2024-03

2022・3・3(木)びわ湖ホールのワーグナー:「パルジファル」初日

       びわ湖ホール  1時

 「びわ湖ホール プロデュースオペラ」の看板でもあるワーグナー10作品ツィクルス、今年は「パルジファル」。
 コロナ蔓延の影響を受けたこともあって、昨年の「ローエングリン」以降はセミ・ステージ形式上演となっている。しかし音楽自体が素晴らしいものだし、それにじっくりと浸ることができるという点において、なまじ舞台上の景観に気を取られずに楽しめるこの形式の上演は、決して悪いものではない。

 今回の演奏は、例年通りの沼尻竜典指揮の京都市交響楽団とびわ湖ホール声楽アンサンブルと、ソリストは福井敬(パルジファル)、斉木健詞(グルネマンツ)、田崎尚美(クンドリ)、青山貴(アムフォルタス)、妻屋秀和(ティトゥレル)、友清崇(クリングゾル)、西村悟&的場正剛(聖杯の騎士)、八木寿子(天上からの声)その他という顔ぶれ。コンサートマスターは泉原隆志。

 この日の上演では、オーケストラがピット内の配置をそのままに舞台に載り、ソロ歌手陣はステージ手前に位置し、暗示的な演技を加えつつ、譜面なしで歌っていた。合唱は、ステージ奥に多少の視覚的趣向を施して配置されている。

 背景には巨大なスクリーンがあり、そこに動画映像による演出(高橋啓祐)が加わる。映像には、全曲冒頭では幻想的な林の情景なども現れていたが、その他は概して抽象的な映像だ。聴衆は全員が筋金入りのワグネリアンとは限らぬわけだから、この映像演出は効果的だろう。
 第2幕の「魔の口づけ」の場面での不気味な映像の動きなどは、納得できるものだろう。ただ、第3幕の救済の場面では━━それが真の救済か、仮の救済かという解釈の違いはあるだろうが━━もう少し劇的な映像演出があったらと思われる。なお、他の個所にしばしば現れる赤い地に白の線が混じる映像は、なぜか、しゃぶしゃぶのテーブルに置かれた牛肉を連想させた‥‥。

 沼尻竜典が、今年も流麗なワーグナーを聴かせてくれた。テンポはモデラートなものだったが、第1幕前奏曲はトスカニーニばりの遅いテンポで開始されたので、なるほどこれでは会場各所に掲示されているタイム・スケジュール通りに、6時半までかかるのかもしれないと、内心たじろがされたのは事実。だが実際には、各30分の休憩2回を含み、6時少し前には終演となった。まあそれが普通でしょう。

 ともあれ、あまり感情過多にならず、ことさら濃厚な表情にもならず、誇張なしに進めて行くのが、彼のワーグナー演奏である。それは抒情的な美しさは充分だったが、たとえば第1幕と第3幕の場面転換の音楽などには、もう少しデモーニッシュな物凄さがあってもいいのでは、と思われた。それと全曲の大詰めの個所、救済の場面から終結の音楽にかけても、やや淡白に過ぎて、もう少し「泣かせる」盛り上がりも欲しかったのが正直なところ。

 京響は、今回もいい演奏をしてくれた。第1幕でのたっぷりした量感は魅力だったが、第2幕以降は、気のせいか、少し音が薄くなったような感もなくはない。

 歌手陣が素晴らしい。グルネマンツ役の斉木健詞の風格ある声による存在感は見事だったし、クンドリ役の田崎尚美も先日の新国立劇場の「さまよえるオランダ人」をさらに上回る力強い劇的な歌唱で映えた。
 ティトゥレル役の妻屋秀和は(ト書きとは異なり)ステージ上で歌ったが、その底力ある声はモンサルヴァート国に隠然たる力を振るう先王に相応しい。現王アムフォルタス役の青山貴も、重傷に喘ぐ王としてはむしろ元気に見えるほどの歌唱だった。

 一方、パルジファル役の福井敬は、日曜日の2日目公演に備えて少しセーブしていたか? 彼は衣装でも些か損をしていたように思われる。魔人クリングゾル役の友清崇は、悪役としては少し控えめな表現の感。

 これまでの例では、初日はドラマティックな盛り上がりに不足する演奏になることが多かったが、今回は満足できる水準の内容だったのは嬉しい。第2回公演ではさらに良くなるだろう。

コメント

沼尻さんの16年

帯状疱疹とかのことも書かれておりましたので、体調はいかがですかとホールでお伺いしましたが、お元気そうで何よりでした。
当初の予定終演時刻が1時間以上前倒しで正味4時間に満たなかったのは、どこかをカットしたに違いないと思うのですが、聴き込んでいる作品じゃないのでよくわかりませんでした。
来年で、びわ湖ホールのワーグナー上演もひと区切り、沼尻さんから阪さんに替わると、いろんな変化もあるでしょうね。HPにも書きましたが、沼尻さん、いろいろあった16年間、よくやったと思います。

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