2024-03

2014・10・22(水)新国立劇場 モーツァルト:「ドン・ジョヴァンニ」

    新国立劇場オペラパレス  2時

 2008年にプレミエされたグリシャ・アサガロフ演出による、新国立劇場の定番となっているプロダクション。

 今回はラルフ・ヴァイケルトが指揮した。
 序曲冒頭、かなり切れ味のいい表情で始まったものの、その後はやはり、比較的重い演奏に終始した感がある。この指揮者、3年前の「サロメ」で、ベテランらしく重厚な安定した演奏を聴かせてくれたことがあるから、モーツァルトでも重くなるのは当然、ということか。

 しかも全体に遅めのイン・テンポで、特にレチタティーヴォをゆったりと歌わせる傾向があるため、ドラマとしての緊迫感が希薄になる傾向がある。
 最も疑問に思えるのは、ドラマの局面に応じて刻々と変化するはずの、モーツァルトの見事な起伏に富んだ音楽が、坦々と同じ表情で続いてしまい、劇的な盛り上がりに欠けるということだろう。第2幕で大勢がレポレッロを囲んで責め立てる場面など、演奏があまりに落ち着き過ぎていて、その前後の場面の音楽との対比が明確でないのには、もどかしくなったほどである。

 ただその代わり、彼の指揮するモーツァルトは、丁寧で、美しいという美点がある。特にこの時期のモーツァルトが好んで使った木管の妙なるハーモニーを、これだけ精妙に美しく響かせてくれた指揮者は、そうそういるものではない。
 東京フィルも、今日は格段の綺麗な演奏だった(ホルンの部分的な不安定さには、今日は気にしないことにしよう)。

 アサガロフの演出は、この演出では、非常にストレートだ。冒頭場面でドンナ・アンナがドン・ジョヴァンニに屈服(?)してしまっていることは具体的に描かれ、それが父親の死と絡まって大きなトラウマになっていることは、彼女の最後のアリアにおける演技で如実に独白されるが、それ以外には、とりわけ捻った解釈は見られない。
 ルイジ・ペーレゴの舞台美術と衣装、マーティン・ゲプハルトの照明も美しく、定番プロダクションにふさわしい舞台である。

 題名役は、アドリアン・エレートが歌い演じた。彼のバイロイトの「マイスタージンガー」におけるベックメッサーは未だに忘れられない快演であったが、このドン・ジョヴァンニは、ちょっと線が細く(痩躯であることとは違う意味でだが)、しかも演技が何か中途半端な印象もあって、どう見ても色男然とした風格に乏しい。
 休憩時間にある女性に「あまり男が惚れるドン・ジョヴァンニとはいえないなあ」と言ったら、「女も惚れないかも」という返事が返って来た。エレート、闊達にやろうとすればいくらでも巧く出来る人だから、今回は指揮者のテンポとの確執とか、演出家(演出助手?)との齟齬とか、なにかそんな食い違いでもあったのではなかろうか?

 共演歌手陣は、マルコ・ヴィンコ(レポレッロ)、カルメラ・レミージョ(ドンナ・アンナ)、パオロ・ファナーレ(ドン・オッターヴィオ)、アガ・ミコライ(ドンナ・エルヴィーラ)、妻屋秀和(騎士長)、町英和(マゼット)、鷲尾麻衣(ツェルリーナ)。
 外人勢はみんなそれなりに実績も実力もある歌手ばかりだから、全体に安定はしていたが、今一つ熱気と劇的な昂揚に不足する印象だったのが惜しい。指揮者のテンポにもっと躍動感があったなら、歌唱だけでなく、演技にも更なる闊達さが生まれていたかもしれない。

コメント

千秋楽

倒れて虫の息となっている騎士長に顔を寄せ、死神が蝋燭の火を消すかの如くフッと息を吹きかけ絶命を見届ける。その優雅なる酷薄を目の当たりにした時、このドン・ジョヴァンニは完全に向こう側の生き物なのだと悟った。

2012年のクヴィエチェンさんがピカレスク小説の主人公そのものだったとするなら、今回のエレートさんはETAホフマンやシャミッソーの世界の住人。既存路線からすると確かに線が細く、あまりに儚げだったかもしれないけれど、抱くイメージは百人百様、こういうドン・ジョヴァンニがいてもいい。そうした挑戦を受け容れるだけの度量がこの演出にはあると思うし。

一方エルヴィーラ以下こちら側の皆様は、生命力と人間味に溢れとてもチャーミング。そのコントラストのおかげで、「ドン・ジョヴァンニ」とは非日常と日常、夢と現実がせめぎ合う物語なのだと自分なりに納得することができました。良いチームでした。

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