2024-03

2008・11・12(水)ハンブルク・オペラの新プロダクション「ワルキューレ」

   ハンブルク州立歌劇場

 北都ハンブルクはもう冬の気候。街を歩く時は、コートが手放せず。

 この歌劇場では、音楽総監督シモーネ・ヤングの指揮、クラウス・グートの演出による「ニーベルングの指環」ツィクルスが進行中である。第2作にあたるこの「ワルキューレ」は、去る10月18日にプレミエされたもので、年内はこれが最後の上演だ。

 シモーネ・ヤングの指揮は、今年3月(19日)に観た第1作「ラインの黄金」でも実に確固たる演奏で感心させられたものだったが、今回も非常に引き締まった音楽になっていた。おそらく14型編成と思われるけれど、あたかも室内楽のように緻密で凝縮した響きである。そのためスケールの大きさや拡がりはあまり感じられず、情緒もかなり抑制されており、いかにも最近のワーグナー演奏といったタイプだろう。だが管弦楽のバランスは、見事と言っていいほどに整っている。

 ヴォータンは、「ラインの黄金」に引き続き、ファルク・シュトルックマン。相変わらずの凄まじい馬力である。
 ブリュンヒルデには、前以て予告されていたリーザ・ガスティーンがずっと病気とかで、代わりにおなじみデボラ・ポラスキが登場している。第3幕の終わり頃には彼女らしくもなく少々声がぐらつく個所もあって、いかに戦艦歌手と雖も疲れることもあるのかなと思わせられたが、まず安心して聴いていられる人であることは間違いない。
 フンディンクには、最近すっかりこの役づいているミハイル・ペトレンコ。この人、好い歌手なのだがいつもあまりブラヴォーに恵まれないのは、この役にしては声が軽いと思われがちだからか。
 ジークムントはステュアート・スケルトンで、少し線は細いが悪くない。ジークリンデにはイヴォンヌ・ナエフ、第3幕での「愛の救済」の個所ではすばらしい力強さを聴かせた。フリッカにはジャンヌ・ピラン、もう少し強引さが欲しいか。

 かように音楽面では手堅いプロダクションではあったが、クラウス・グートの演出(クリスティアン・シュミットの舞台美術を含む)が、今回はどうも腑に落ちない。「ラインの黄金」では、あまり新味はないけれども比較的良くまとまっていたように感じられたのだが――。

 第1幕では、舞台手前にいるヴォータンが、奥舞台(主舞台)の上に静止しているジークムント(既に登場している)とジークリンデにキューを出し、ドラマを始めさせるという仕組みで、要するにすべてはヴォータンにより操られるゲームというコンセプトだが、こんなテは随分前にドレスデンのウィリー・デッカー演出などで観た覚えがある。
 しかも兄妹がそれぞれ身の上を語る時には、父親ヴォータンが主舞台の周囲を歩き回ったり、みずから剣を壁(幹ではない)に突き刺したり、あるいは幼年時代の兄妹が場面を横切ったりする。これも最近よくやられる「記憶内の出来事を具象化させる」手法だ。
 初めて観る人には面白いかもしれないけれど、あちこちオペラを観歩いているスレッカラシとしては、また同じようなテですな、と苦笑するしかないわけで。
 そのわりに第2幕ではこの手法は使われず、徹底を欠く(二期会のジョエル・ローウェルス演出とはそこが違う)。ただし第3幕では、死んだ息子のジークムントが現われ、苦悩するヴォータンに手を差し延べる場面がある。

 第2幕は、ヴォータンの居間のような所。壁には「ラインの黄金」でフローとドンナーがシコシコ作っていたヴァルハラ城の山の箱庭がすでに完成されて、飾られている。一方、部屋の隅には「ワルキューレ」第3幕の舞台の模型もある。デスクの上には第1幕の舞台が――兄妹の人形も含めてそのまま模型として載っており、ヴォータンはそれを見て悦に入っているが、フリッカがジークムントの人形の手から剣をはじき飛ばすのを見て顔色を変える。これもどこかで見たような。

 第3幕は、岩山どころか、見るからに薄汚いコンクリートの地下室。汚れたタイルの洗面所までついているこの部屋に、8人のワルキューレが――ただの馬鹿みたいな薄汚い女たちが収容されており、口だけは勇ましい歌を歌いながらも空想に耽っているという設定か。彼女らがカラテのような似非武術踊りをやりながら「ホ・ヨー・ト・ホー」と歌っているシーンの、何という滑稽さであろう。
 娘たちはヴォータンの名を聞いただけで強迫神経症を起こして震え上がり、彼が上階のドアを開けて入って来た時には、布団をかぶってベッドにもぐりこんでしまう始末だ(この中から「神々の黄昏」のヴァルトラウテはどのようにして現われるというのだろう?)。
 
 ラストシーンではブリュンヒルデは、父親が「ヴォータンの告別」を歌っている最中に、床に布を敷き枕を置き靴を脱ぎ、さっさと自分で毛布のようなものをかけて、先に寝てしまう。ヴォータンはここでも主舞台から手前に降りて、黒幕としての地位を守る。「魔の炎」は主舞台の手前の縁に沿って盛大に燃え上がるが、今日はあいにく仕掛けの調子が悪かったか、均等に燃え広がるというところまでは行かなかった。
 演出者がいないので、ブーイングは一切出ない。演奏者に対する拍手は大きく、特にヤングは大変な人気である。

 今年春のライヴを収録した「ラインの黄金」のCDが、エームズ・クラシックスから最新の新譜として発売されていた。「お買い上げの方には、終演後シモーネ・ヤングがサイン会を行ないます」との貼紙を発見。周囲に知った顔の見えないのを幸い、たちまちミーハーの本性を顕わし、1セットを購入に及んで、行列に参加する。20人ほどいたが、ほとんど全部が中年女性。彼女、オンナたちからの支持が強いらしい。
 「CDお買い上げの方」と書いてあったのに、おばちゃんたちが手に持っていたのはプログラムばかりだった。肝心のCDはあまり売れなかったとみえる。

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