2024-03

2006・8・25(金)バイロイト音楽祭(3)「ジークフリート」

     バイロイト祝祭劇場  4時

 前日、市内の某人気料理店で食べた「新製作」のラーメンに食あたりし、今日は惨憺たる体調。12時頃までホテルで呻吟し、ふらふらになりながら、とにかく着替えて劇場に向かう。しかも今日は猛烈に寒い。第1幕途中で貧血症状に陥りながらも、何とか長い全曲を持ち堪える。
 それにしても、こういう体調不良の状態で聴くには、ワーグナーのオペラの、何とまあ長いこと! 愛を歌い始める前に何故あんなに理屈をこねまわすのか、と腹立たしくさえなる・・・・。

 が、そんな状態でさえ、ティーレマンとオーケストラが編み出す、あふれんばかりの多彩で豊麗な第3幕の音楽には魅惑されて止まるところが無い。登場人物の心理の変化に即応して虹のごとくその色彩を変えていく鮮やかさたるや、ティーレマンの驚くべき牽引力を示すものだ。
 モティーフが裸の状態で羅列されるがごとき趣のある第1幕および第2幕の大部分でも、「ラインの黄金」で採られた手法同様、流れのいいバランスの完璧なオーケストラの響かせ方により、音楽をバラバラでない、全体を一つの関連のある構築に仕上げてくれる。もっともその解け合った、あまりに物分かりの良すぎるバランス構築には時として物足りなくなる時がないとも言えないのだが。

 歌手陣は全員が好調で、強力だ。シュトルックマンは、ジークフリートとの応酬のほんの一ヶ所で声がかすれたが(壁の蔭に引っ込んで水でも飲んだらしい)それ以外はビンビンと声を響かせて存在を全うした。
 リンダ・ワトソンも今日はいくつかの高音を無理なく乗り切った。アンドルー・ショアとゲルハルト・シーゲルはここでも巧者であり、藤村実穂子も暗黒の闇に響くエルダを悲劇的に聴かせた。イェリク・コルホネン(ファーフナー)とロビン・ヨハンセン(小鳥)は際立った歌唱力ではないが、悪くはない。

 昨年タンホイザーをノーカットで歌って気を吐いていたステファン・グールドが、今年はジークフリートを歌う。自由奔放な野性児といった雰囲気は多少乏しく、さりとて高貴な英雄というわけではなく、役の彫り下げには未だ発展途上の人のようだが、もっともこれは演出次第でまた解決できるだろう。声は充分にある。ロバート・ディーンス・スミスといい、グールドといい、新しいヘルデン・テノールの出現は喜ばしい。

 第1幕から第3幕まで、序奏は常に幕が指定どおりに下ろされている。ただ、第3幕でエルダが消えたあとに幕が下り、そこでヴァルキューレの岩山へ転換し、ジークフリートとヴォータンの場があって、更に幕が下りてブリュンヒルデの場に変わるというのは、些か煩わしい。全く、幕を下ろすのが好きな演出家だ。

 第1幕のミーメの仕事場は、ちゃんと掃除をすればさぞや立派な居間になるであろう大きなスペースである。あとで気がついたのだが、これは廃校の教室らしい。ジークフリートは例のごとく、いつ剣を溶かし、いつ鋳るのか、明確ではないが、とにかくノートゥングは完成する。最後に何も破壊的行為に出ないのが、思いのほか暴れん坊でないイメージを生む一因か。
 第2幕は、巨大な切り株がやたら沢山並ぶ。寺か神社の境内を連想させるが、上部に未完成の高速道路らしきものが横切っているのが面白い。自然破壊の象徴か。ただ、その道路の上では明かりがチラチラして工事関係者の姿さえ見えたり、最初のうち隅の方で子供が遊んでいたりするのが、少々煩雑ながら面白い。

 演出家へのインタビュー(モーストリー・クラシック)では、神々は現代でもあらゆるところを彷徨っているのだということだが、どうもこの演出では、むしろ現代人が神話ランド体験ツァーを楽しんでいるといった趣にも見える。
 「時代を交錯」させるならもっとマジックを使うなりして巧くやる方法だってあるだろう。ドルストにはいっそ、戦前の日本で言われていたような、八百万の神々が鎮守の森、川、山、すべての場所に鎮まる━━といった思想を参考にしてもらったほうがいいのではないかとさえ思ってしまう。

 そういう問題の前にはどうでもいい話だが、ヴォータンがジークフリートと最後の対決をする時、さあ折ってくれといわんばかりに槍を横にして若者の鼻先へ突き出すという行為はいかがなものか。

 終演後、誘われていた真峯紀一郎さんとの会食を諦め、ホテルのバスで一目散。医者の西尾博士の勧めに従い、血糖値を下げるために角砂糖を水に入れて飲み、糖分を摂る方法を講じたが、このおかげで元気が出て、実に爽やかな気分になった。

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