2024-03

2023・9・2(土)セイジ・オザワ松本フェスティバル
オーケストラ コンサート Bプログラム ジョン・ウィリアムズ・プロ

       キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館) 3時

 今年の人気目玉公演。
 通常のチケット購入システムでは大混乱必至と予想したフェスティバルの事務局は、それを抽選方式に切り替えた。混乱は避け得たが、その倍率は14倍に達したというから驚異的である。
 ジョン・ウィリアムズご本人はコンサートの後半のプログラムしか指揮せず、前半はステファヌ・ドゥネーヴが指揮するという演奏会なのだが、それでもこれだけの人気を集めるのだから、ジョン・ウィリアムズの音楽━━もちろん映画音楽だが━━の人気も大したものだ。

 今日ではウィーン・フィルさえ彼の作品による演奏会を開催し、アンネ・ゾフィー・ムターも彼の作品集をレコーディングするという時代である。
 かつてエーリヒ・コルンゴルトにより確立され、その後マックス・スタイナーらにより発展させられて来たハリウッドの「大編成のオーケストラを使った壮大でスペクタクルな映画音楽」というジャンル━━その最後の巨匠ともいうべきジョン・ウィリアムズの音楽がこれほどの人気を集めるというのは、映画音楽に対する世界の人々の好みを窺わせて興味深いものがあろう。

 文字通り満席となった今日のサイトウ・キネン・オーケストラの演奏会、前半ではドゥネーヴが「雅の舞」、「Tributes!(for Seiji)」、「遥かなる大地へ」組曲、「E.T」からの音楽を指揮した。
 因みに「雅の舞」は1993年のボストン・ポップス管弦楽団の日本公演のために書かれた曲。
 また「Tributes!(for Seiji)」はボストン交響楽団の首席奏者たちの肖像画集といった意味で作曲され、小澤征爾へ献呈された曲の由で、小澤自身を描いたものではないそうな(プログラム冊子掲載のジョン・バーリンゲイムによる解説)。曲想がバラバラだったのはそのためだったのか。この曲だけ、ジョン・ウィリアムズが、現代音楽作曲家としてのおれの腕を見ろ、といわんばかりに書いたような印象を与える。

 そして第2部では御大ジョン・ウィリアムズ自身が登場。91歳にもかかわらず足取りはしっかりしており、終始立ったままで指揮を続け、明晰な口調でユーモアに富んだスピーチをするという若々しさだ。
 彼が現れて「スーパーマン・マーチ」を振り始めた途端に、サイトウ・キネン・オーケストラの音色がガラリと変わり、柔かく美しく、バランスのいい響きになったのには驚いた。この第2部の曲目はドゥネーヴが下振りしてまとめていたという話だったが、それにもかかわらず本番の演奏でこのように響きが一変していたというのは、やはり指揮者の人柄が放射する不思議な魔力といったものの所為ではなかろうか。

 私自身も、こういったプログラムは「サイトウ・キネン・フェスティバル~セイジ・オザワ松本フェスティバル」の本道ではあるまい、と多少斜めに視ていたものの、いざ彼が指揮台に姿を見せ、そして「スーパーマン・マーチ」の軽快なリズムが響き出した時には、なるほど、こういう路線もありだな、と瞬時に気持が変わってしまったのだから、やはり彼の雰囲気と芸風の魅力には抗えないものがあったことになる。

 彼はそのあと、「ハリー・ポッター」、「シンドラーのリスト」、「スター・ウォーズ」からの音楽を指揮し、しかもアンコールとして「インディ・ジョーンズ」と「スター・ウォーズ~帝国への逆襲」からの音楽などをも指揮した。
 オーケストラは全てバランスの良い演奏をしていたが、ただその整然たる演奏は、何作も聴いていると、ドゥネーヴの八方破れの賑やかな指揮と比べ、多少単調な印象に感じられて来る傾向がなくもなかった━━。

 ジョン・ウィリアムズは、最後に舞台袖から車椅子に乗った小澤征爾総監督を呼び出し、客席もステージも、いっそう沸き返った。そこで演奏されたのが、悪役ダース・ヴェイダーの「帝国のマーチ」だったとは何とも可笑しかったが、ともあれこの最後の1シーンは、ジョンとセイジのボストン時代からの熱い友情を示すものとして、われわれ聴衆に感動を与えてくれたことは事実である。

 今年の「セイジ・オザワ松本フェスティバル」は、このようにして「聴衆層の拡大」を見事に実現したイヴェントという意味で、30年の歴史にあたらしい、しかしユニークな1頁を刻んだことになるだろう。
 さて、来年は、また「本道」に戻るだろうか?

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