2023-12

2023・10・24(火)大西宇宙バリトン・リサイタル

         東京文化会館小ホール  7時

 「飛ぶ鳥落す勢い」にある大西宇宙のリサイタル。これは東急文化財団の主催で、「五島記念文化賞オペラ新人賞研修成果発表」と銘打たれている━━つまり留学成果報告リサイタルのようなものだ。ピアノの協演はブライアン・ジーガ―。

 彼のトークによれば、今回のリサイタルには「旅」のイメージが籠められている由で、その作品も仏、墺、英、独、露、伊━━と多岐にわたっていた。即ち、イベールの「ドン・キショットの4つの歌」で始まり、マスネの「ドン・キショット」からサンチョ・パンサの歌、コルンゴルトの「死の都」から「ピエロの歌」、ヴォーン・ウィリアムズの「旅の歌」、マーラーの「リュッケルトの詩による5つの歌」、プロコフィエフの「戦争と平和」からアンドレイ公爵の歌、ヴェルディの「ドン・カルロス」(フランス語版)からロドリーゴの最後の歌、というプログラムである。

 しかもアンコールでは、ブロードウェイ・ミュージカルの「ラ・マンチャの男」━━ドン・キホーテということで今日の冒頭の2曲と呼応する━━と「ウェストサイド・ストーリー」から歌ったところが、ニューヨークのジュリアード音楽院に学んだ大西宇宙の面目躍如たるものがあるだろう。これで前記の「旅」には「米」も加わったことになる。

 今回のリサイタルでは、彼はオペラでは暗譜で、ヴォーン・ウィリアムズとマーラーの歌曲では譜面を前に歌った。
 オペラではドラマティックな歌唱が流石に迫力充分で、特にサンチョ・パンサが人々の嘲笑から主人を守って歌う「笑いたければ笑え、お前たちの言うこの気の毒な理想家を」や、ロドリーゴが親友ドン・カルロスに別れを告げる場面の歌などでは、客席を沸かす歌唱が聴かれた。

 一方、歌曲では当然ながらオペラよりは抑制された表現が聴かれたが、しかし「リュッケルトの詩による5つの歌」での、孤独の哀しさを囁くような最弱音で歌ったり、神の力を信じる個所を確信に満ちた最強音で表現したりという、歌詞の内容に応じた劇的な表現の変化は実に興味深く、魅力的なものを感じさせてくれた。

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