2024-03

2005・4・21(木)ニューヨーク(終)MET「ファウスト」

     メトロポリタン・オペラ  8時

 今シーズンの新プロダクションの、今日がプレミエ。アンドレイ・セルバンの演出、サント・ロカスタの舞台美術と衣装デザイン、ドゥアン・シュラーの照明。

 新しいプロダクションにしては意外なほど写実的な衣装と装置で、大群衆がひしめく場面などはさながらゼッフィレッリの手法そっくり。METの観客の好みに合わせたのか、それとも他に意図があってのことか。
 もっとも、あとで詳細に舞台写真を見ると、衣装のデザインはかなり凝っており、旧式とか手抜きとかいう次元のものとは完全に一線を画しているということは理解できたのだが。

 ラストシーンでは、後方の牢獄の扉が開かれてマルグリートが歩み去り(奥に天使が歩き回っているのが説明過剰で野暮だ)、地獄へ一度沈んだファウストの姿が再び浮き上がると、それは老人の姿になっており、傍らでメフィストフェレスが横柄な態度で砂時計を一回転させ、その上に片足を乗せてファウストを見下している。このあたりはまあ納得という幕切れであろう。
 私のうしろの席にいたおばちゃんは、この幕切れには大いに満足らしい声を洩らしていた。

 演出スタッフがカーテンコールに現れると、少なからぬブーイングが飛んだ。METにしては珍しい。
 ジェイムズ・レヴァインの指揮であれば、今回はノーカットで上演するのかと思っていたが、「ワルプルギスの場」やはりカットされており、他にも数個所のカットがあったように思う。レヴァインの指揮はここでもあまり生彩がないという印象だったが、ただこれは、1階席後方の屋根の下の位置で聴いたためかもしれないから、即断は慎みたい。

 迫力抜群は何といってもメフィストフェレスのルネ・パーペだ。ビンビン通る声の力は勿論、堂々たる体躯を生かしての存在感は素晴らしく、軍人から夜会服の紳士、はては尻尾を生やした悪魔の扮装まで、さながらファッション・ショウのごとき舞台。この野獣のような悪魔のスタイルで身軽に柱をよじ登ったりするのだから凄い。パワフル極まりないメフィストフェレスである。
 もっともあまり勢いがよすぎて、しかも若々しすぎて、たとえば旧演出でモリスが見せていたような邪悪な不気味さといったものは、やや割引された向きもある。

 これに次いで存在感を示したのはヴァランタンのディミトリ・ホロストフスキー。何せかっこいい。この役を英雄的に見せることの出来る歌手だ。

 この間に挟まれると、ファウストのロベルト・アラーニャは少々軽くなる。歌唱はいいのだが、意志の権化たるファウスト博士の片鱗はどこにも感じられず、単に女を追い掛ける遊び人でしかない。もっともこのグノーのオペラにおけるファウスト自体がその程度にしか描かれていないことを考えれば、彼は極めて巧みにこの役を演じたといえるのかもしれない。

 マルグリートはソイレ・イソコスキ。きれいな声だが、この演出では弱々しくおとなしい存在に感じられる。シーベルはクリスティーン・ジェプソン、一所懸命にやっている。

 総じてこれは、すべての意味で、グノーのオペラ「ファウスト」の身の丈にあった舞台といえよう。それ以上でも、それ以下でもない。あまりこういう見方はしたくないが、やはりMETという歌劇場のそれが特徴なのかもしれない。

 今回のMETは、この3作のみ。翌日帰国。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中