2024-02

2023・7・16(日)佐渡裕指揮「ドン・ジョヴァンニ」

      兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール  2時

 恒例の「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」の今年の出し物は、モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」。
 指揮はもちろん佐渡裕で、演出はデヴィッド・ニース、舞台装置と衣装はロバート・パージオラ。7月14日に幕を開け、23日までの間に8回上演され、来日歌手を中心としたAキャストと、日本勢のみで構築されたBキャストが4回ずつ受け持つ。

 今日は3日目で、Aキャストによる2日目の公演だ。
 出演は以下の通り━━ジョシュア・ホプキンズ(ドン・ジョヴァンニ)、ルカ・ピサローニ(レポレッロ)、ミシェル・ブラッドリー(ドンナ・アンナ)、ハイディ・ストーバー(ドンナ・エルヴィーラ)、デヴィッド・ポルティーヨ(ドン・オッターヴィオ)、近藤圭(マゼット)、アレクサンドラ・オルチク(ツェルリーナ)、ニコライ・エルスベア(騎士長)。それに兵庫芸術文化センター管弦楽団と、ひょうごプロデュースオペラ合唱団。

 まずは佐渡裕の指揮。彼らしく強靭な音づくりで、序曲冒頭など劇的だったが、その一方、音楽のニュアンスに精緻さを増したのがいい。たとえば、ドンナ・アンナが、彼女を襲った男がドン・ジョヴァンニであることに気づいた瞬間からあとの感情の変化を描く弦が、その都度いろいろに表情を変えて行くという巧さ。そして、モーツァルト円熟期特有の木管の和声の妖艶な音色が見事に再現されて行ったのも嬉しかった。

 一方、デヴィッド・ニースの演出も、昔に比べ、目覚ましく微細になった。登場人物の演技に、随所で演劇的な細かい表現を示すようになっていたのが有難い。
 そして今回の彼の演出では、ドン・ジョヴァンニはそれほど抜きん出たヒーローでも悪役でもなく、どちらかといえば、登場人物たちのone of themという存在として感じられる。

 これは、今日のジョヴァンニ役のホプキンズのキャラクターと関係するかもしれないので即断は避けたいが、しかし実際に冒頭からして彼は騎士長との決闘に際し、不甲斐なくも自分の剣を叩き落され、アワを食って咄嗟にレポレッロから短剣を借り、騎士長の油断を突いて逆襲する、という風変わりな描き方なのだ。「相棒」の杉下右京的に言えば「きみ、弱いんですね」と馬鹿にされても仕方がないようなジョヴァンニである。

 だが、最後に彼が騎士長からの晩餐への招きを受け入れる━━つまり死を覚悟した時に、あれほど揶揄してこき使っていた「相棒」のレポレッロに、親友として永遠の別れを告げるような挙動を見せるあたり、ニースの新解釈(彼のオリジナルであるならばだが)もなかなかものだと思わせる。

 なおその恐ろしく強い、ドスの利いた声の老騎士長(エルスベア)が「左利き」で、剣を左手で振り回し、大詰めの個所では「左手に槍、右手に盾」という持ち方をして、しかもヴォータンさながらの格好で出現し、ジョヴァンニを威嚇するのが面白い。

 その他の歌手では、オッターヴィオ役のポルティーヨが歌唱・演技ともに品のいい風格を示し、登場人物たちの中で唯一の「常識人」のような性格を持たせたユニークな演出意図とともに、強い印象を与えた。また、レポレッロ役のピサローニの達者な歌唱と演技は、主人のジョヴァンニをさえ凌ぐ存在感だろう。

 エルヴィーラ役のストーバーの表情豊かな演技と歌唱、若き農民の恋人同士役の近藤圭とオルチクの生き生きした熱演も愛らしい。
 ただ、ドンナ・アンナ役のブラッドリーが並外れて大きな声量で、恰もブリュンヒルデの如く、第1幕冒頭などでは二重唱のバランスを崩す勢いだったのには、些か首をひねらされたが。

 昨年の「ラ・ボエーム」に続き、今年も西宮のオペラは大成功である。主催者の話では、今回「初めてオペラを観に来た」というお客さんも少なくなかったとか。オペラ・ファンが増えるというのは喜ばしいことだ。
 例年、8回もの公演がほぼ完売(もしくは、それに近く)になるという全国でも例を見ない盛況を示すこの西宮のオペラ。佐渡裕の人気もますます高いようである。明日は、Bキャストの「宇宙組」を観よう。

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