2024-02

2023・2・24(金)ミハイル・プレトニョフ指揮東京フィル

      サントリーホール  7時

 第1部では、昨年のヴァン・クライバーン国際コンクールで優勝したイム・ユンチャンをソリストに、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第5番《皇帝》」が演奏された。そして第2部は、チャイコフスキーの「マンフレッド交響曲」。コンサートマスターは依田真宣。

 イム・ユンチャンは韓国生まれ。未だ18歳か、19歳だろう。素晴らしく個性的なピアニストだ。奇を衒うタイプではないが、音符の一つ一つに新鮮な解釈を施す演奏家である。
 「皇帝」冒頭のカデンツァは、まあ何と愉し気な表情に溢れた演奏であることか。これに続く第1楽章全体の演奏が、溌溂として躍動している。

 最近グラモフォンから出た彼のライヴ録音の「皇帝」(UCCG-1899)のライナーノーツに、「この曲で一番好きなのは第2楽章から第3楽章へのアタッカのところ」と彼が話しているインタビュー記事が掲載されていたので、今日はどんな演奏をするのかと注目していたのだが、果たしてこれは、予想を上回る面白さだった。

 イムは第3楽章のアレグロに入った瞬間をメゾ・フォルテで開始し、クレッシェンドしてフォルティッシモに持って行く、という設計を採る。それがまた、如何にも解放された愉悦感で沸き立っている、という雰囲気なのである。しかもプレトニョフがそれを受けるように、そのあとのオーケストラのトゥッティの2小節目のsfのついた4分音符2つを猛然とクレッシェンドさせて煽り立てるものだから、音楽はいよいよ活気づくというわけだ。

 イム・ユンチャンのソロはその後ますます表情豊かになり、ロンドの主題が回って来るごとにニュアンスを変え、時には低音部を強調して豪壮なアクセントを付ける(これはCDのライヴでも聴かれたが)など、愉しげな千変万化の演奏を試みる。この曲の第3楽章をこれほど面白く聴いたのは、私には初めての体験だった。このピアニストはいい。
 昨年10月録音の前記のCDでの演奏よりも遥かに表情が多彩だったのは、彼の進歩の故か、それとも大ピアニスト・プレトニョフとの共同作業の故だったろうか?

 ソロ・アンコールには、バッハの「ピアノ協奏曲第5番」の第2楽章と、マイラ・ヘス編曲の「主よ人の望みの喜びよ」とを弾いた。これまた詩的な美しさに満ちた演奏で、魅力充分ではあったが、オーケストラ・コンサートのゲスト・ソリストという立場なら、アンコールは1曲だけでよい。彼に対するブラヴォーと歓声が凄かったのは、韓国から聴きに来た人々も多かったのだろうか? 

 「マンフレッド交響曲」は、プレトニョフは、かつてロシア・ナショナル管弦楽団を指揮して素晴らしい演奏のCDを作ったことがある(グラモフォン)。それはロシアの白夜の美しさを連想させるような詩情豊かな名演だった。
 今日の東京フィルとの演奏は、そこまでロシアの雰囲気を感じさせるようなものではなかったが、しかし驚くほど豊かな色彩感に溢れていたと言えるだろう。中間の2つの楽章では、特にそれが印象深かった。

 そして第4楽章では、チャイコフスキーにしては野暮ったい主題が何度も反復されるというあの欠点が、プレトニョフの落ち着いたテンポと、精緻なアンサンブル構築のおかげで、見事に解決されていたのには舌を巻かされた。プレトニョフは、やはりロシアものを手がけると天下一品の強みを発揮する人だ、ということが証明づけられた演奏であった。この「マンフレッド」は、近年ナマで聴いた演奏の中でも、最も気に入ったものである。
 なお全曲の終結には、オルガンの入る浄化的な版が使用されていたが、この方がよほど作曲者の意図に叶っていると思われる。

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