2024-02

2013・12・26(木)METライブビューイング「ファルスタッフ」

   歌舞伎座  6時30分

 都内の映画館ではいつも東劇(銀座)と新宿ピカデリーで上映されている「METライブビューイング」が、今回はめずらしく歌舞伎座で上映された。
 初期の頃は旧歌舞伎座や新橋演舞場で上映が行なわれていたこともあるし、このシリーズの配給が松竹だから、別に不思議はないのだろう。「歌舞伎座新開場記念」と銘打たれており、1回だけの上映だそうである。

 なにしろここは、内装外装ともに華麗な劇場だ。平土間もほぼ満席とあれば、賑やかな雰囲気になる。映画でありながら客席には拍手や笑声もあふれ、盛り上がった。地味な雰囲気の映画館で数十人規模の観客が押し黙って観ているだけのいつもの上映とは、全く違う明るさがある。
 大勢の観客が一つの場所で感動を共有すれば、ある種の連帯感も生まれて来る。終映後のロビーの光景は、オペラ映画にもこれだけ沢山の人が来るんだ――という何よりの証拠だろう。

 今回のヴェルディの「ファルスタッフ」は、12月14日にメトロポリタン・オペラ(MET)で上演されたものだ。
 映像冒頭にはMET総裁ピーター・ゲルブ御大みずから登場し、「歌舞伎座でご覧になっている皆さんへの挨拶」として、「METとギンザの距離を縮める」とか「日本の優れた伝統芸術カブキが上演されるカブキザで私たちのオペラが上映されるということは」などという話をあれこれやって、最後には日本語で年末の挨拶をするという大サービスを見せた。客席からは拍手。
 案内役はルネ・フレミング、例のごとく陽気で華やかで達者な切り回しぶりである。

 指揮は音楽監督ジェイムズ・レヴァイン、2シーズンぶりの復帰とあって、MET観客から大拍手を浴びていた。車椅子利用のため、カーテンコール時にもピット内に板付きのままだが、とにかく元気になって復帰したことは祝着の極み。
 
 主演歌手陣は、ファルスタッフをアンブロージョ・マエストリ、アリーチェをアンジェラ・ミード、クイックリー夫人をステファニー・ブライズ、メグ・ペイジをジェニファー・ジョンソン・キャーノ、ナンネッタをリゼット・オロペーザ、フェントンをパオロ・ファナーレ、フォードをフランコ・ヴァッサッロ。
 マエストリも相変わらず闊達だし、登場人物がみんな明るく、生き生きと躍動しているのが楽しい。だれやらが言った「人間賛歌」にふさわしい舞台である。ただし、今回の「ウィンザーの陽気な女房たち」のみなさんは、いずれもファルスタッフを凌ぐほどの威風堂々たる体格。そういう彼女らがファルスタッフを「デブ、大食い、ビア樽、椅子壊し」などと罵っているのは、なんとなく妙なもので・・・・。

 演出はロバート・カーセン。METとしては半世紀ぶりの新演出になるという。舞台を1950年代に設定している由。衣装や小道具など、なるほど言われてみればそういう雰囲気だ。
 演出そのものは極めてストレートだが、場面設定には趣向が凝らされている。ト書きの「フォード邸の庭先」(第1幕第2場)はレストランに変更、また「ガーター亭の一室」(第2幕第1場)は紳士社交クラブに、「フォード邸の居間」(第2幕第2場)はTV料理番組のセットのようなキッチンに、「ガーター亭の前」(第3幕第1場)は馬小屋の中に、といった具合だ。それらがすこぶるサマになっているのがいい。なかなか愉しい雰囲気である。
 ポール・スタインバーグの舞台装置もなかなか機知に富んだもの。カーセンとピーター・ヴァン・プレートが担当している照明も、「ウィンザーの森」の場面では、実に巧い使い方になっていた。

 なお、レヴァイン復帰はめでたしめでたし――には違いないが、オーケストラの演奏がやや粗っぽいのが気になる。
 第3幕第1場でファルスタッフが歌う「行け、老いたるジョン」の後半など、次第に昂揚して行くはずのオーケストラが物足りない雰囲気のままで済んでしまったことや、同第2場後半でヴェルディがこのオペラで「久しぶりに」披露するあの最高に美しい旋律――「この腹だけはお助けを」と哀願する個所、および新婚カプルが紹介される場面――でのカンタービレがほとんど効いていないことなど、レヴァインらしからぬ指揮、というべきだろう。必ずしも録音のせいとも思えない(この歌舞伎座の再生音響そのものがあまり良くないのは確かだが)。
 彼は今シーズン、このあと「ヴォツェック」と「コジ・ファン・トゥッテ」を振る。調子を取り戻してくれることを祈る。

 このプロダクションは、ロイヤル・オペラ、スカラ座、カナダ・オペラ、ネーデルランド・オペラとの共同制作。上演時間は約3時間。

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