2024-02

2023・5・28(日)NISSAY OPERA ケルビーニ:「メデア」

      日生劇場  2時

 1797年にパリで初演されたケルビーニのオペラ「メデア」の日本初演が、ついに実現した。
 題名役の王女メデアに並々ならぬ力量が要求されるオペラであることは周知の通り。この難役をこなせるソプラノがわが国にも出て来たのは、嬉しいことである。

 今回はダブルキャストの2回公演、今日はその2日目で、題名役たるコルキスの王女メデアを、中村真紀が歌った。
 その他の歌手陣は、山下牧子(その侍女ネリス)、城宏憲(コリントの英雄ジャゾーネ)、横前奈緒(その婚約者グラウチェ)、デニス・ビシャニャ(コリント王クレオンテ)、相原里美・金澤桃子(侍女)、山田大智(衛兵隊長)他。合唱はC・ヴィレッジシンガーズ(指揮はキハラ良尚)。
 園田隆一郎が新日本フィルハーモニー交響楽団を指揮した。演出は栗山民也、舞台美術は二村周作。

 先頃ライブビューイングで観たMETのプロダクション(☞2022年11月28日の項)に比較すると、舞台のつくりはやはり端整というか、淡白というか。
 メデアの贈った猛毒の王冠により無惨な死を遂げるグラウチェの姿を見せたりなどはしない。メデアを当初からモンスター的な存在にせず、普通の女性として描き出している。ドラマの大詰めで、子供たちを自ら殺めてその死体を抱え、血だるまの姿で呪いの言葉を吐きつつ現れるあたりも、単なるホラー映画的な、刺激的なシーンにはしていない。

 おそらく演出家は、このオペラの舞台に、高貴なギリシャ劇というイメージを失わせたくなかったのだろう。いかにも日本人演出家らしい手法で、それはそれでいいのだが、しかしそれにしてもやはり、途中からでいいから、メデアにはもう少し怪女的な雰囲気を増やして行って欲しかったし、ラストシーンではもう少しどぎつい恐怖感を生み出させてもよかったのでは、という気もする。

 中村真紀は前半ちょっと高音域が苦しかったが、中盤以降、特に大詰めの第3幕では、安定して大役を果たした。
 歌手陣はみんな安定していたが、その中でも最も大きな拍手を浴びたのは、ネリス役の山下牧子。第2幕のアリアでは悲しみの情感を深々と歌ってくれた。

 このアリアでは、ファゴットが吹く落ち着いた音色も印象的だった。新日フィルは、概して端整な演奏で、音が薄く細身の響きだったのは惜しいけれども、この劇場のピットの音響を考えれば、健闘したと言えるだろう。
 園田隆一郎はいつも通りオケを巧みに制御していて、頂点への盛り上げも上手い。この人のイタリア・オペラの指揮は安心して聴いていられるだろう。

 これは日生劇場開館60年周年記念公演の第一弾で、力作である。日生劇場の最近のシリーズは快調だ。
 なおこのプロダクションは、今秋開館する岡山芸術創造劇場の杮落しとしても、岡田昌子(メデア)、清水幾太郎(ジャゾーネ)らの組により上演されるという。こんな恐ろしいオペラから始めるとは、なんとも凄まじい気魄だ。

コメント

27日土曜日の公演を観た。カラスのCDを聴いて予習したが、実際の舞台と演奏で聴き観ると、恐ろしい劇的な悲劇を実感、最後の二人の子供を殺して抱いた場面に息を飲んだ。音楽そのものはなるほどベートーヴェンが絶賛してスコアを読み込んだという話も頷ける。3F後方近い席、ホールの特性もあるだろうが、出だしのオケはmonoの音を聴いているような感じがしたが、途中から舞台とドラマの進行に乗ってきた。
メデアの岡田昌子初めて聴くが、最初はやや抑え気味、第三幕ではパワー全開で異様な役を歌い切った。王クレオンテ伊藤貴之貫禄ある良い響き、ジャゾーネ清水徹太郎も健闘、ネリス中島郁子第二幕聴かせどころのアリア良かった。グラウチェ小川栞奈第一幕可憐な声で役に相応しかった。演出、照明も効果的使い、予算の範囲でシンプルで分かりやすかった。東響エレクトラといい、ギリシャの物語は、凄ましい。


追加コメントを二点、
第一点、プログラムの岸純信氏の解説が行き届いて大いに鑑賞の参考になった。
第二点60周年記念として本邦初演の本作を取り上げた日生劇場に感謝。
プログラムの冒頭挨拶で思い出したが、「リア」を観たのが10年前の50周年だったとは、この時も印象深い公演だったが、10周年後と言わず、またこの種意欲的な上演を期待。

岡山芸術創造劇場杮落とし

  新しい劇場の杮落としの日に出かけるのは初めてのこと。青春18きっぷなら2400円で往復できる岡山だけど、大阪から1時間、やっぱり新幹線にする。5月の日生劇場での本邦初演の演目をそのまま持ってきた「メデア」、オーケストラだけが地元の団体に替わっている。

メデア:岡田昌子
ジャゾーネ:清水徹太郎
グラウチェ:小川栞奈
ネリス:中島郁子
クレオンテ:デニス・ビシュニャ
第一の侍女:相原里美
第二の侍女:金澤桃子
衛兵隊長:山田大智
管弦楽:岡山フィルハーモニック管弦楽団
指揮:園田隆一郎
演出:栗山民也

  記念すべき開場公演に、これほど相応しくないオペラもないだろう。華やかな場面があるわけでもなく、誰もが認める大傑作でもない。復讐劇、母親による子殺しで幕を閉じる陰惨なドラマなんて、どう見ても他に何かないのかと言いたくもなりそう。しかし、これまで上演されたことのない作品を据えるというのも逆張りの発想か。これが「アイーダ」とかだったら、わざわざ岡山まで出向かない私のような人間もいるわけだし。

  だからといって、さほど期待して岡山に行ったわけではなかった。せっかく出かけるのだから居酒屋「黒ひげ」の絶品海鮮料理を再び味わい、一泊していくつかの観光スポットも回ってみようというぐらいの気持ちだった。それが、すごくいいのである。マリア・カラスの録音はおろか、一度も聴いたことのない「メデア」なのに、全く退屈せずに聴き通せた。

  何と言っても、題名役を歌った岡田昌子さんだろう。アビッガイッレやトゥーランドットも歌う、そっち系のソプラノらしいが、確かに国内で他に探すのが難しいような声だ。恋敵役の小川栞奈さんとの声の対比も絶妙。これだけ歌える、看板を背負って演じられる人には驚きを感じた。第3幕なんて、ほとんどメデアの独り舞台だもの。

  男声陣の出来もいい。清水徹太郎さんは、最近の役柄を追うごとに声も歌も良くなっていくのが嬉しい。もうトップスターの座が視野に入って不思議じゃない。代役として登場したデニス・ビシュニャさんの深々とした声も魅力的だった。
  メデアに仕えるネリス役の中島郁子さんも悪くないが、この役は重要度が低くお気の毒な感じ。アリアはあっても出ずっぱりのメデアの喉休め的なナンバーだし、音楽的にも魅力がない。

  岡山にもプロオーケストラがあるのは知らなかった。序曲を聴いていると響きが薄いと感じたが、大劇場の音響の関係もあるのだろう。どちらかと言えば、声楽にフォーカスした設計になっているのかも知れない。

  同じキャストの東京公演も観た人によると、3か月おいた岡山の舞台、歌手の出来映えは格段に上だということだった。二度目の舞台、初回の修正点をいろいろと改善したということだろうか、杮落とし公演なので気合いの入り方が違ったということなんだろうか。いずれにしても、結構なこと。

  「ハレノワ」と名付けられた新しい劇場、物珍しさもあり早めに会場に着いた。1時間前の開場のはずなのに、オープニングセレモニーの後片付けが済んでおらず、なかなか入場できない。どんなことが行われていたのか知らないが、関係者も不慣れなことが多いのだろう。岡山という場所で、立派な劇場ができたのはよいにせよ、これからの運営には難しいところもありそうだ。箱は造ってもコンテンツをどうするかの課題は多いはず。びわ湖ホールや兵庫県立芸術文化センターのように核になるプロデュースオペラがあるわけでもないので、今回のNISSAY OPERAのように他所との提携に活路を見いだすしかないのかも知れない。劇場名に入っている「創造」の二文字が、看板倒れにならないことを願いたいものだ。

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