2024-03

2022・11・29(火)マリア・ジョアン・ピリス リサイタル

      サントリーホール  7時

 マリア・ジョアン・ピリス(マリア・ジョアン・ピレシュ)が4年ぶりに来日した。
 今回は「ピレシュ」でなく、また「ピリス」の表記が復活されていたが、まあ、その方がやはり広く馴染みがあるだろう。

 周知の通り、彼女は5年前に一度引退を表明、翌年「最後の」日本公演(☞2018年4月17日)を行なっていた。が、そうはいうものの、多分もう一度聴ける機会もあるんじゃないのかな、という予感がしていたのだが、案の定、演奏活動が再開されたわけだ。嬉しい話である。

 今回の来日公演は、東京と大阪(12月2日)の2回だけらしい。プログラム(2回共通)は、シューベルトの「ソナタ第13番イ長調」と「第21番変ロ長調」の間にドビュッシーの「ベルガマスク組曲」を挟んだ構成である。アンコールもドビュッシーの「アラベスク第1番」だった。

 「イ長調ソナタ」が始まった時の音楽の温かさに、ピリス健在なり、という印象を与えられる。演奏に溢れるこのヒューマンな情感は、全く彼女ならではのものである。シューベルトのソナタでの優しさは、昔と全く変わらない。
 また、彼女のドビュッシーは、これまであまり聴く機会がなかったが━━以前(☞2014年3月7日)のリサイタルで「ピアノのために」を聴いたことはあるが、今回の「ベルガマスク」といい、「アラベスク」といい、彼の比較的前期の作品であれば、彼女の共感を呼ぶのかもしれない。

 が、そうはいうものの、今回聴いた彼女の演奏は、やはりもう、昔の彼女の演奏とは違う。昔だったら和声にももっと均衡が豊かだったはずなのに、と思わせたところもいくつかあったのは事実だ。それについては言っても詮無きことではある。
 ただ、これだけが残念だったのは、今日のピアノである‥‥。シューベルトのソナタの演奏が音色の変化に乏しく、平坦に聞こえてしまったのは、やはり楽器のせいではないのか。ドビュッシーにしても、ピリスが弾くのだからフランス風の雅で透明な音色になるはずはないけれども、それにしても、何とも淡彩で、無色な「ベルガマスク」になっていた。彼女が以前のリサイタルでこのメーカーのピアノを使用した時は、こんな音ではなかった。

 客席は壮観なほどに満員、彼女を━━それも「ピレシュ」でなく「ピリス」を━━覚えている人たちが集まったのだろう。カーテンコールでは聴衆も総立ちになった。これがファンというものだ。熱狂的な拍手に応えていた彼女の嬉しそうな笑顔の、何と温かく優しく、美しかったこと!

コメント

大阪公演

12月2日には同じプログラムの大阪公演がありました。東京と同じメーカーで、シンフォニーホール所有のCFXコンサートグランドが弾かれましたが、音楽の陰影が見事に表現されており、4年間のブランクを感じさせない演奏でした。冒頭13番の1楽章弾き初めから、音がホール全体を満たし、陶然としました。ピアノが鳴っているというよりもホール全体が鳴っているような錯覚は、そう多くはありません。ピアニストにとって楽器のコンディションは死活問題だと思うのですが、S社とは異なるCFXのある種日本的な色彩感が、この日の彼女の音楽づくりを支えていたと思います。一期一会というにふさわしい印象深い公演でした。

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