2024-02

2008・11・8(土)日生オペラ「魔笛」

   日生劇場 マチネー

 日生劇場開場45周年記念公演として制作されたもの。上岡敏之の指揮、高嶋勲の演出。

 プログラムには特に記載されてないけれど、聞けばこれは「学校公演」――高校生のための公演として制作されたプロダクションの由。
 なるほど、そう言われてみれば、非常に簡略な舞台装置、何ら特別な解釈や意味づけを加えない演出コンセプト、いまどきプリミティヴで単純な演技、現代語を取り入れたセリフや字幕など、「それ向き」に作られているのだな、と納得が行く。

 とはいえ私などは、学校向けであろうとなかろうと、しかも一般公演としても上演するのだから、45年前にゼルナー演出のベルリン・ドイツ・オペラでオープンした日生劇場の面子にかけても、新機軸を打ち出した舞台を創るべきではないかと思うのだが――何も突拍子もない演出をやれといっているのではない。オーソドックスな手法でだって新味は充分出せるはずである――考え方の違いは致し方ない。

 これを観ている最中に私は、50年も前に初めてこのオペラを見た時の、産経ホール(東京)での二期会上演を思い出していた。舞台の作りも演技も、何となくイメージがよく似ているのである。
 あれは今にして思えば実に単純な演技だったが、それでも当時は楽しく面白く、いまだにその時の模様が脳裏に焼きついている。それゆえ今回の舞台で初めて「魔笛」を見た人の中にも、何十年かののちにこれを懐かしく思い出す人がいるだろうな――などと、本番中にあれこれ余計なことまで考えていた。
 しかしいずれにせよ、このようにストレートな演出で見せてもらうと、やっぱりこの「魔笛」というオペラは、ストーリイも作劇法も随分めちゃくちゃなものだということを改めて思い知らされてしまう。今回はザラストロたちが夜の女王一派(モノスタトスも)に和解の手を差し伸べるという設定になっていたが、これはよく使われる手で、とりわけ目新しいものではない。

 歌手陣は概して手堅い歌唱を示していたが、その中ではタミーノの吉田浩之が良く伸びる声で際立っていた。この人は最近好調である。
 また、夜の女王を歌った安井陽子は、先ごろツェルビネッタで絶賛を浴びた(私は残念ながら聞き逃した)新人で、たしかに高音のコロラトゥーラを伸びやかな声で楽々とこなす、すばらしい人だ。ただ、これだけ鮮やかな歌唱ができるのだから、セリフ回しの声が絶叫調の硬い声にならぬよう研究して欲しいものである。ともあれ、大注目株であることには相違ない。

 しかし、やはり今回の最大の収穫は、読売日本交響楽団からこの上なく引き締まった、しかも生き生きした息づきを持つ音楽を引き出した、指揮者の上岡敏之であろう。
 この劇場のドライな音響を全く気にさせず――というより、巧く使いこなしたと言っていいかもしれない――モーツァルトの音楽を明晰に、バランスよく再現してくれた。私がこれまで数多く聴いてきた日本の指揮者とオーケストラによる「魔笛」の中でも最も優れた演奏と称しても過言ではないと思う。歯切れのいいリズムで追い上げ、たたみこんだ各幕の終結個所など、ものの見事に「決まって」いた。さすがドイツの歌劇場で場数を踏んできた人だけある。日本では彼のオペラ指揮は、先ごろの新国立劇場での「椿姫」程度しか知られていないが、今回は本領発揮といってよかろう。
 われわれの国は、大野和士、上岡敏之という2人の優れたオペラ指揮者を擁していることを、もっと誇っていい。ただし遺憾ながらその2人ともが、日本の歌劇場のピットで真価を示す機会を未だ充分に提供されていないのは皮肉なことだが。

 オペラ終演後、羽田空港に直行、スターフライヤー便で北九州空港に飛ぶ。小倉のリーガロイヤルホテルに泊。


コメント

緻密な分析「魔笛と椿姫」

初めまして。まだまだこれからよ、音楽ライターの川田と申します。

私は14日と最終日の椿姫、魔笛は8日に拝見しましたが、上岡さんは大変緻密な分析家ですね。序曲は、劇中に誘導していくという役割と同時に、オーケストラと指揮者の力量を示す端的な部分ですが、ヴェルディはヴェルディらしく、モーツアルトはモーッアルトらしく表現されていました。

具体的に申しますと、ズンズンズンというヴェルディの根底にある音楽の個性、律動を明確に捕らえていましたし、魔笛では、序曲はもちろんですが、2幕目だったと思いますが、バッハ的な諧調がくっきりと打ち出されている部分がありました。(たまたま今日図書館で本を閲覧したところ、モーッアルトがバッハに傾倒した事がかかれていました。)

椿姫14日は3階中央部分から舞台を見ましたが、近くの席からすすりなく声が聞こえてきて、私もポロリンとしたのですが、お世辞ではなく本当に素晴らしかった。オペラを観る事は、情操的に響くかどうかということです。

モシュクさんは、論評は視点の相違によって分かれましたが、リリックな声質と演劇的な表現がすばらしかった。相対的にみると、日本人よりはるかにスケールが大きく精神性の湧き出てくるところが違います。それは、上岡さんも同じ、彼は単に綺麗なだけの音楽は求めていない。


今回の魔笛は、メルヘンの世界に隠された大きなテーマ、二律背反というヨーロッパの土壌に降り注ぐ神の存在を再認識させ、人気浮上となる好機となるでしょう。

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