2024-03

2022・4・21(木)大野和士指揮東京都交響楽団

      東京オペラシティ コンサートホール  7時

 予定されたシューマンの「ピアノ協奏曲」とR・シュトラウスの「英雄の生涯」の前に、ウクライナ出身の作曲家ヴァレンティン・シルヴェストロフの「ウクライナへの祈り」という曲が追加され演奏された。
 友部衆樹さんの解説ブリーフによると、これは2014年の反政府デモ「尊厳の革命」に際し流血の犠牲となった市民を悼んで作曲された合唱曲集の一つをもとにした管弦楽編曲版である由。「主よ、ウクライナを守り給え」という原曲の歌詞をそのまま忍ばせる叙情的な曲想をもつ小品で、その美しさゆえに聴き手の心を締めつける。
 今年3月にデンマークで初演されているとのことだが、今回の日本初演も時宜を得た企画であろう。

 プログラム本体の前半はシューマンの「ピアノ協奏曲」で、ソリストは藤田真央。両者の一種くぐもった音色が、シューマンの翳りある心理状態といったものを的確に描き出していた。
 ただ、藤田真央の弾き方はかなり「個性的」になっていて、時にぎくりとさせられるところがある。聴き慣れたこの曲が新鮮なイメージで蘇ると言えば言えようが、安心して聴いていられるような演奏というわけには行かない。ソロ・アンコールでのモーツァルト「K.545」の第1楽章での後半の装飾豊かな演奏はその補完ともいうべきか。

 後半は、R・シュトラウスの「英雄の生涯」。大野と都響の「英雄の生涯」を聴いたのは、私にとっては14年ぶり(☞2008年9月13日以来)だと思う。
 コンサートマスターはあの時と同じ矢部達哉だったが、しかし今日の彼の演奏は、あの時とは最早比較にならぬほどの表情の豊かさ━━つまり「英雄の伴侶」役としての表現がより多彩に、しかも官能的になっていたのに魅惑された。

 この「英雄の伴侶」の場面でのヴァイオリン・ソロを、恰もコンチェルトのように弾きまくるコンサートマスターは意外に多いのだが、矢部達哉はそんな愚を繰り返さない。ゆえにこの場面では、大野の起伏豊かな指揮と相まって、英雄とその伴侶が本気で口喧嘩をし、本気で睦みあうといった光景も、すこぶる見事に描写されていたのである。

 大野の指揮は、殊更に矯めをつくるような演出を避け、滔々と流れるストレートな構築を採っていた。冒頭の低弦からしてメリハリが強烈だし、その後のさまざまなモティーフの交錯なども全て明晰なので、曲が実に面白く感じられる。「英雄の戦い」での壮烈な推進力は目覚ましく、実に流れがいい。
 そして、「英雄の引退」から最後の終結にかけての叙情的な部分でもオーケストラは均衡豊かに歌い続け、極めて美しい。矢部のみならず各パートのソロがすべて見事に決まっていたことも、この曲をいっそう表情豊かに、微細なニュアンスを以て聴かせてくれた一因であろう。

 以上は、2階席正面で聴いた印象だ(このホールは、1階席と2階席でかなり音響が違うので、演奏の特徴まで異なって聞こえることがある)。

 ともあれ、今日の演奏は、私がこの30年ほどの間に聴いた多くの「英雄の生涯」の中でも、屈指のものではないかという気がする。ただ、━━このホールは、この演奏には小さすぎたろう。もっと大きなステージと音響空間を持つホールで聴きたかったな、と思わせる演奏であった。

コメント

最近の都響は金管が粗くミスが目立つが、先月のギルバート氏とのブルックナーに続いて、瑕の少ない好演。初日は、仕事が思わぬ事態で長引き、初台についたら藤田真央氏のシューマン協奏曲は聴けず。英雄の生涯は47分ぐらいの遅めの店舗で安全運転感はあれども、ずっしり重厚でホルン首席西條氏ほか金管陣も安定。ソロの矢部氏をはじめ弦もつややか満足して家路に。もう一度聴きたいと思いました。翌日は初台の高関氏シティのブルックナーに行く予定だったが、藤田氏のシューマンを無性に聴きたくなって当日券を買って都響2日目の文化会館公演に行きました。藤田真央氏のシューマン協奏曲は一昨年N響で聴いていましたが、今回はさらに「軽み」「浮遊感」が増した個性的演奏でした。真面目なロマン的伝統的シューマン像で演奏する大野氏の指揮とずれまでは感じませんでしたが、粒だった響きのモーツアルト的なフワフワ感は稀有な個性です。ある意味グルダ的です。好悪は分かれると思いますし、彼が老人になってもこの路線で行けるのか心配でもありますが。2日目の英雄の生涯はさらに完成度が高かったです。座った席が良かったためか、初台より上野のほうが意外に音響が良いのではないかともいました。サントリーホールの工事が恨めしいです。迷った末シティフィル(最近一部ファンのバランスを欠いた判官贔屓が気になる)を聴かず残念でしたが、東条先生の評を拝読して、この選択には満足しました。都響は首都圏オケの雄なので、時にみせる精度や熱量の低い演奏から脱却し、いつもかくあってほしいものです。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中