2024-03

2022・10・5(水)新国立劇場「ジュリオ・チェーザレ」

    新国立劇場  5時

 新シーズン開幕公演、ヘンデルの「ジュリオ・チェーザレ」(ユリウス・カエサル、ジュリアス・シーザー)。4回公演の今日は3日目。

 リナルド・アレッサンドリーニが指揮、ロラン・ペリーが演出した。
 配役は、マリアンネ・ベアーテ・キーランド(ジュリオ・チェーザレ)、加納悦子(コルネーリア)、金子美香(セスト)、森谷真理(クレオパトラ)、藤木大地(トロメーオ)、ヴィタリ・ユシュマノフ(アキッラ)、駒田敏章(クーリオ)、村松稔之(ニレーノ)。新国立劇場合唱団、東京フィルハーモニー交響楽団。

 これは、もともとはパリ国立歌劇場のプロダクションだそうで、美術にシャンタル・トマ、照明にジョエル・アダム、ドラマトゥルクにアガテ・メリマンを起用しているといったように、かなり凝った舞台をもった演出だ。新国立劇場が事実上初めて手掛けるバロック・オペラとして、大野和士・芸術監督が力を入れた上演でもある。コロナ蔓延のため延期されていた上演が、今回やっと実現されたのは嬉しいことである。

 ロラン・ペリーの演出は、ドラマの場面をある博物館の倉庫に設定するという奇想天外な発想━━しかし先日、美術館を舞台にした「パルジファル」などもありましたね━━に基づいているが、登場人物の性格や動きには、特に捻ったり歪めたりしているところは見られない。コルネーリアとセストの母子関係もシリアスであり、シーザーの性格も極めて真面目である。以前ザルツブルク音楽祭で上演されたレイゼル&コーリエ演出のような、エジプトでの石油発掘権争奪戦に読み替えるような手法とは、全く違う。

 オペラは、シーザーの巨大な銅像が貨物運搬用エレベーターで運び込まれる場面に始まり、その他にも収納されている銅像や絵画など、さまざまな展示品などからイメージが創られた登場人物たちがドラマを展開させるという形になる。博物館の裏方スタッフも、そのイメージの中で、兵士になったり、敵味方になったりしてドラマに参加する「助演」の役割を果たす。

 人物の演技は、時にコミカルなものになるが、それはペリーが指摘しているように、このオペラに包含されている要素を生かしたものにほかならない。それが洒落たジョークになり、自然な流れを形づくっているところが、いかにもペリーらしい特徴だろう。
 オペラの大詰めは、登場人物は全て展示品としての彫像などに戻り、博物館のスタッフが懐中電灯でそれらを確認するという光景で幕が下りるというわけで、━━これはまさに、あの映画「ナイト・ミュージアム」のイメージそっくりだ。

 今回の上演では、音楽面も充実していた。アレッサンドリーニの指揮は手堅い感だが、些かの緩みもなく、テオルボも加わった東京フィルから柔らかい響きを引き出して、極めて快い音楽をつくっていた。私もこれまでにこのオペラをナマで聴いたのは10回に満たぬ数しかないが、音楽がこれほど美しく温かく、親しみやすいものに感じられたのは、これが初めてかもしれない。なおオーケストラでは、第1幕のチェーザレのアリアで活躍するホルンのソロの鮮やかさを讃えたい。

 歌手陣では、コルネーリア役の加納悦子の真摯な演技と歌唱が特に印象に残ったが、アキッラ役のユシュマノフ、シーザーの部下クーリオ役の駒田敏章ら2人のバリトンの伸びやかな声と演技も良かったし、何だかよく解らない人物ニレーノ役の村松稔之の怪演ぶりもなかなかのものだった。藤木大地のトロメーオも、淫蕩な性格を丸出しにして行く後半のややコミカルな表現が巧い。森谷真理のクレオパトラは、このペリー演出ではむしろ無邪気で少しコミカルな性格として描かれており(こういう演出はよくあるのだが)、少し軽い女性となっているが、ともあれ大熱演を讃えよう。

 金子美香のセストは、子供らしさを出し過ぎたのがちょっと裏目に出たような気もするが‥‥。キーランドの題名役チェーザレは、いい歌唱ではあったが、もっと存在感のある演技が欲しかった━━今回の舞台、主役が誰だかはっきりしないという傾向がなくはなかったか? それがペリーの原演出によるものか、演出補のローリー・フェルドマンの指示の所為か、あるいは他の原因によるものかは判らないけれども‥‥。

 休憩2回(25分、30分)を含み9時半終演。

コメント

東条さんの公演評からすると、初めてのジュリオ・チェーザレ観劇が新国立だった私は本当に幸せです。5月のオルフェオとエウリディーチェに続き、バロックオペラ上演への大野芸術監督の熱意は大いに評価したいと思います。パリオペラ座の秀逸な演出と、歌手と指揮者とオーケストラのバランスも見事でした。ライブビューイングでおなじみのMETに匹敵する充実ぶりだったのではないでしょうか。
古代の人物を人間味にあふれ感情豊かに表現しているところに、親しみと安心感をもてました。作曲者ヘンデルもユーモアを兼ね備えた人だったのかもと想像したり…
当初5日のみ観劇の予定でしたが、思わず最終日を追加してしまったほどです。ワーグナーでなくても上演時間4時間半を長いと感じない。一見繰り返しの音楽が飽きるどころか、その微妙な変化がなんだかクセになる、という驚きと新たな発見も楽しかったです。

感動を誘う見事な公演でした

五日と八日の公演を鑑賞しました。
バロックオペラの面白さが十分に感じられて楽しめました。バロックオペラは魅力に富んだ作品がとても多くあるにもかかわらず、演奏者の力量が如実に表れるので、下手な公演に接すると退屈この上ないものになります。特に全体を統率する指揮者の役割は大きいものがあります。今回のアレッサンドリーニさんの音楽づくりは、実に生き生きとして、劇場全体を統率するかのような指揮ぶりには目を見張るものがあり、見事に舞台と一体化して感動を誘う上演に導きました。新国立劇場の舞台機能も大いに生かされた上演は、贅沢で上質なオペラ鑑賞となりました。先生ご指摘のセスト役等の歌手への感想について同感です。しかし、慣れていないと思われるバロックオペラを、ほぼ日本人キャストによってとても充実した上演できたことは、これからの国内でのバロックオペラ上演への期待を大いに抱かせるものになったと思います。

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