2024-05

2023・10・14(土)カーチュン・ウォン指揮日本フィル 10月東京定期

        サントリーホール  2時

 この秋から首席指揮者となったカーチュン・ウォンの指揮で、マーラーの「交響曲第3番」が演奏された。
 協演の合唱はharmonia ensembleと東京少年少女合唱隊、メゾ・ソプラノのソロは山下牧子、コンサートマスターは田野倉雅秋。なお、合唱はP席に、またメゾ・ソプラノのソリストはオーケストラの中、コントラバス群の前のあたりに位置していた。

 これは日本フィル渾身の力演という感。新しいシェフとの門出に湧き立つ楽員たちの気魄が噴出した演奏と言ってもいいだろう。金管群の咆哮は強靭だし、直線的で切れのいい音楽づくりは明快そのもの、各パートのソロも冴え、ダイナミズムと力感の点でも特筆すべきものがあった。終楽章の大詰めでは、ステージ全体に拡がる形で配置された7対のシンバル(ベルリオーズみたいだ)が輝かしい光を添えたが、これも今日の演奏の特徴を象徴するほんの一例に過ぎない。

 終演後のロビーやエントランスは、凄かった、とにかく凄かった、と絶賛の声であふれていた。中には、今年の日本のオーケストラ演奏会のベスト1に推したいくらいだ、という同業者もいたほどである。

 とはいうものの、私には、大方のように手放しで絶賛できる状態には少々距離がある。作品の解釈という点で、些かの疑問が残るのだ。それは、あまりに激烈ではなかったか? 
 私は今まで、この「3番」を、「第4交響曲」に先立つパストラル(田園)的な作品として意識していた。曲中に聴かれる弦の豊麗で優しい響き、室内楽的で万華鏡のような微細な各楽器の交錯の妙などは、慈しむように緻密に演奏されなければ聞き取れぬものではなかろうか。

 それにマーラーは、最初はこの交響曲を「牧神」と呼ぶことを考えていたというし、今も残る各楽章のイメージタイトルも、夏が来る━━牧場の花が語ること━━森の動物が語ること━━夜が語ること━━朝の鐘が語ること━━愛が語ること、となっているのだから、この交響曲は、雄渾壮大ではあるものの、やはり一種のパストラル的な、優しさ、愛らしさ、伸びやかさといったものを大きな特徴としていることが判るだろう。

 もちろんウォンも、その点については明確に認識していることをインタヴュー等で語ってはいるけれども、しかし実際の演奏を聴くと、そういう面よりも、この曲にむしろあの激しい曲想を持つ「第5交響曲」への先駆け━━とでもいうような特質を見出し、それに基づいて構築しているかのようにも感じられるのである。

 百歩譲って、ウォンが今日の演奏を「愛」と考えているなら、それはそれで一つの考え方だろう。現代の若い世代の東洋人指揮者が、マーラーの交響曲における「愛」の概念をこのような形で具象化しているとすれば、それも興味深いことではある。

コメント

東条先生のコメントを心待ちにしていました。本当にオケの完成度は抜群でした。金管木管の安定度合いは年々うなぎのぼりです。願わくば、各セクション首席二名体制にして、メンバーによる凸凹を減らせれば(もちろんこれは財政的な裏付けが不可欠だと思いますが)鬼に金棒だと思いました。でも、コロナが明けて新しい、若い団員が加わっているので、先も楽しみです。この曲の解釈への疑義、同感です。でも、自分はマーラーならではの「苦み走ったパストラル」だなと、ちょっとびっくりしながらも楽しく聞いていました。そして、こういった正々堂々の評価を真正面から受けるレベルになった、日フィルとカーチュンの将来が楽しみです。オケと指揮者のレベルアップが頭打ちにならないことを祈るや切です。

追伸

自分は初日を聴きましたが、いろいろな方の感想を読んでいると、初日と二日目の差がほとんど無かったように感じました。そこも日本フィルの大きな躍進だと思います。今週末にはブラームスの一番を聴きに行きます。有名ピアニストが登場するので、聴衆が少し心配ですが、王道の曲目をどう演奏するか、楽しみです。

ショパンとブラームス

カーチュンのショパンとブラームスを堪能してきました。オケは前日の横浜定期と二日連続の名曲コンサートです。

2023年10月22日 (日)@サントリーホール
指揮:カーチュン・ウォン
ピアノ:亀井聖矢
ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 op.11
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 op.68

ショパンではオケの響きが冒頭からよく溶け合っていて、しかも横の流れも良く、いかにも中欧のショパンというような少しくすんだメロディックな伴奏でした。クリアカットな響きのピアノと好対照、オケとピアノが融け合ってないという感想よりも、それぞれが良い主張をしていたと思います。人気ピアニストですが聴衆は悪くなく、フライング拍手はありませんでした。アンコールはマズルカと、リストのカンパネッラ。

ブラームスは、とても面白かったです。融け合った響きよりも、ブラームスの工夫されたオーケストレーションを解き明かす方向性は、冒頭から明かでした。個人的には、もう少し融け合ったブラームスが好みですが、これは好みに過ぎません。何百回と聴いたこの曲で、ああ、こんなオーケストレーションになっているのか、と言う新鮮な発見が幾つもありました。第二楽章冒頭のファゴットの存在感、第三楽章冒頭のホルンの対旋律、そして極めつけは、フィナーレ主部の第一テーマ。提示部では伴奏だったチェロが、再現部でメロディに回ると、カーチュンはVnを抑えてでもチェロを浮き上がらせる。ブラームスのささやかな工夫を見事に取り出していました。

でも、分析的に過ぎるかと言うとそうではなく、大団円に向けてしっかり盛り上がって、オケもほぼ混濁しないで終わりました。メンバーもほぼ首席体制で良かったです(でもやはり二人首席体制を切望です)。トロンボーンのコラールは、日本のオケで聴けるベストコンディションでした。試用期間中と思われるパウケンもほぼ合格。この難しい曲でよく演奏していました。先が楽しみです。


カーチュンは、やはり既成概念はあまりこだわらず、自分の感性を信じてスコアを音にしていると思いました。師匠のマズアも、よく考えるとそうなのですが、もう少し伝統に軸足を置いていたような印象です。カーチュンが名門ドレスデンやハレで好評なのが、わかるような、不思議なような感じです。次は11月の悲愴が聞けないので12月の革命です。

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