2024-03

2020・8・2(日)フェスタサマーミューザKAWASAKI
尾高忠明指揮東京フィルハーモニー交響楽団

       ミューザ川崎シンフォニーホール  3時

 音楽祭第10日。桂冠指揮者・尾高忠明の指揮。ベートーヴェンの「三重奏協奏曲」とチャイコフスキーの「交響曲第5番」という重量感あふれるプログラムだ。コンサートマスターは近藤薫。

 第1部で演奏された「三重協奏曲」では、ピアノに田村響、ヴァイオリンに戸澤采紀、チェロに佐藤晴真を迎えていた。
 マエストロ尾高はプレトークで「今日の3人のソリストの齢を全部足しても貴方の年齢に届きませんね、というメールをよこした怪しからんヤツがいてムカッと来た」と聴衆を笑わせていたが、その年齢差があればこそ、若手たちの音楽を堂々たる風格の演奏で包み、鼓舞し、高みに引き上げて行く偉大な家父長としての役割を発揮できたのだろう。彼の指揮する今日の東京フィルのベートーヴェンは、壮大で、甚だ立派であった。

 一方、若手3人の演奏にはもう少し覇気があっても良かったと思うが、彼らがアンコールとして演奏したフォーレの「夢のあとに」は、これは実に瑞々しく清らかで、とりわけ佐藤晴真のチェロにはうっとりさせられた。

 休憩後のチャイコフスキーの「5番」の演奏には、少々驚かされた。尾高のチャイコフスキーがこれほどagitato(激した)なものになるとは予想していなかったからだ。14型編成の東京フィルは、咆哮し怒号し、ホールを揺るがせた。それはまるで、コロナ禍を受けて演奏活動を長期間制限され、また再開しても飛沫感染防止のために小編成の控えめな音量の作品ばかり演奏していたことへの、溜まり溜まった鬱憤と欲求不満とを一気にぶちまけるかのような演奏にさえ感じられたほどである。

 だが、割れんばかりの大音響ではあったとはいえ、尾高の演奏設計は決して野放図ではなく、緻密だ。
 フォルティッシモの個所は、スコアでは間違いなく「ff」と指示されている個所なのであり、更にその上を行く最強音は、スコアではまさしく「fff」と指示されている個所なのである。第4楽章で、再現部がfffで終ったあとに行進曲調の終結部に入った瞬間、演奏は一瞬柔らかくなったような印象を受けるが、そこは金管と弦のリズムがフォルテひとつに、主題もffに抑えられているからだ。
 この対比は、実に明確だった。そしてここでは、熱狂と興奮が一段落して、いよいよ終結という落ち着いた感情を取り戻す模様さえもが、見事に再現されていたのである。

 正直なところを言えば、オーケストラの最強音の咆哮は決して美しいとは言えず、それどころか、特に第1楽章では、金属的で耳障りな印象を抑えきれなかった個所も多かった。しかし、第4楽章ではそれも次第にバランスよくまとまりを示し始めて行った。おそらくオーケストラにとっては、何ヵ月ぶりかの渾身の大音響発散だったのかもしれず、復興途上の現象の一つだったのかもしれない。
 なお、そうしたことの一方で、第2楽章の終結での「pppp」というチャイコフスキー独特の弱音指示も見事に美しく生かされていたことにも触れておきたい。

 アンコールでは、弦楽合奏のみで、チャイコフスキーの「サマーリンの栄誉のためのエレジー」(1884年作曲)という珍しい曲が演奏された。この弦のしっとりした美しさは心に残った。

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