2024-03

2022・5・29(日)上岡敏之指揮読売日本交響楽団

      東京芸術劇場 コンサートホール  2時

 袖から登場した時から既に何か歩き方が変だと思ったが、指揮台に上がろうとして躓き、コンサートマスターの長原幸太さんの介添えを受けてやっと定位置に就いたマエストロ上岡。満席に近い場内からも驚きの叫び声が上がり、われわれも一瞬凍りついたが、何とか無事に演奏が開始されたのは幸いだった。
 (終演後に楽屋を訪ねたら、「膝が痛くて痛くて、足が上がらないんだ」と顔をしかめていた。かく言う私も今また猛烈な腰痛のさなかにあり、立ち上がるのも必死という状態なので、彼が躓いた時には他人事には思えなかったほどだ)。

 その余波か、あるいはこちらの心理的動揺の所為か、1曲目のメンデルスゾーンの序曲「ルイ・ブラス」は、何かガサガサした演奏のまま終ってしまったような気がする(まあ、曲が曲だし)。
 オーケストラが豊麗な音を出し始めたのは、2曲目のメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調」からである。ソリストのレナ・ノイダウアー(ミュンヘン出身)の甘い音色の所為で、この曲が不思議にインティメートな雰囲気に聞こえたことだけを記しておく。

 圧巻は、やはりチャイコフスキーの「悲愴交響曲」における演奏だ。最近聴いた「悲愴」の中で、これほど壮絶な演奏は他に思い当たらないほどである。

 上岡は、ここではテンポの誇張も、強弱の誇張も、一切行わなかった。第1楽章の再現部以降の部分でも、殊更にテンポを伸縮させたりすることなく、むしろあっけないほどに速めのテンポを保持したまま、コーダの謎めいた木管のコラールまで音楽を推し進めて行った。だが、提示部の第2主題における弦の歌などでは、それこそオーケストラ全体が大波のように揺らいでいたし、また展開部では、オーケストラはまさに恐ろしいほどの狂気の沸騰を繰り返していたのである。

 第3楽章の後半でも、不自然な加速は行われることなく、引き締められたテンポのまま音楽が沸き立ち、上岡が金管群と打楽器群へ激しい身振りの指示を繰り返すごとに、音楽が高みへ、高みへと煽られて行くように感じられた。
 こうしたデモーニッシュな演奏は、やはり読響の並々ならぬ力感━━驚異的な音量と量感、緊迫度を失わぬ推進性、といった美点からも生れたものであろう。

 それにしても、こういう演奏を聴くと、やはり上岡敏之という指揮者は、ただものではない存在だという感を新たにしないではいられない。また早い機会に、彼と読響が共同でつくり出す演奏を聴いてみたいものだ。

コメント

ルイブラス

悲愴をちゃんと演奏すればすさまじい説得力が出るー凄い曲の凄い演奏でした。日本人にありがちな変なコブシが皆無で、悲しいところでテンポが流れるから、余計悲しいです。一楽章展開部の最後は当方決壊しました。メンコンはソリストにびっくり。けれん味が無いから評判になりませんが、音程音色歌い口、全てに過ぎない、大人の演奏でした。ルイブラスは逆の感想で、あんなことがあったのに、あんな演奏とは、流石の一語。メンデルスゾーンではなくヴェルディのような熱さでした。上岡さんは、いろいろとクライバーの匂いがします。オケはかなり選びますが、読響との成果を期待です。

背中がやや丸くなり、激痩せ。そして転倒。新日本フィルを振っていた頃の颯爽とした身の熟しからは想像も出来ない舞台姿を見てしまい、衝撃を受けましたが、ルイ・ブラスもメンコンも悲愴も極めて素晴らしい演奏でした。演奏終了時に指揮者だけが拍手で呼び出されたのも当然でしょう。上岡さんの御健康の回復を祈念したいと思います。
上岡さんは、かつて誰かのインタビューに「自分の演奏はショルティの演奏に似ていると思う」と答えていた事がありましたよね。正直かなり驚かされたのですが、出てくる音楽は全く違うように見えても「スコアに書かれていない事は一切やっていない」点で歌劇場の名職人ショルティと共通するものがあると言いたかったのだと思います。時折見せる「奇を衒っている」ような表現も「スコアを良く読めばそう書いてあるんです」という事になるのでしょう。スコアも読めず、プロの音楽家でもない私にはそれ以上の事は分かりません。しかし、一人の聴衆として、現役の指揮者の中で彼の演奏が一番しっくりくるのも事実です。東条先生が「苦情」を訴える表現も逆に楽しくてたまらないのですね。上岡さんの演奏は、クラシック音楽の楽しみとは何なのかを全ての聴衆に考えさせる幅広い射程を有するものであり、今後50年間くらい経過しないと真価は見えてこないものなのかもしれません。

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