2024-02

2022・2・24(木)METライブビューイング
マシュー・オーコイン:「エウリディーチェ」

    東劇  6時

 今シーズンの「METライブビューイング」(10作)には、これまでになく「現代もの」と「MET初演作品」が多く見られる。
 現代ものは、前回のテレンス・ブランチャードの「Fire Shut Up in My Bones」(☞1月30日)に続き、今回のアメリカの若い作曲家マシュー・オーコイン(1990年生れ)のオペラもそう。他にもまだ先の上演だが、ブレット・ディーンの「ハムレット」というのもある。それだけに、日本のオペラ・ファンがどのような反応を示すか、注目されるところだろう。

 このオーコインの「エウリディーチェ」は、2020年にロサンゼルス・オペラでプレミエされたメアリー・ジマーマン演出によるプロダクションによるもの。台本はサラ・ルール。
 ストーリーはもちろんギリシャ神話の「オルフェオとエウリディーチェ」をもとにしたものだが、捻った部分としては、冥界に連れ去られたエウリディーチェの出番が多く(オペラの題名が彼女になっている理由のひとつでもある)、しかもその冥界で彼女が優しい父親と再会し、彼への愛と、オルフェオへの愛との板挟みになり苦しむ、という設定が挙げられよう。
 これらの愛がいずれも気高いものであるだけに、その結末が所謂ハッピーエンドにならず、むしろ3者がある形で結びつく、という流れとなるのも理解が行く。

 オーコインの音楽そのものは、所謂伝統的手法の枠を出てはいないが、多少のミニマル・ミュージックの影響をも含む、非常に大がかりな、耳に馴染みやすい劇伴音楽(悪い意味で言っているのではない)というイメージか。歌詞(英語)と密接に結びついた劇的な雰囲気と激烈な起伏は充分なので、不気味さを醸し出したり、煽り立てたりする迫力の点では、申し分ない。

 全曲の結びはどのようにするのか、まさか安易な劇伴音楽のようにお涙頂戴で終るのではなかろうな、と冷や冷やしていたのだが、そこはオーコインもなかなかのクセモノ、意外なエンディングで聴き手にすっぽらかしを食わせるというテに出ていたのは、なるほどね、という感。

 歌手陣の歌と演技が完璧だったのは、流石METの良さだ。エウリディーチェのエリン・モーリー、オルフェオのジョシュア・ホプキンス、その分身役のヤクブ・ヨゼフ・オルリンスキのオーソドックスな役柄表現に加え、冥界の王ハデスを歌い演じたバリー・バンクスのけたたましくてコミカルな悪役ぶり、エウリディーチェの父親役のネイサン・バーグの温かく滋味あふれる歌唱と演技の表現など、すこぶる見事である。

 そしてMET音楽監督のヤニック・ネゼ=セガンの、音楽の盛り上げ方の巧さも天下一品といえよう。
 彼は今シーズンのMETの現代作品2つと、新演出の「ドン・カルロス」(5幕版)を指揮するという活躍ぶりで、しかもその「ドン・カルロス」のプレミエ(2月28日)の何と前日まで、ウィーン・フィルの3回のニューヨーク公演の指揮を、例のプーチン大統領への反感のとばっちりを食らって降板させられたゲルギエフの代わりに引き受けているのだから、タフネスの限りだ。
 9時終映。

 余談だが、それにしても━━これまでプーチンとの親交を公言して来たそのゲルギエフとしては、ロシアの「親プーチン派」音楽家の筆頭と目されているだけに、これから欧米各国の中でかなり苦しい立場に陥るかもしれない。翻って「親ゲルギエフ」を自認する私としては、彼がかつて故郷オセチアで、戦争を非難して行なった「私は私の武器を持って来た。音楽という武器だ!」という有名な演説の精神をあくまでも信じているのだが。

コメント

マエストロ ゲルギエフ

東条先生のおっしゃっるように、ゲルギエフさんへの風当たりは強いようですね。偉大な芸術家が、折れてしまわないことを、祈るばかりです!

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