2024-03

2018・11・22(木)ズービン・メータ指揮バイエルン放送交響楽団

     東京芸術劇場 コンサートホール  7時

 こんな状況の中、よくぞ来てくれた、マエストロ・メータ━━と書いたのは7年前、あの東日本大震災と原発事故のために外国演奏家たちが次々に来日を中止したさなか、N響とのチャリティコンサート「第9」(4月10日)を指揮するために彼が敢然と東京へ飛んで来た時のことだった。
 そして今回、マリス・ヤンソンス来日中止という事態を受けての代役として、またメータが駆けつけてくれた、ということになる。

 だが、今日舞台袖から現われたズービン・メータは、7年前の颯爽とした姿、かつては「指揮台のマッチョマン」とも呼ばれたエネルギッシュな、堂々たる容姿の彼ではもはやなかった。
 大病をした(イスラエル・フィルとの来日公演も中止になった)のは僅か半年前かそこらのことだ。その病を克服して復活してくれたのは本当に喜ばしいが、私たちが見たのは、ステッキを突きながらゆっくりと歩を進め、付添い人に助けられながら指揮台を上り下りする、いかにも年取ったという感のある彼であった。元気な頃の彼を見慣れていた私たちは、その姿に心を痛めながら拍手を続けたのである。

 しかし、一旦指揮台の椅子に座れば、彼がオーケストラから引き出す音楽は、昔ながらの骨太な力を失っていない。テンポは以前より遅くなり、力強かった構築力もやや緩めになったかと思われるが、身振りよりも、強い精神力と目線とでオーケストラを制御する彼の指揮には、以前よりもあたたかさが増したようにさえ感じられたのだ。
 そして、アンコール曲のタイトルを聴衆に告げた時の彼の声は、昔ながらの低音の利いた、素晴らしく張りのある響きに溢れていたのであった。声が大きいということは、元気である証しである。

 今日演奏されたのは、モーツァルトの「ジュピター交響曲」と、マーラーの「巨人」、アンコールはJ・シュトラウスⅡの「爆発ポルカ」だった。
 「ジュピター」は反復個所をすべて守り、何の外連もなくストレートに構築した演奏である。
 「巨人」では、第1楽章提示部の反復は行なわなかったが、第2楽章には「花の章」を復活挿入、これも悠々たる大河の如く流れ行くストレートな演奏で、第4楽章の頂点はそれに相応しく壮大な歓呼となっていた。
 ━━欲を言えばその全曲の大詰、ティンパニと大太鼓の怒号の上に全管弦楽で終結和音が叩きつけられる個所で、それまでの全管弦楽の咆哮に充ち溢れていた壮絶な力感がふっと抜けてしまったような印象もないではなかったが、そのあたりは、前述のいろいろな状況からして致し方ないところであろう。

 バイエルン放送響も、今日は各楽器のソロ・パートにいつものような完璧さをやや欠いていたようだが、これもこのオケがドイツで一、二を争う名楽団だからこそ言いたくなるような程度のことに過ぎぬ。やはり、素晴らしいオーケストラである。

 ともあれ、この演奏を聴いたあとには、当初予定されていたマーラーの「第7交響曲《夜の歌》」が変更されてしまったことへの不満も、ほぼ綺麗に吹き飛んでしまった、というのが私としては正直なところだが、他のお客さんはどうだったろうか? 
 オケが引き上げてしまった後、足が悪いから呼び出すのはどうかな、という遠慮もあって少なめに続いていた聴衆の拍手は、しかし次第に大きくなり、ついにメータは車椅子に乗って再びステージに登場し、熱狂的な拍手に嬉しそうに応えていた。演奏への称賛、大病からの回復を喜ぶ気持、7年前のあの日のこと━━聴衆のさまざまな想いがそこには交錯していたことであろう。

コメント

マーラーは、私としては重たくて、もう少し推進力がほしい、流れてほしいと思いました。が、沈鬱とした箇所でも美しく聴かせるのはさすが。また、木管、金管ともに、ためて歌わせるのがうまく、感心しました。特にフルート、そして花の章のトランペットソロのまろやかな音色!
東条先生の推薦文(ジャパンアーツ)にもあったように、もともと「ヤンソンスの7番」を期待して購入したものでしたが、行ってよかったと思いました。曲の解釈など細かいことを超え、あたたかい満足の得られた演奏会でした。

大阪で拝聴しました

大阪で同プログラムを拝聴しました。私も東条先生とほぼ同じ感想を抱きました。確かに、おぼつかない足どりのズービン.メータさんでしたが、とても力強い指揮には、敬服します。オケの方々も、それに呼応するべくの熱演でした。とりわけ、マーラーの[巨人]は、今まで拝聴した中で、私にはベストです。ピンチヒッター以上の熱演のメータさん、車椅子で出て来てくださった時には、会場は割れんばかりの拍手でした。この演奏を拝聴できて、感謝です。

大阪での公演、50年以上色々な公演に足を運びましたが10本の指に入るようなすばらしい公演でした。音楽もそうですがメータさんの音楽に注ぐ愛情が人柄と合わせてしみじみした味わいをもたらしますがオケも十二分にそれに答えるべく力演で最高レベルの内容だったと思います。ここまでリラックスしているのに大きな懐の中で緻密で鋭いアタックや自然のままの情緒感を聞かせたマーラーは始めて聞きました。最終的な音楽の形だと思います。

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ありがとう、マエストロ・メータ

関西公演は兵庫のみでありました。大阪と2人も書かれてりことになってますが果たしてこれは偶然なのでしょうか。そして聴かれたのでしょうか、と思ってしまいます。
私は聴きました。とても良い演奏会てました。
巨人については、そのフィナーレでは、あえて咆哮をさせるようなことはせず、巨人のほんらい持つ音楽的美質を味あわせてくださったと私は感じ取りました。花の章を入れられたのもその方向性を見ました。

コメントの訂正です

拝聴したのは大阪ではなくて、兵庫県立芸術文化センターでした。ごめんなさい。

読者さんのコメント

拝聴しましたが、その後メータさんを追いかけて新大阪まで行きました。お見送りはできませんでしたが。それで、つい大阪って書いてしまいました。もう一人の読者さんは、私のコメントが先にあったので間違われたのかもです。疑っていらっしゃるようですが、真実は天が知っています。すみません、東条先生。大事なブログに私が間違えたコメントしたから、こういうやり取りになって。

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