2024-03

2023・6・9(金)大植英次指揮日本フィルハーモニー交響楽団

      サントリーホール  7時

 日本フィルの6月定期に大植英次が客演。
 ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲」と「愛の死」、プロコフィエフの「ピアノ協奏曲第2番」(ソリストは阪田知樹)、チャイコフスキーの「悲愴交響曲」を指揮した。コンサートマスターは木野雅之。

 大植英次の「トリスタン」といえば、どうしてもあの2005年のバイロイトを思い出してしまうが━━その後彼と直接それについて話をしたことはないけれど、もしかしたら彼にとってはあまり触れられたくないものかもしれない━━今日の日本フィルとの演奏は、もちろんあの時のものとは違い、ずっとしなやかで、力みの抜けたものになっていて、聴き易い。やや荒々しいところはあったが、これはおそらく2日目の演奏では改善される類のものではなかろうかと思う。

 圧巻だったのは、「悲愴交響曲」だ。冒頭から速めのテンポで進められた第1楽章では、オーケストラのバランスが少々粗く、ふだんは直接聞こえないような内声部の動きが強く浮き出してしまったりして、全体にアジタート気味になっていたが、これはおそらく初日の演奏ゆえであろう。
 だが、第2楽章でのほの暗い音の揺れから生まれる哀愁美はすこぶる見事で、昔初めてこの曲を聴いた時のことや、30年ほど前に初めて冬のロシアを訪れた時に抱いた感動を思い出してしまったほどである。

 後半の二つの楽章での演奏は、とりわけ見事だった。第3楽章前半での弱音での行進曲が実にいいリズムを持っていたのにも感心させられたが、同楽章後半は更に面白く、最強奏で曲が進んで行く部分では、大植は指揮をやめ、両手を広げたままで動かず、怒涛の進軍をオーケストラに任せていた。
 これは昔、あのスヴェトラーノフもロシア国立響を相手によくやっていたテだが、いわば指揮者の眼光ひとつでオーケストラを燃え立たせるというおおわざである。ここでの日本フィルの、指揮棒に頼らない熱狂的な昂揚も、いっそうの凄味があった。

 更に最高だったのは第4楽章。ここでの旋律と和声の濃密な交錯、強烈な情感を湛えた濃厚な音のうねりは、以前の大植の指揮からは感じられなかったものではないか? 
 日本フィルの演奏も、以前のこの楽団からめったに聴けなかったようなものだった。それはまさしく、「悲愴」というよりも、「パテティーク」のもうひとつの意味である「感情豊かな、感動的な」という言葉に相応しい演奏だったのである。

 先日の新日本フィルとのブルックナー(9番)といい、今日の「悲愴」といい、それらでの指揮は、今の大植英次が明らかに新しい境地に達していることを示しているだろう。この変貌は、彼の今後にさらなる期待を持たせてくれる。

 プロコフィエフの「2番」は、しばしば演奏される「3番」よりも、私にはずっと面白い。その豪壮で奔放な曲想は、いかにもアンファン・テリブルと呼ばれたプロコフィエフを象徴しているだろう。
 この曲を、若い阪田知樹は、実に豪快かつ力感にあふれた演奏で再現してみせた。最近のわが国の若いピアニストは、叙情的な柔らかい演奏で人気を博している人も多い(それはそれでいい)が、この阪田知樹のように、強靭で骨太な演奏をする日本人ピアニストにも、私は大きな未来を感じる。

 そしてまた、それをサポートした大植英次の指揮も━━たとえば第1楽章の長い壮烈なカデンツァのあと、オーケストラが突然威嚇するように覆いかぶさって来る個所など、すこぶる劇的で、巧かった。
 なお阪田知樹が弾いたソロ・アンコールは、ラフマニノフの「楽興の時 作品16の2」。

コメント

10日(土)の演奏会を聴きました。「悲愴」はたいへん感銘を受けました。ご指摘通り、第三楽章、第四楽章は言葉にできないほどの感動で、日フィルが稀にしか実現きなかった別格の表現がされていたと思います。あえて言葉にすると、日本の楽団では滅多に表出できない独自の「音色」を感じました。

Come back !

先月末に大阪でショスタコーヴィチの第5交響曲を聴きました。しばらく大植さんの指揮を聴いていないうちに、ずいぶん音楽が変わったなあという印象でした。以前はグラマラスな作品を取り上げることが多く、いささか外面的な効果に走るところがあったのとは大違い。深みと凄み、その曲を初めて聴くような生々しさが客席に伝わってくるのが感じられました。大阪に戻って来てほしい。

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