2024-03

2008・8・18(月)旅行日記第4日 ザルツブルク音楽祭 「青ひげ公の城」他

  ザルツブルク祝祭大劇場

 エディンバラを早朝発ち、フランクフルト経由で昼過ぎにザルツブルクに入る。朝4時に起きなければならないスケジュールなどもう真っ平なのだが、毎回仕方なくこうなってしまう。

 大ホールは夜8時開演で、ペーター・エトヴェシュ指揮ウィーン・フィルによる「4つの管弦楽小品」「カンタータ・プロファーナ」「青ひげ公の城」の3曲。これは今年の音楽祭のテーマの一つである「バルトーク・シリーズ」のメインとされているらしい。

 上演は休憩無し。オーケストラは最初からピットに入ったままで、2曲目まではピットの位置を上げて演奏する。ウィーン・フィルの音色は、10-14という比較的前の方の位置で聴いても、きわめて美しい。ただし、エトヴェシュの指揮は、必ずしもまとまりの良いものではない。
 1曲目が終ると幕が上がり、合唱団はセットの窓から首を出す形で居並ぶ。これが終ると、吟遊詩人の口上を転回点として舞台のセットが変り、「青ひげ公の城」が始まるという段取りだが、この「青ひげ」の舞台装置は何もなく、ただ背景に水墨画のような曲線が一杯に拡がっているだけだ。カラフルなセットの「カンタータ・プロファーナ」と、モノクロ的なオペラの舞台とが対を成すという狙いもあるらしい。

 オランダの演出家ヨハン・シモンズによるこの舞台は、重度の外科的障害者である青ひげ(ファルク・シュトルックマン)と、その車椅子を押して付き添う看護婦ユーディト(ミシェル・デ・ヤング)の葛藤である。
 ユーディトは無邪気で惨酷で、青ひげに対し面白半分にしつこく迫り続け、彼の心の中を白日の下に曝してしまい、そのプライドをズタズタにしたあげく――彼女としても予想外なことに――彼を死に追いこんでしまう。
 舞台には扉もなく、血の色も変化する光もなく、城も花園も宝も涙の池も出現しない。もちろん3人の前妻も現われない。場面の変化は、ただ痙攣したり悶えたり怒ったりする青ひげと、それに対応するユーディトの演技だけで描かれるというわけである。前半に現われる「ため息」も、青ひげ自身の口から発せられるかのようである。

 好意的に見れば、これはあらゆる装飾物や猥雑物を排してこのドラマの本質――青ひげの心理の内面――を物語った、心理劇的な演出ともいえようし、音楽にすべてを託した演出ともいえようか。したがって、アイディアそのものは悪いとはいえない。
 しかし、オペラを観に来た観客にとっては、要するにさっぱり面白くない舞台なのである。なぜかブーイングは一つも出なかったが、夏の音楽祭で、しかも祝祭大劇場のあの広大なステージでセミ・ステージもどきの演出を見せられては、高いカネを払ってわざわざ観に来た立場からすれば、肩透かしを食らったもいいところだ。
 これに比べれば、平板だとか何とか文句をつけたあのパリ・オペラ座の「青ひげ公の城」の舞台の方が、なんぼか視覚的には華やかだったことか・・・・。

 シュトルックマンはサングラスをかけ、右手に1メートルもありそうなギブスをはめ、いつものようにパワフルな歌唱。あたかも入院中のヴォータンといった勢いの強靭な青ひげだが、何もない舞台で彼の存在感を際立たせるには、このくらいの強い個性で演じてもらったほうがありがたい。
 デ・ヤングも強靭な声では引けをとらない。悪戯っぽく乱暴な、すこぶる感じの悪い看護婦を演じ切って、単調な舞台を最後まで保たせてくれた。
 エトヴェシュは可もなく不可もなしといったところで、もっぱらウィーン・フィルの芳醇な音色を楽しむべき演奏だったが、後半、第7の扉を開けろとユーディトが迫るあたりの音楽の緊迫感と、最後の破局的なクライマックスをつくる盛り上がりの個所での壮絶な慟哭は、さすがに見事なものだった。

 以上のプログラムで、終演は9時50分。手頃な時間だろう。

 ●なお、青ひげの「症状」について、知り合いの医師の先生から異なる「診断」をいただきました。コメントをお読み下さい。ありがとうございました。

コメント

私は8/14に観ました。歌手2人の歌唱は聴き応えのあるもので、演出の意図もそれなりに理解できるものですが、全体としてはオペラ好きとしては物足らぬものでした。せめて各扉が開く毎に照明の色を変えるとか、何か工夫をすれば家内のようなオペラ初心者でも場面の変化が理解しやすいと思います。

・青髭公の城は、術後譫妄患者(青髭)の妄想に付き合う看護婦(ユーディット)で、背景の樹形状の物は脳血管造影図と解釈しました。終幕、この背景が消え、3つの幾何学的なモビールがくるくる回るところが、彼の死、または精神の変容を意味するのか…。今夏で一番金をかけてない貧弱なプロダクションでした。
・パリ公演もそうでしたが、オペラでないものを無理やり舞台化するのは噴飯ものですね。カンタータ・プロファーナの巨大インコは何ですかいな?ダブルビルなら「中国の不思議な役人」や「かかし王子」等でやってほしかったですね。

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