2024-03

2022・1・8(土)東京芸術劇場コンサートオペラvol.8
プーランク:「人間の声」&ドーデ/ビゼー:「アルルの女」

    東京芸術劇場 コンサートホール  2時

 第1部に、観客の前には姿を見せぬ男のために自滅する女の物語、第2部に、観客の前には姿を見せぬ女のために自滅する男の物語。━━実に巧い組み合わせのプログラムだ。
 いずれも演奏会形式による上演で、ステージ上に並んだザ・オペラ・バンドを佐藤正浩が指揮している。

 プーランクのオペラ「人間の声」では、ソプラノの「女」をソプラノの森谷真理が歌った。
 指揮者の下手側前方にソファや欧風(?)の電話機が置かれていたが、これは小道具というよりは単なる装飾的な役割に過ぎず、彼女も譜面を見ながら立って歌うだけで、特に演技らしい演技はしない。

 好調の森谷真理のことだから歌唱ももっと劇的な表現のものになるかと予想していたのだが、意外に「歌」としての性格を押し出したような、まろやかな表現のスタイルになっており、フランス語の歌詞も、なだらかな発音で流れて行くような印象を与えていた。
 そのためもあってか、このオペラの最大のテーマである電話の相手の「男」との話の中で生か死を選ぶまでに追い込まれて行く「女」の切羽詰った感情は、あまりリアルには伝わって来なかったきらいもある。

 この曲は日本人歌手たちも少なからず手がけており、私も近年では、たとえば松本美和子(☞2009年10月12日)や、佐藤美枝子(☞2016年11月16日)、石橋栄実(☞2019年4月27日)らが歌い演じた「女」を聴いたことがある。
 それらに共通する特徴は、フランス人歌手が歌い演じるような激情的な、ヒステリックな狂乱の表現ではなく、どちらかといえば落ち着いた、悲しみをぐっと抑えつけるようなスタイルだったと言えるだろう。その辺がいかにも日本人女性の表現らしいところで、これはこれでこの主人公のひとつの解釈として成立するだろう。
 今回の森谷真理の「女」にも、そういった感情表現の幅がもっとリアルに籠められていたなら、と思う所以である。ただ今回は、その分、オーケストラの雄弁さが目立って伝わって来たところも多かったわけだが。

 第2部での「アルルの女」は、面白かった。こちらには、松重豊(語り、バルタザール他)、藤井咲有里(フレデリの母、ヴィヴェット)、木山簾彬(フレデリ)、的場祐太(その弟)が出演、セリフと演奏とで物語(約80分)を紡いで行く。コーラスには武蔵野音楽大学合唱団(合唱指揮・横山修司)が出演した。全体の構成は佐藤正浩(と、プログラム冊子上では推測される)。

 成功の最大の要因は、出演者たちの「声優的」な巧さにあるだろう。特に松重豊の重厚で滋味あふれる声と、藤井咲有里の明晰で歯切れのいい発音と、そしてその2人による複数の役柄の演じ分けの巧さが、人物たちの交錯の模様を、極めて明快に描き出してくれた。
 木山簾彬のフレデリも内向的な性格表現で筋が通っており、的場の「弟」役は、後半で正気に戻ってもまだ白痴の口調に近いという演出には少々疑問も残ったものの、発声の明快さには好感が持てる。
 なお、藤井、木山、的場は東京芸術劇場の野田秀樹(同劇場芸術監督)演出の舞台にも登場している俳優たちだ。このあたり、音楽と演劇の両分野を手がける同劇場の強みといったところかもしれない。

 こうした声の芝居の中で、ビゼーのこの「アルルの女」の音楽を聴くと、これまでの印象と違い、賑やかな曲想の作品さえもが、何か悲劇的なイメージで感じられるようになる。それはもちろん、演奏の良さがあってのことだろう。
 終演は4時45分。良いプロダクションであった。

 ホールはほぼ満席で、バーコーナーも再開されている。東京都が製作したとかいう爽やかでシンプルなデザインの「風呂敷」が、日本文化を広める「世界最古のエコ・バッグ」(そう言われればそうだ)と称してロビーに景品として並べられていたのも微笑ましかったが、気がつかずに通り過ぎてしまう人たちも多かったのでは?

コメント

貴重な公演を楽しみました!

先生の鑑賞記とほぼ一緒の感想を持ちました。
しっかりした形で「アルルの女」という作品が全曲取り上げられる機会は滅多にないことです。劇付随音楽ということは知っていても、どんな内容でその音楽性や作品の魅力を劇場公演によって知ることは何よりもの喜びになります。録音物等で聴いてはいたものの作品価値を理解するまでには至らなかったのですが、今回の上演に接して「アルルの女」という作品が大好きになりました。オペラ「真珠採り」の音楽なども浮かび上がってくる味わい深いビゼーの音楽にも酔いながら鑑賞できました。松重豊さん(語り、バルタザール他)、藤井咲有里さん(フレデリの母、ヴィヴェット)、木山簾彬さん(フレデリ)、的場祐太さん(その弟)の見事な語りと、武蔵野音楽大学合唱団によるコーラス(合唱指揮・横山修司)とザ・オペラ・バンドの充実した演奏。この感動の公演を企画して、細部にわたって構成して指揮を執った佐藤正浩さん素晴らしかったです。前半に置かれた森谷真理さんのプーランクの「人間の声」も素敵でした。劇場で聴く生演奏の幸せ感を充分に味わえた新年初鑑賞の舞台公演でした。

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