2024-02

2023・4・6(木)東京・春・音楽祭「ニュルンベルクのマイスタージンガー」

       東京文化会館大ホール  3時

 看板プログラムの一つ、マレク・ヤノフスキが指揮するワーグナー・シリーズの一環。
 この音楽祭では、「マイスタージンガー」は10年前にもヴァイグレが指揮し、クラウス・フローリアン・フォークトをヴァルターに迎えて上演したことがある(☞2013年4月4日の項)。その後、同音楽祭は、マレク・ヤノフスキの指揮で全10曲上演を推進する方針を採っているようで、今回の再演もその一環だとの話を聞いた。

 管弦楽はNHK交響楽団(コンサートマスターは懐かしのライナー・キュッヒル)。合唱は東京オペラシンガーズ(指揮はエバーハルト・フリードリヒ、西口彰浩)。
 歌手陣は、エギルス・シリンス(靴屋の親方ハンス・ザックス)、アンドレアス・バウアー・カナバス(仕立屋の親方ポークナーおよび夜警)、ヨーゼフ・ワーグナー(パン屋の親方コートナー)、アドリアン・エレート(書記ベックメッサー)、デイヴィッド・バット・フィリップ(騎士ヴァルター)、ダニエル・ベーレ(徒弟ダフィト)、ヨハンニ・フォン・オオストラム(ポークナーの娘エファ)、カトリン・ヴンドザム(その乳母マグダレーネ)と、主役はすべて外来勢で固め、その他の親方衆として木下紀章、小林啓倫、大槻孝志、下村将太、高梨英次郎、山田大智、金子慧一、後藤春馬が出演している。

 なお、演奏会形式上演のため、照明デザインを辻井太郎、舞台監督を金坂淳台が担当。以前のようなスクリーン演出は既になく、正規の反響板を設置しての上演である。字幕は舩木篤也。

 ヤノフスキの指揮、今回も予想通り、テンポが目覚ましく速い。オーケストラも休みなく走り続ける。たくさんの登場人物の対話が疾風のごとき勢いで進んで行くという感なので、この作品における歌詞の多さが、否が応でも目立つことになる(それゆえ、舩木篤也の字幕文のストレートな明快さ、解り易さが実に有難かった)。

 なんせ長大極まるオペラゆえに、テンポが速いのは有難い(早く終る?)のだが、その反面、あまりにスピーディに進むので、音楽に「矯め」がなく、登場人物たちが本来備えている「迷い」も全く浮き彫りにされないという傾向が生じていたようにも思われた。
 ヴァルターは猪突猛進型の騎士になり、エファはひたすら元気のいい娘になり、ベックメッサーは気の早い記録係となり、ザックスも屈託なくさっさと大演説を仕上げて一気に大団円になる。全曲の最後で「マイスタージンガーの動機」が堂々と再現する個所なども、あまりに一気呵成に進んでしまうので、何となくすっぽらかしを食ったような気分にさせられたのも正直なところだ。

 しかし、キュッヒルをリーダーとしたN響がとにかく上手い。厚みのある音で、音楽を少しもせわしく感じさせなかったのは、流石というべきであろう。それにヤノフスキの指揮、これもやはり老練の強みで、前奏曲の冒頭からワーグナーの音楽に「色」を感じさせるところ、卓越した業だったということは特筆しておかなくてはならない。

 そのうえ、今回は、歌手陣が全員手堅く、粒が揃っていた。ザックス役のシリンスは第2幕の「ニワトコの香り」から調子を上げ、全曲最後の大演説では、ここに焦点を当てたと言わんばかりの歌唱。
 ヴァルター役のフィリップも明快な歌唱表現だったが、第2幕冒頭で怒りを爆発させる場面が意外に抑制されていたのは、ヤノフスキの指示なのか、それともテンポが速いために表現が追い付かなかったのか。このテンポの速さは、各歌手の歌唱表現に多少なりとも影響を与えたことは否めないのではないかという気もするのだが如何。
 ポーグナー役のカナバスも安定していたが、夜警役としてステージ奥でどっしりと歌った時に、なかなかの迫力を示していた。

 だが何と言っても見事だったのは、ベックメッサーを歌ったアドリアン・エレートであろう。今回の歌手陣はすべて譜面を見ながらの歌唱だったが、彼ひとりだけは、長い全曲を通じて、すべて暗譜で歌っていた。多少のおどけた演技も加えていた。
 すでにバイロイトなどでも名演を見せていたし(☞2009年8月26日)、新国立劇場でも素晴らしい歌唱と演技を披露(☞2021年11月24日参照)していたエレートである。いかにこの役が彼の中に入っているかを如実に示したものと言えよう。

 変化する照明を加えた舞台の演出も悪くない。第2幕の幕切れ近く、夜警の脅しにより静寂に戻ったニュルンベルクの街のシーン。歌い終わって着席し、彫像のように動かなくなった合唱団と脇役の親方たちの姿は、音楽の雰囲気とぴたりと合い、見事な雰囲気をつくり出していた。
 30分の休憩2回を含み、8時15分頃終演。

コメント

エギルス・シリンスはザックスを初めて歌ったと聞きました。
なるほど常にスコアにかぶりついたままで、細かい感情を表現する余裕もないようで、なんとも存在感の薄いザックスでした。
そこへいくとアドリアン・エレートのベックメッサーは相当歌い慣れているのでしょう。
全曲暗譜で見事な名唱、名演技で明らかに主役の座を奪った感があります。
やはり人間最終的には才能より経験がものを言うんですな。
「ニュルンベルクのベックメッサー」と題名を変えても良さそう。

9日公演です。快速調で粛々と運ぶと言った感じ。元々ドラマチックな筋ではないが。その中でも目立つ巧者が、ベックメッサー。他はもう一つか。N響の上手さがステージ上にあがると明確にわかる。

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