近い。妻に裏切られたと信じこんだレナートが、上司たるリッカルドの肖像画の前で「俺の妻を汚したのは貴様だった」と怒りに燃えて歌う時、彼はその肖像画を指さしたり、睨みつけたりはしない。肖像画はリアルなものではなく、彼を支配している男の象徴的存在である、というわけだろうが、このあたりがドイツのオペラ演出と大きく異なるところだろう。

 歌手。ヴァルガスはあの愛敬あるマスクのせいもあって、善人そのものの温かい心の総督像に描かれる。まあ、彼のキャラだから、それはそれでいいだろう。
 ディカは長身の女性で、声の綺麗さはノセダとオケの透徹した音色とよく合う。ヴィヴィアーニ(レナート)は手堅い歌唱だが、「上司の裏切り」に遭い、嫉妬のために道を誤る悲哀の主人公としては、もう少し陰翳のある性格描写が欲しいところである。

 小姓オスカルを市原愛が演じて健闘していたが、あの軽快なコロラトゥーラにあとほんの少し・・・・「1ミリほどの」音程の正確さがあれば文句なかっただろう。
 素晴らしかったのは、占い女ウルリカを歌い演じたマリアンネ・コルレッティだ。カーテンコールで一番拍手を浴びたのは、彼女だった。ほかに刺客サムエルをファブリツィオ・ベッジ、同トムをホセ・アントニオ・ガルシア、といった人々が脇を固めていた。

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