2024-03

2008・5・10(土)旅行日記第2日
バレンボイム指揮 ブゾーニ:「ファウスト博士」

  ベルリン州立歌劇場

 今年のPHINGSTTAGEのリストには、昨夜の演奏会と、オペラとしては「ファウスト博士」「ドン・ジョヴァンニ」「トリスタンとイゾルデ」がクレジットされている。「トリスタン」は、日本にも持ってきた、以前のクプファー演出のプロダクションが選ばれている。2006年春にプレミエされた新しい方(バッハマン)はよほど評判が良くないらしい。たしかに、あんなつまらない舞台は見たことがないくらいだ。その他の2つは、この劇場のインテンダント、ペーター・ムスバッハの演出である。

 そのムスバッハ演出による「ファウスト博士」は7時から。
 2006年12月当劇場プレミエ、1999年ザルツブルク音楽祭プレミエとクレジットされているプロダクション。舞台美術はエーリッヒ・ヴォンダー。
 今回上演されたものは、ザルツ版に比べ、舞台の横幅こそ短くなってはいるものの、その他は(覚えているところは)ほとんど、あの時と同じだ。たとえば、精霊たちが体から火を噴きつつ舞台を横切っていく場面、兵士が日本の赤い鎧兜に身を固め、日本式のチャンバラをやる場面、舞台が割れてファウストが雪の中に沈んで行く場面、ラストシーンの雪の遠景に、微かに電線と電柱が見えるところなど。
 しかし初めて見る観客たちは、薄汚い採掘場のような序幕で、背中や頭が燃えている精霊どもが歩いて行く光景に驚いたであろう。メフィストフェレスはトロッコに乗って出て来る。パルマ公爵邸での宴会の場面は白塗りの顔をした非人間的な集団がマリオネットのように動くが、魔術で古代の人間どもが出現する場面では特にケレンはない。
 
 最後はファウストが幼児の亡骸を抱いてゆっくりと遠景に遠ざかり、入れ替わりにメフィストフェレスが前景に近づいて来る印象的な場面で閉じられるが、ここではファウストを歌ったロマン・トレケルの背中の演技が見事であった。しかしト書きにあるような、裸の少年がファウストに代わり立ち上がり、街の方角へ歩いて行くという設定は行われていない(ザルツ版ではその光景があったようにも思うが、はっきりした記憶がない)。

 総じてこの演出、改めて観ると何か鮮度と緊迫力に不足するように感じられるのは、やはり出来が今一つなのだろうか、それとも再演演出の手際に欠けているのだろうか。二度観たためではあるまい。何度観ても面白味を失わない演出だってあるのである。トレケルがさほど好調とも思えず、他の歌手たちにも個性が不足していたからということも考えられるが、この種の舞台ではそれはさほど大きな要因とも思えない。

 劇場音楽総監督バレンボイムの指揮には、序奏などではこの作品に欠かせない「闇」を感じさせる音色があって期待を持たせたが、3人の悪魔の学生の登場場面や、魔術で精霊が次々に現われる場面などでのテンポには何故か持って回ったところがあって、音楽そのものの緊迫感と不気味さは激減した。
 休憩後の主幕に入ってからのパルマ公爵邸場面以降はやや持ち直したが、最後の雪の場面でファウストが自ら破滅を受け入れる儀式を行うあたりの暗さ、不気味さといった音楽が全く生かされていないのには落胆させられる。
 バレンボイムとムスバッハは最近仲が悪いらしいから、こんな演奏になるのか? まさか。

 いずれにしても、こういう味も素っ気もない演奏には苛々させられる。特に、かつてフェルディナント・ライトナーが指揮(フィッシャー=ディースカウがファウストを歌っていた)したレコードにおける、ぞっとするような暗黒の魔性、圧迫感、終焉の恐怖に満ちた演奏が残っている耳には。
 使用楽譜はヤルナッハ版と聴き取ったが、あとでプログラムを見たら、やはりそう書かれていた。この版の方が短いから、楽なんでしょうね。ただ、序幕でワーグナーが3人の謎の学生の来訪を告げたあとの、ファウストが一旦断りかける個所がカットされていたように思えたが、確信はない。

 メフィストフェレスを歌ったジョン・ダスザックが、何処と言って破綻はないけれども個性的に強烈でないのも、この演奏と舞台とに迫力を欠いた原因の一つだろう。その他、パルマ公爵夫人をカローラ・ヘーンら。いずれも安定はしているが、際立って光るものはない。なおこちらの席(2階=1RANG 下手側寄り)の関係かもしれないが、舞台上の声はすこぶる聞き取りにくい。特にトレケルの声はほとんど聞こえなかった。

 今日は不思議に客の入りが余りよくない。平土間は何とか埋まっていたが、上階席はせいぜい半分以下か。休憩2回を入れ、終演は10時40分頃。カーテンコールには、一応感謝の意味を込めて最後まで参加した。好きなジェンダルメン広場を通り、並外れた威容と風格を以て聳え建つコンツェルトハウスを懐かしく眺めつつ、フリードリヒ街を横切って帰る。

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