2024-02

2022・12・28(水)飯守泰次郎指揮東京シティ・フィル「第9」

      東京文化会館大ホール  7時

 東京文化会館大ホールがこれだけぎっしりと満席になった光景は、そう度々見られるものではないだろう。だが同業の某氏に訊くと、彼の聴いたいくつかの他の「第9」公演も全てほぼ満席だった由で、それは「独りで聴きに来る」よりも家族友人と一緒に聴きに来る人が多いからではないだろうか、という観測だった。

 ともあれこの「暮れの第9」を聴きに来る人たちを眺めていると、「善男善女の第9詣で」という言葉が浮かんでしまう。当節、目出度いことに違いない。そして、東京シティ・フィルがこれだけの聴衆を集めるようになったことも、目出度いことだろう。

 そしてまた、今日の演奏会が人気を集めた一因は、今や日本の指揮界の長老格となった飯守泰次郎(東京シティ・フィル桂冠名誉指揮者)が「第9」を振る━━ということにもあったのではなかろうか。
 飯守さんは、ステージの袖から指揮台まで人に支えられながら歩行する状態ではあるものの、いざ指揮台に上がれば椅子にもほとんど掛けることなく、凛然とした姿で長大な曲を指揮し続ける。その気魄の強烈さが背後のわれわれの方にも伝わって来るという雰囲気である。

 今日のシティ・フィルの演奏も、全曲にわたり少しの緩みもなく、非常に強い明確なリズム感を以て、推進力の豊かなテンポで進められていた。飯守泰次郎のエネルギー未だ健在なり━━を目の当たり視て、実際に演奏を聴いて、そのように感じられたことは嬉しい。

 もともと残響の少ないこのホールが、これだけ満杯になると、音の響きはいっそうドライになり、オーケストラや声楽のアンサンブルのずれなどがはっきりと聞こえてしまうのは残念だが、仕方があるまい。
 今日の声楽陣は田崎尚美(S)、金子美香(Ms)、与儀巧(T)、加耒徹(Br)、東京シティ・フィル・コーア。コンサートマスターは戸澤哲夫である。

コメント

東京近郊の人の第九の聴き方に独自性があっても良いとは思いますが、日本で複数の第九を聴き比べる機会が東京にしかない現状は、やはり是正されるべきなのかもしれません。文化の一極集中が酷すぎます。
戦火のウクライナでも国立歌劇場が公演を再開して良かったねという話をある在日ウクライナ人の方に申し上げたのですが、彼曰く、「恵まれているのはキーウの人だけ。音楽が必要な人は全国にいる。彼らはキーウまで聴きにくることができない。」とか。首都圏のみが優位性を持ち、地方に恩恵が及んでいない現状が隠蔽されるのは世界中どこでも同じなのかもしれません。

飯守さんと戸澤さん率いるシティフィルが心のこもった、そして残響が少ないデッドなホールにも関わらずというかだからこそ良さがわかるとても美しいハーモニーを奏でて最高の演奏でした。ただし、ソロの歌いだしが、昭和の日本でよく聴かれたようなピッチが聴き取れない絶叫調でヴィブラートも過多だったのが唯一残念な点でした。

ベートーヴェン第九は特に年末になると日本各地でたくさん演奏されますが、私は敬遠することが多く、今でもどの演奏を聴いても「よかった」とは思えないタイプではあります。
この日は飯守さんらしい(?)どっしりとしたゆっくりめのテンポで、奏者も大変そうだなーと思えるところもあり。でもその調べに身を任せていられるというか、ベートーヴェンのやさしさや温かさといった私の好きな面がしっかり感じられる第3楽章が癒しでした。飯守さんご本人も公式サイトで「静けさ、穏やかな優しさもまた彼の本質」とのメッセージを書かれていて、私はそれを演奏会後に読んだのですが、会場でそのように感じることができてよかったなとうれしくなりました。
今回2階ステージ近くのR側から飯守さんに注目していましたが、ソリスト入場後は加耒さんが3楽章の癒しの音楽を全身で浴びて身をゆだねているように見え、私だけではないのだなと思えたことも印象的でした。
2022年締めくくりの演奏会で本当によい時間を過ごせた喜びと、その時間が終わってしまうことへの寂しさが混在し、少し複雑な気分でした。
開演前に突然話しかけてしまいましたが、お相手してくださりありがとうございました。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・衛星デジタル音楽放送
ミュージックバード(エフエム東京系) 121ch THE CLASSIC
「エターナル・クラシック」
(毎週日曜日 12:00~16:00放送)出演

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中