2024-03

2022・5・13(金)山下一史の大阪交響楽団常任指揮者就任記念定期

      ザ・シンフォニーホール(大阪)  7時

 山下一史は2016年4月から千葉交響楽団の音楽監督を務めているが、この4月からは、愛知室内オーケストラの音楽監督と、この大阪交響楽団の常任指揮者を兼任することになった。大変な忙しさだろう。
 今日の大阪響定期はその就任記念。ワーグナーの「ジークフリート牧歌」、R・シュトラウスの「4つの最後の歌」(ソプラノは石橋栄実)および「英雄の生涯」を指揮した。コンサートマスターは森下幸路。

 このところ何故か「英雄の生涯」がかち合うが、どれも指揮者とオーケストラが腕に縒りをかけて取り組んだだけあって、立派な演奏ばかりだ。今日の山下と大阪響も、かなり念入りなリハーサルと積んだのだろうが、両者の最良の部分が示されていたのではないかという気がする。

 山下一史が描き出したこの「英雄」は、私が感じ取った範囲で言えば、すこぶる折り目正しく端然とした、ノーブルな「英雄」ではなかろうか。先日、大野和士が描いた闘争的な「英雄」とも、広上淳一が描いた円熟の境地に入った「英雄」とも違う、そこのところが面白い。
 例えば、冒頭からして山下の「英雄」は落ち着き払っているし、「伴侶」との対話の個所では紳士然とした「おとな」の夫といった表情なのである。

 オーケストラは均衡豊かなアンサンブルを響かせ、豊麗さも、劇的な壮烈さをも十全に備えた演奏となっていた。
 ホルンは、「4つの最後の歌」における演奏ともども、いいソロを聴かせてくれた。また、コンマスの森下幸路は、「4つの最後の歌」で美しいソロを披露した後、「英雄の生涯」ではコケットで駄々っ子的な、噂に聞くR・シュトラウス夫人その人を想像させるソロを弾いた━━この手に負えぬ「妻」(ヴァイオリン)と、泰然としたおとなの主人公(低音の金管他)とのやりとりのくだりが、今回の演奏では実に巧く描写されていたと思う。

 そして、全曲の終結を為す「英雄の隠遁」の部分で、シュトラウスの旧作の各モティーフが走馬灯のごとく流れて行き、曲が次第に終りに近づいて行くあたりでの柔らかい安息の情感も、オーケストラの均衡に富む響きによって、見事な世界となっていたのである。

 だが、そこまではいいのだが、━━こういう丁寧な構築で、そして優しく深みのある音で「英雄の生涯」以外の2曲も演奏されていれば━━「ジークフリート牧歌」はともかくとしても、「4つの最後の歌」のオーケストラ・パートがもっと優しく官能的に演奏されていれば、折角の石橋栄実の歌もいっそう映えたと思うのだが、如何なものか。リハーサルの大半を「英雄の生涯」に注ぎ込んでしまったのか、他の2曲でのオーケストラの演奏が何とも無造作で密度に不足し、愛情が感じられなかったのだ。それが惜しまれる。
 こういうギャップをどう埋めて行くかが、今後の大阪響の評価の分かれ目となるのではないか?

 だがまあ、それはそれとして、この「英雄の生涯」1曲だけでも、こういう演奏を可能にしたという点で、山下一史の常任指揮者就任は大成功だった、と今日は申し上げよう。児玉宏によってレパートリーを開拓され、外山雄三によってアンサンブルを厳しく整備された大阪響が、今後どのような展開を見せてくれるか。期待してまた聴きに来よう。

 昼間の土砂降りの雨も、夜にはどうやら小降りになった。明朝の移動に備えて、伊丹の大阪空港ホテルに投宿。この空港も昔に比べ、綺麗になった。

コメント

マエストロ山下

土砂降りの中、お疲れ様でした。マエストロ山下の常任指揮者就任記念ということで、楽しみにしていました。山下さんの指揮は、さすがです。とりわけ、「英雄の生涯」は、お見事でした。大阪響さんとの相性、良さそう。この1曲だけでも、拝聴した甲斐がありました。大阪響さん、力をつけられたと思います。これからの展開、私も期待しています!

山下/大阪響

ジグフリート牧歌は冒頭からアンサンブルがまとまらず心配したが石橋栄実の最後の4つの歌はオーケストラの音に消されることなく逆に大きく包むという歌唱で感涙ものでした
。英雄の生涯は 弦14通常配置,ホルン9本の大編成であるが演奏に瑕疵は見られず安定感のある指揮ぶりで感じ入りました。暗譜でした。若き日にカラヤンのアシスタントを務められていた山下さんいよいよ円熟されて今後期待されます。気品があります。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中