2023-12

2023・11・5(日)ボローニャ歌劇場 ベルリーニ「ノルマ」

       東京文化会館大ホール  3時

 ボローニャ歌劇場の現在の音楽監督は、あのバイロイトで「さまよえるオランダ人」を指揮したことで話題になった女性指揮者、オクサーナ・リーニフである。その彼女が指揮する「トスカ」と、ファブリツィオ・マリア・カルミナーティが指揮する「ノルマ」とが、今回の引越来日公演のプログラムだ。
 今日は4回の東京公演の最終日、「ノルマ」である。このあと7日から12日までの間に、高崎・名古屋・岡山・びわ湖・大阪での公演がある。

 ところでこのカルミナーティという指揮者、ベテランらしいが、所謂昔タイプのおっとりした指揮で、雰囲気はあるけれども、引き締まった劇的な緊迫感という点では甚だ物足りない。第2幕後半など、音楽がさっぱり高潮しないのだ。ノルマが激怒して一同を扇動する個所で銅鑼が3回鳴らず、中途半端な総休止になってしまっていたのは事故か意図的なものか(それとも版?)判らないが、いずれにしても迫力を欠くもとになったのは確かである。

 ステファニア・ボンファデッリの演出にも似たようなことが言えるだろう。舞台装置はなく、照明の変化と幕の動きと僅かなスモークとでドラマを語って行く手法だが、群衆の動きに表情が不足するなど腑に落ちぬところがあり、特に第2幕後半のドラマが急展開するはずの個所など、もどかしいほどの舞台にとどまった。

 最後はノルマがポリオーネを刺殺し、返す短剣で自らをも刺すという設定に変えられていたが、この場面などももっと凄味が欲しいところだ。
 ノルマとアダルジーザのあの素晴らしい「友情の二重唱」で背後に要らざるチャンバラの場面を入れたり、2人を左右に大きく分けたりして音楽への注意力を削ぐなどの手法は、元ソプラノ歌手がやる演出とは思えないようなやり方である。

 という訳で、指揮と演出に対しては辛辣なことを言わせていただいたけれども、歌唱面は実に好かった。
 題名役のフランチェスカ・ドットはやや細身の歌唱だったが、所謂神秘的で猛女的な巫女というイメージのない、どちらかと言えば可憐さの残るノルマ像ということで、これはこれでひとつのあり方だろう。
 ポリオーネ役のラモン・ヴァルガスは相変わらずの泰平な演技で、声も昔ほどの明るさはなく、ローマ軍司令官としてのカッコ良さには不足するけれども、安定感はある。

 最大のヒットは、アダルジーザを歌った脇園彩である。伸びやかで張りのある声による輝かしい歌唱と表情豊かな演技とで、役柄の上で僅かに控えめな存在を保ちながらも、ドット相手に一歩も譲らず正面から渡り合ったのは見事だった。
 その他、オロヴェーゾのアンドレア・コンチェッティ、クロティルデのベネデッタ・マッツェット、フラヴィオのパオロ・アントニェッティといった人々も安心して聴けた。

コメント

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どこの座席で聴かれたのでしょうか?

こちらは上階バルコニー席で聴きましたが、カルミナーティは弾むような指揮振りで、オケもリーニフよりも乗って演奏していたと思います。
さすがベテラン、歌劇場の指揮者だと思いました。
引き締まった演奏で良い音を鳴らしていましたよ。
何より歌手陣が充実して、合唱も迫力があり、心の底からのブラヴォーが会場から湧き上がっていましたね。

歌手、合唱、オケと演奏が充実していたから、素っ気ない舞台も気にならない程。
合唱団が十二分に補っていたと思います。
トスカも悪くは無いが、ノルマ程の出来とは思えず、従って舞台装置が大人の学芸会のように思いました。

今回のトスカ、ノルマとも、かなり質素な舞台でしたが、現地ボローニャでも同じなのでしょうか?

今回の公演では正面S席でも、バルコニー舞台よりの席でも、観賞していて大して変わらないと思います。

以前、マリインスキー劇場の来日公演でリングを上演した時、張りぼてらしき舞台装置でがっかりしたことがありましたが、それ以上に簡素でしたね。
因みにその時のマリインスキー劇場来日公演の時は、所沢でのワルキューレ第1幕のコンサート形式が1番に思いました。


オペラ鑑賞の感想は十人十色ですね

私は11/3でしたが東条先生とほぼ同感でした。
ベテランのカルミナーティの指揮は、序曲ではとても期待できそうな演奏で始まりましたが、テンポの取り方が自己満足的で上演全体を統率するものになっていませんでした。翌日のトスカを振ったリーニフのほうが見事でした。(座席はほぼ同じ1階席)アダルジーザを歌った脇園彩さんの堂々とした歌唱は素晴らしいもので嬉しいことでした。舞台装置のない寂しさは残念でした。
オケピットをかなり下げていたのでオケの響きは上層階のほうが良かったようです。上層階で鑑賞した友人は大満足していました。
オペラ鑑賞は鑑賞者一人ひとりがそれぞれの印象を残すことが一番なので、良くても悪くても楽しみは限りないものです。


名古屋巡業の「トスカ」

 今回のボローニャ歌劇場の来日公演はタイトな日程で、光藍社の東側オペラの巡業のような感じです。名古屋の「トスカ」を観ましたが、前夜の高崎から名古屋に舞台装置を運び、当夜の公演のために設営するのだから、当然ながら極めて簡素なセット。さらに、楽団・コーラスの大挙移動はバスなのか、東京乗り継ぎの新幹線なのか。公演前に最長距離を動くわけで、全日程半ばで疲れも出る頃、演奏の質は落ちるのではないかと思っていたら案の定、第1幕はさっぱり、後半は少しよくなったというところでした。

 歌手を3人揃えたらなんとかなるという「トスカ」は、言ってみればお手軽演目、第1幕で出番終了なのでコーラスにも受けがいい。そんなことで舞台の熱が上昇することなく終わることが多く、なかなか名演に巡り会えないオペラです。今回もその例に漏れず。

 オクサーナ・リーニフ指揮のボローニャ歌劇場管弦楽団の音は貧弱。舞台から遠い愛知県芸術劇場の5階天井桟敷であることを考慮しても薄っぺらな響き、遅くてメリハリのないテンポ、指揮者の力量のなさなのかスタッフの移動疲れなのか、何とも締まりのないピットでした。

 いきなりのアリアということで、テノールとしては厳しいのだけど、マルセロ・アルバレスのカヴァラドッシはいいところがありません。音が繫がらずブツ切れになったような歌、残念な登場でした。

 それならトスカはどうか。私はマリア・グレギーナの舞台は観たことがありません。60歳代半ば、そろそろ「往年の」という形容句が付いてもおかしくないキャリア。やはり、声は出るのだけど持続しません。強い声のところは衰えを感じさせなくても、前後の部分との落差が目立ってしまいます。全ての歌唱部分において均質の艶と張りを保つことができないのは無理からぬこと。全盛期に聴きたかったものです。

 主役3人、体格はいずれも重量級、3年間のコロナ禍がこんなところにも影を落としているような。長らく身体を動かすことが少なかったのかと推測します。声帯や横隔膜と体重、はたまた筋肉量との関係はわかりませんが、太りすぎはやっぱりよくないんじゃないかなあ。

 ただ、第2幕、第3幕と進むうちに、歌手もオーケストラも調子が出てきた感じで、冒頭の残念なアリアとうって変わって、アルバレスの終幕のアリアはなかなかの聴きものでした。

 何ともおかしかったのは、この劇場の急角度の天井桟敷が想定外だったのか、トスカが身を投げるサンタンジェロ城の壁の向こうのマットレスが丸見えだったこと。下段のマットレスにグレギーナの半身がのぞいたまま幕。「トスカ」はお手軽演目であると同時に、事故の多いオペラです。

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