2024-03

2022・11・24(木)内田光子&マーク・パドモア「白鳥の歌」

       東京オペラシティ コンサートホール  7時

 シューベルトの「白鳥の歌」を後半に置き、前半にはベートーヴェンの歌曲から「希望に寄せて」(第2作)、「諦め」、「星空の下の夕べの歌」、および歌曲集「遥かなる恋人に」を配したプログラム。

 この日配布されたプログラム資料には、上記のように、ピアノの内田光子の名の方が先に記されていた。なるほど確かに、マーク・パドモアも名の知られた名歌手だが、音楽家としての成熟度や深みという面から言えば、やはり内田光子の方が格上であるに違いない。
 彼女のピアノは、このような歌曲における演奏ではあっても、ソナタでの演奏のように自ら「物語」の雄弁な語り手となっており、しばしば声楽をもリードしてしまう力を備えている(ように感じられる)。

 今日のシューベルトの「白鳥の歌」では、そのテンポの遅さが彼女とパドモアのどちらのテンポによるものかは承知していないが、普段の演奏スタイルからすれば、これもやはり彼女のテンポではないかという気がする━━「影法師」の終結でのピアノの暗い沈潜した表情の、今にも止まってしまいそうなテンポは、内田光子でなければできないものだろう。

 そしてもうひとつ、「白鳥の歌」第14曲の「鳩の便り」が、ふつう演奏されるような解放感を持たず、むしろ第13曲の「影法師」の悲劇性を引きずったような形で始められたのも興味深いが、これも彼女の主導か? ともあれ、彼女のピアノが、旋律よりもむしろ、豊かで表情豊かなハーモニーによって物語を展開して行く性格のものであることも聞き逃せない。

 マーク・パドモアの歌は、CDで聴くと、私にはソット・ヴォーチェが如何にも作為的で過剰気味のように思えてしまうことが多いのだが、このようにナマで聴くと、それがダイナミック・レンジの幅の広さというように感じられることもあって、さほどの違和感にはならない。むしろ、その見事なほどに表情豊かなソット・ヴォーチェの多きがゆえに、たまに聴かせる、ホールを揺るがせる最強音が凄味を帯びて聞こえる。
 それは、ベートーヴェンの歌曲集の最終曲「愛する人よ、あなたのために」の結尾では極めて強い決意を表わすものとなり、あるいはシューベルトの「アトラス」「影法師」でのクライマックス個所では、凄まじい悲劇的な叫びで聴き手を圧倒することになるだろう。

 「白鳥の歌」が終って、カーテンコールが3回ほどあったあと、ホールの照明が上げられ、これでお終いという合図が為されたのは賢明な方法であった。だれだって、このような強烈な「白鳥の歌」の演奏を聴いたあとでは、もう1曲なにか別の曲を聴きたいとは思うまい。

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