2024-03

2013・12・2(月)トリノ王立歌劇場 プッチーニ:「トスカ」

   東京文化会館大ホール  3時

 こちらはジャン・ルイ・グリンダの演出。歌姫トスカにノルマ・ファンティーニ、画家カヴァラドッシにマルセロ・アルバレス、警視総監スカルピアにラド・アタネリという配役。ジャナンドレア・ノセダ指揮、トリノ王立管弦楽団・合唱団。

 冒頭、音楽なしの映像でトスカが聖アンジェロ城から身を投げる幻想的な光景が写され、観客の衝撃感のさなかに、轟然たる「スカルピアの動機」の音楽でオペラの本編が始まるという仕組だ。
 この冒頭の映像が、ラストシーンと結びつく。第3幕はもちろん、大天使の像が聳える城の屋上だが、最後にこの舞台装置(階段と城壁)がグルリ一転して、あたかもトスカが立つ姿をわれわれが城の外側から見るような視覚に変わる。舞台が急激に暗転し、下りて来た紗幕に再び前述の映像が映る。トスカが身を投げ、恰も空中を飛ぶようなイメージを感じさせたのは、「わが身を解放した」彼女を描くつもりかと一瞬思わせたが、最後のほんの1秒間の裡に恐ろしい勢いで迫って来る地面が見え、それがぱっと消えて暗黒となり、音楽も終る。投身した人間が最後に見るのはこういう光景なのか、と慄然とさせられる惨酷な終結であった。シンプルな舞台美術(イザベル・パルティオ=ピエリ)ともども、グリンダの演出は、すこぶる才気にあふれている。

 ただ、第2幕冒頭の合唱は紗幕の向こう側に姿を見せながら歌われるので、ただでさえ強大な合唱の音量が更に大きくなり、スカルピアと、連行されて来たカヴァラドッシらの緊迫した応酬さえ聞こえなくなるのはいかがなものか。ここはスカルピアが「うるさい、窓を閉めろ」と命じるほどのところだが、やはり一般の上演のように舞台外からの方が音楽的には妥当なのではないかと思われる。

 舞台上での登場人物の演技は、やはりイタリア・オペラの定型に近い。
 私が興味を持っているのは、第3幕でのカヴァラドッシの演技だ。彼はスカルピアの「見せかけの処刑による特赦」を、本当に信じていたのか? 
 どこだったか東欧系のオペラ団が来日した時、カヴァラドッシはトスカが持って来た通行証を見た瞬間から、あの惨忍極まるスカルピアが「そんな甘い」ことをするはずはなく、自分を本当に処刑する気であることを既に察知し絶望している(当然、彼はそのような過去の例を噂で知っていただろう)が、ただ無邪気に喜んでいるトスカを悲しませるに忍びず、表面上は彼女に調子を合わせてみせる・・・・という演出が行なわれていて、これは実に適切な解釈だな、と感心したことがある。
 今回のグリンダによる演出は、そこまではやっていないけれども、カヴァラドッシがスカルピアを信用せず、処刑寸前まで半信半疑でいるという設定にはされている。このあたりは、アルバレス(カヴァラドッシ)の表情豊かな演技と歌で充分に描き出されていた。

 ノセダの指揮は、昨日の「仮面舞踏会」同様、むしろ軽やかで、透き通った美しさを感じさせる。あの「スカルピアの動機」も、惨忍におどろおどろしく響くことはなく、何か一種の幻想的な物語の出来事のように流れて来る。ヴェリズモ・オペラ特有の扇情的な激烈さも、濃厚な色彩による誇張もほとんどない音楽づくりだ(舞台のシンプルさとはよく合っていただろう)。

 ただしそれは、彼の指揮にドラマティックな迫力が欠けているという意味ではない。第2幕でのスカルピアとトスカの応酬場面や、第3幕でのトスカがカヴァラドッシの死を知る前のあたりでの緊迫感は、見事なものであった。ノセダはもともと、コンサートの時にはオーケストラをいっぱいに鳴らす人で、シンフォニックな音楽に長けている人なのだが、この第2幕のクライマックス個所のような、本当にドラマが切迫した場面では、それこそオケの音量を凄まじい大きさにまで上げる。このあたりの音楽の起伏の巧さが、ノセダの身上ともいうべきものであろう。

 歌手。題名役のファンティーニは容姿も美しいし、声も美しい。第3幕で恋人相手に自由への喜びを歌うところなどでは思い切り(どうしちゃったのかと思うほど!)声を延ばすようなこともあったが、その役柄を華麗に演じていたことはたしかであろう。
 アルバレスは、声といい、演技といい、もう理想的な存在である。
 アタネリは、その風貌から言っても、見るからに野卑で卑劣な悪役スカルピア、といったイメージに演じたりはしない。見かけは知的な男というイメージで、それも解釈の一法かもしれない。ただ、第2幕での、悪の本性をむき出しにする場面では、もう少し惨忍な男のイメージがあってもいいだろう。

 他に、投獄された執政官アンジェロッティをホセ・アントニオ・ガルシア、堂守をマッテオ・ペイローネ、刑事スポレッタをルカ・カザリン、憲兵シャルローネをフェデリコ・ロンギら。
 なお第1幕での子役の合唱と演技はTOKYO FM少年合唱団。第3幕の牧童役はそのメンバーの1人、寺尾優汰が歌っていたが、これも大健闘であった。
     ⇒音楽の友2月号

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