2024-03

2018・4・7(土)ベルリン・コーミッシェ・オーパーの「魔笛」

      Bunkamuraオーチャードホール  7時

 制作プロデューサーともいうべき鬼才バリー・コスキー(ベルリン・コーミッシェ・オーパー総監督・インテンダント)のもと、スザン・アンドレイドの演出とポール・バリットのアニメ&イラストにより2012年にプレミエされた、モーツァルトの「魔笛」の日本公演を観る。

 これは、全くユニークな舞台だ。精巧精緻を極めたアニメーションが終始舞台全体を支配し、登場人物はそれらの映像と一体化して動く。いや、アニメの中で登場人物が動く━━と言った方が正確かもしれない。オーケストラの演奏と歌はナマだから、指揮者によってはテンポも大幅に変わるだろうに、その演奏にアニメの一つ一つの細かい変化を完璧に同化させてしまうという技術には、私のような素人は、ただもう舌を巻くしかない。

 台詞は大幅に短縮され、要約されているが、それらはナマで語られることはなく、すべて無声映画のように画面に投映される。そのバックには、モーツァルトの「幻想曲」の一部などが流れるという仕組である。

 またこの「魔笛」の舞台には、一般の上演でよく議論されるような、フリー・メイソンとの関わり合いなどの政治的な意味合いとか、深遠な哲学とかを象徴する要素は何も感じられない。登場人物も、大抵は離れ離れに位置して歌い、応酬し、不思議な孤独感を滲ませている。そして最大の特徴は映像の手法にあり、それはプロジェクション・マッピングのような、単に背景を彩るといった役割を遥かに超えて、登場人物そのものとなってドラマを語っているのである。

 これらについてバリー・コスキーは、「我々のアプローチは・・・・演出に特定の方向・意味づけをするのではなく、登場人物の・・・・人間の心の奥底の深遠な感情をありのままに表現する」という意味のことを述べている(プログラム冊子から自由に引用)。
 またポール・バリットも、「夜の女王は夫を喪った上に娘をも奪われ、パパゲーノは愛を求める孤独な男であるといったように、《魔笛》の半分は、人はみな孤独という心情が描かれている」と述べ、そして「劇場で使われるマッピングがすぐ飽きられるのは、その映像と登場人物との間に相互作用交流が無いからだ」とも指摘している(同)。

 このテーマはまことに興味深く、論ずればキリがないが、このブログではそこまでの時間的余裕がないので、ここまでにする。だがいずれにせよこの舞台、すべてがアニメーションと一体化して動くそのさまは見事というほかはなく、同じアニメでも、ウィリアム・ケントリッジのドローイング・アニメのそれとはケタが違う複雑精巧さといっていいだろう。

 ただ、疑問がなくもない。エンディングが少々平凡かな、という感もあるが、それはまあともかくとしても、最後まで観ていると、あまりに細微なアニメーションの躍動ばかりが目について、人間ドラマという世界より、何かメカニックな図形の世界の中に巻き込まれた人間たちの宿命を眺めているような気持になってしまうのは、こちらの観方がずれているのか? 映像に現れるザラストロの叡智の頭脳が、まるでチャップリンの映画「モダン・タイムス」そっくり、発条や歯車で出来ているような感を与えていたのも、ちょっと可笑しかったが。
 まあともあれこれは、「魔笛」を知り尽くした国の人々ならではの発想による、新しい解釈をストーリーの中に見出そうとするよりも、舞台上の再現の手法の裡に新機軸を求めた演出、と割り切ればいいのだろう。

 オーケストラは、コーミッシェ・オーパーの管弦楽団だ。本拠の歌劇場のピットで聴くこのオケの音とは大違いだが、それでもなお、このオーチャードホールのピットにおける日本のオーケストラとは(残念ながら)格段の差を感じさせ、彼ら独特の色気のようなものが伝わって来る。指揮者はジョーダン・デ・スーザという人で、リズムやアクセントを含めた音楽の表情は歯切れがよくて、なかなかいい。昨秋この歌劇場のカペルマイスターに就任したという、30歳の新鋭である。
 歌手陣は、アーロン・ブレイク(タミーノ)、ヴェラ=ロッテ・ベッカー(パミーナ)、トム・エリク・リー(パパゲーノ)、アナ・ドゥルロフスキ(夜の女王)、リアン・リ(ザラストロ)他という顔ぶれ。歌唱はまず手堅いところとしておくが、この種のムジークテアタ―系の上演は歌手のスター性を求める場ではないから、これで充分であろう。

 休憩25分を含め、9時45分に終演。こんなに短いのは、前述のようにセリフ部分が大幅に短縮されているためである。

コメント

ベルリン・コミッシュ 観てないけど投稿します。

ベルリン自体に行ったことがないのですが。。。

今、公式サイト Opera Visionで4月14日23時59分(CET)まで、この劇場のついこの間の バリー・コスキ新演出の ドビュッシー ”ペレアスとメリザンド”が視聴できます。第4幕 ペレアスとメリザンドの人間関係が最大に高揚する場面(この作品の音楽が最も高揚している場面)での表現の仕方、「あれっ、こんな表現になってしまうんだ。」とこの劇場の在り方なんだな。と思ってしまいます。

昨秋、チューリヒ歌劇場で (ベルリン・コミッシュオーパーとの共同制作)”エフゲニーオネーギン”観てきました。もちろんバリー・コスキの演出です。指揮は、(N響に定期でない公演に登場している/この2月にロイヤルコンセルトヘボウ管に登場/De Nationale Operaで”イーゴリ公” METとの共同制作)スタニスラフ・コンコンチャノフスキStanislav Kochanovsky でした。
心理描写が細やかで非常に演劇的でした。第1幕の野原が廻り舞台で回転するのですが絶妙な効果を上げています。
今回の来日は、この”エフゲニーオネーギン”の合間を縫って来演しているのですね。

バリー・コスキ。バイロイトでの新演出は映像でしか知りませんが巧妙な念には念を入れた考証もするけど、ウィーンで8年しか持たなかった”ローエングリン”もある。ところが次に出てきた演出は、コミッシュの前任インテンダントのアンドレアス・ホモキ。それもチューリヒと共同制作。

2018/2019シーズンからアイナルス・ルビキスAinars Rubikisが音楽監督になるのですね。ヤコヴ・クライツベルク(亡くなってしまったけど、セミヨン・ビシュコフの弟)、キリル・ぺトレンコ、一人おいて、パトリック・ランゲ、ヘンリク・ナナシ。古いところだとクルト・マズア。

ヤコヴ・クライツベルク以降、指揮者はどんどん出世していく。。出世頭は、キリル・ぺトレンコ。バイエルン歌劇場とベルリンフィルを短期間同時に兼任することになる。

来日人数を抑えての”魔笛”なんだろうと思うけど、持ってくるならオケピットにPA入れて少人数のオケで演奏する”ばらの騎士”持ってきてほしかった。合唱団員たくさんいるし登場人物多いから仕方ないけど。

今回は、アナ・ドゥルロフスキの夜の女王ですか。シュトゥットガルト歌劇場でツェルビネッタを歌っているのではなかったかな。。脱線しますが、あそこの”椿姫”も興味があります。(第1幕+第2幕第1場)休憩(第2幕第2場+第3幕)の構成だったはず。

結局、バリー・コスキ自身の演出がないことになるのですね。ただ、この演出。Operabaseのホームページで検索すると本当に多くの劇場で上演されている大ヒット作なんですね。ロサンゼルス、バルセロナ、ラインドイツオペラ、フィンランド、ポーランド、オペラ・コミック等々。

ロイヤルオペラハウスの久々の新演出”カルメン”。これもバリー・コスキ。音楽だけBBC3で流れたけど、雰囲気がなにか違う。指揮者にヤクブ・フルシャを新演出指揮者に指名しているからなにかで大物指揮者を起用できない事情でもあるのでしょうか。。有名歌手もフランチェスコ・メりだけだし。

ベルリン・コミッシュのように筋が一貫しているのは良い。

ベルリン・コミッシュのように筋が一貫しているのは良い。と
思います。

ただ本当に愕然としたものが1度あります。ズビン・メータ音楽時代の
ドリス・デリーDoris Dörrie新演出の”リゴレット”。15・6回やって”さようなら”
あれは、本当に最低だ。リゴレットとジルダだけ普通の服だけど。あとの登場人物と合唱団員に”猿の惑星”もどきの サルの仮面・衣装をつけさせるのだけは本当に観ていて、下を向いて聴いていました。
マントヴァ公はラモン・ヴァルガスからティト・ベルトラン。リゴレットのマーク・デラヴァンは第2幕の有名なアリアで最後非常に不安定になってしまって、観客からブーイングはくるし。あれだけは、勘弁して。ディアナ・ダムラウがかわいそうなくらい誠実に端正に歌っていた。だからグーと飛躍できたのだけど。

ベルリン・コミッシュみたいに徹底した演出家兼総支配人がいい。。そう言ったら1996年6月9日に、ハンブルグ歌劇場日本公演で大野和士指揮になったアンドレアス・ホモキの”リゴレット”。よっぽどいい。いまだに続いているけど。何事も最初の上演時も大切。この公演は、フランツ・グルントヘーバーありきだったことだから。あの頃のホモキ。出世作の”影のない女”。ジュネーヴ歌劇場がホルスト・シュタイン/アルミン・ジョルダン。パリ・シャトレ座はクリストフ・フォン=ドホナーニ。マドリードはペーター・シュナイダー。アムステルダムはマルク・アルブレヒト。

脱線したけど、万一、バリー・コスキが退任したらやはりTatjana Gürbaca総支配人誕生が無難な選択肢になるのだろうけど??

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

https://concertdiary.blog.fc2.com/tb.php/2928-0477860c
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中