2024-03

2019・2・17(日)西村朗:「紫苑物語」初演

      新国立劇場オペラパレス  2時

 新国立劇場の委嘱作品。石川淳の原作、佐々木幹郎の台本、西村朗の作曲による新作オペラ「紫苑物語」が初演された。

 演出は笈田ヨシ、舞台美術はトム・シェンク、振付が前田清美。大野和士が東京都交響楽団を率いてピットに入る。
 配役は宗頼を高田智弘、うつろ姫を清水華澄、藤内を村上敏明、弓麻呂を河野克典、千草を臼木あい、平太を大沼徹(ダブルキャストで、松平敬の日もある)、父を小山陽二郎、家来を川村彰仁。新国立劇場合唱団(三澤洋史指揮)。
 日本語上演で、日本語と英語の字幕が付いた。

 第一に、大野和士の指揮する都響が素晴らしい。冒頭の弦楽器群からして清澄透明な美しさだし、その弦も、厚みを以って豊麗に響く。この劇場のピットでも、指揮者とオケによってはこういう音を響かせることが出来るということがわかる(このふくよかさが、他のレギュラーオーケストラからどうして出ないのだろうと訝らざるを得ない)。

 歌手陣も、皆見事だ。高田智弘は尊大な主人公を堂々と歌い演じ、清水華澄は冒頭の婚礼の場面における長大で奇怪なコロラトゥーラ(?)を皮肉と滑稽さとを交えて歌い演じた。村上敏明の三枚目まじりの歌と演技も面白く、第1幕の幕切れで魔力にのされてしまうあたりも、すこぶる秀逸な顔の演技であった。他の人々もほぼ同様である。

 これは演出の巧さにもよるのだろうが、それよりもやはり、日本人が日本人のキャラクターを演じる時には、泰西ものでは出せない、つまり真似事ではない強みが存分に出るからだろう。
 それは笈田ヨシの演出全体にも言えることで、今回は現代劇と歌舞伎(調)とダンス(和風)との佳き混在━━というのだろうか、以前の「蝶々夫人」(東京芸術劇場)よりも思い切った手法が実現できていたような気がする。

 巨大な鏡を活用した装置も、舞台を多角的に見せ、多彩な表情を生み出して鮮やかだった。物語には「日本的な怪談」の色合いも濃いが、それは泉鏡花や小泉八雲などの世界とは性格を異にするものであり、その意味からも外国人に舞台装置を担当させ、インターナショナルな味をも織り込んだのは、良いアイディアと言うべきだろう。
 ただ、ストーリーの展開という意味での場面の移行は、たとえばラストシーンなど、もう少し解り易くならないだろうか?

 音楽は、スコアを見ていないので、ただ1回のみ聴いた印象でしか言えないのだが、ともかく西村朗の作品らしく色彩的、叙情的で、ミステリアスな描写力にも秀でている。
 ただし、たとえば婚礼の場の踊りなどをはじめとして、一つの音楽の繰り返しがちょっと長すぎ、くどいところがある(もしやあれはアドリブか?)。

 ともあれ、このような「日本的」なオペラの優れたプロダクションの登場を歓迎したい。そういう作品がもっと数多く生まれ、世界に発信できれば、日本の作品や演奏スタイルの世界に対する発言権ももっと強くなるだろう。
 休憩1回を含めた上演時間は2時間半強。このプロダクションは、このあと、20日、23日、24日にも上演される。

コメント

20日の公演を観ました。17日の批評とほぼ同じ状況でした。
公演プログラムの中で作曲家が語っているとおり、婚礼の場(第1幕第1場)の踊りの最後にはバリ島のケチャが登場しましたので、特に「くどさ」が際立ったと思います。台本については、断片的ながら「ムツェンスク郡のマクベス夫人」やアルバン・ベルクのオペラを思い起こさせるところがありました。

 上記と同じく、20日の公演を観ました。東条先生のおっしゃるように、大野氏のあふれ出る音楽性、熱のこもった指示に都響がよく反応し、厚みのある豊麗な音楽はレギュラーオケ以上だったと思います。また、歌手も、長大なコロラトゥーラの技術を披露した臼木さん、村上さんのきびきびとした歌と演技も面白く、秀逸で、お2人の写った写真も購入しました。また、カヴァーから本演に抜擢された松平さんは、現代歌曲、重唱、合唱など様々な声楽での経験値が豊富にバックヤードにあることを改めて感じさせる、音楽的にまた言葉の表現の面でも充実した出来栄えでした。
 しかし、こうした演奏者の出来栄えと裏腹に、(ここからは個人の感想ですが)、問題なのは、台本と曲自体、そして演出ではなかったか、ということです。残念ながらこの日は、カーテンコールで、台本作者と作曲家に3人ずつくらいのブーイングがあったのですが、同時に数人がかけたブラボーよりも、何かしっかり、筋の通ったブーイングに聞こえたのは私だけだったのでしょうか。
 石川淳の原作は古語と現代文の表現が混成した、美文との評価が高い作品なのですが、それに加え、例えば、原作では、うつろ姫は全く会話がない状況描写だけですし、婚礼についても基本的に詳しい修辞を以っては書かれていません。元来、いろいろな内容を整理してまとめてゆくことが多いのが台本の常ですが、これをあえて今回の台本では付け加えて創作し、曲をつけた訳です。
 こうしたこと自体については、同じ佐々木・西村ペアは室内オペラ『清姫』でも、基本的な『道成寺』伝説や能楽、歌舞伎とは異なるラストをつけ、これはこれでなかなか別の意味で美しく、興味深い解釈がなされています。
 しかし、今回については、うつろ姫に〔自分は欲望がある~(この通りの歌詞ではないですが)〕というような、原作の美文とは程遠いあからさまな台詞をつけてしまったり、原作のうつろ姫とはほど遠い、別の意味で醜悪なキャラクターになっていたのに違和感を覚えたこと、更に美文を意識してか、合唱などにも古語を取り入れたものの、原作には印象の無い言葉が多く、かえって不自然に思いました。
 更にこれに、西村氏の曲が加わる訳ですが、ケチャだけでなく何か日本の古楽も意識したのかもしれませんが、結果的に曲が複雑すぎ、歌唱では主役も無理な技術を要求されて作り声のようになってしまった所が何箇所か気になり、合唱も人数が多すぎたとも思うのですが、ブレスがバラバラで、言葉が聞き取りにくいなど、アンサンブルの乱れもやや感じました。独唱や、重唱で、ちがう言葉をおのおの言わせる箇所でも、しっかりと言葉を聴かせなければいけないのに作曲として聴き取りづらい音の流れになっていると思われる部分、合唱や大オーケストラと重なって聴き取りづらくなっている部分もあり、アルトのうつろ姫(清水さん)もかなり頑張ってましたが、普段の実力は出づらかったと思います。
 演出でも、鏡を使った演出は動かし方にはオリジナリティはありましたが、近年、よくある演出でしょう。小狐が千草という女性になり、主人公と愛情を深める所が注目され、歌舞伎の「四の切」や「葛の葉」に見られる早替わり、ぶっ返り、宙乗りのようなケレン味のある演出も特に無く、衣装だけは、歌舞伎の狐を模したようだったのですが、最初からずっとこの格好で、正体が現れても特段変化が無いのは、興ざめでした。また、狐らしい物言いはコロラトゥーラの所が相当するのかもしれませんが、その他は動きで感じることも少なく、宗頼との情愛の部分はあからさますぎて、少々あきれました。日舞の動きや影絵などで、もう少し、美しく味わいのある演出ができなかったものでしょうか。
 終わりの方の平太が出てくる部分では、原作からの言葉の引用も何とか整い、松平さんの落ち着いた表現もあって良かったのですが、ラストの滅びの部分も、小狐を中心としたスペクタクルは結局、工夫、表現し得ず、確かに原作でも経巻について記述はあるものの、個人的には読経の音楽が、演出の不足を補っているようには感じられませんでした。
 以上、長くなりましたが、上記のような点で宣伝されたよりもいろいろな部分で整理、企画が不足しているのは否めないように思いました。より原作を研究し、良い作品に改作されていくことを個人的には望みたいと思います。

 上記の文中、「演出でも、」からの文の途中、「愛情を深める所が注目され」の後、「ましたが」の字句が消えていました。訂正して、お詫び申し上げます。
 追記させていただきますが、今回、「監修」の方がいらした、とのことで、ご当人の書かれた記事もHPで見て、「企画」全体のことらしいのですが、「音楽」中心の監修なのか、台本に関わる部分なのか、演出でも関わっているのか、今ひとつ、よくわかりませんでした。プログラムには詳しいのかもしれませんが、いずれにしても、どのような部分を、どのように監修しているのか、いずれにしても「監修」とは責任ある立場であるとは思うので、もう少し、一般広告でも具体的にわかるようにしてほしかったと思います。
 一方で、今回、本演の前から「日本オペラの金字塔」というような表現を各種の広告で目にすることが多かったように思います。しかし、こうした評価は、一通りの演奏日程を終え、一般の聴衆の目に触れて好評を博す、あるいは、その後、何回も上演が頻繁に重ねられた上で、書かれる言葉であって、最初から変に聴衆を信じ込ませるものであってはならないように思います。
 加えて、件の「世界初演」という表現も、もう当たり前のように出てしまっていますが、果たして、世界に冠たる日本オペラが何本あるのか、これを考えたとき、東条先生のこのブログにあるように、素直に「初演」と書くのが妥当なような気がします。話題性も必要だし、オペラ自体、エンターTの要素もあるのでしょうが、聴衆を変に煽り立てず、芸術的考察を高めた、良き鑑賞者を育てられるように、着実な広報をお願いしたいところです。
 

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