2023-12

2023・11・11(土)ジョナサン・ノット指揮東京交響楽団

       サントリーホール  6時

 めずらしくベートーヴェンのみのプログラムで、前半に、ゲルハルト・オピッツをソリストに迎えての「ピアノ協奏曲第2番」、後半に「交響曲第6番《田園》」。コンサートマスターはグレブ・ニキティン。

 音楽監督ノットと東京響は、国内でいま最も良い関係を確立しているコンビではなかろうか。演奏がそれを実証する。
 今日のベートーヴェン2曲では、いずれも羽毛のように柔らかく軽やかな音色のアンサンブル、微細なエスプレッシーヴォに満たされた精緻精妙な響きの演奏が聴かれた。それは、先代の音楽監督ユベール・スダーンがシューベルト・ツィクルスの際に実現した、隅々まで神経を行き届かせた演奏にも匹敵していただろうと思う。それに応じた東京響もまた、見事なものだった。

 協奏曲では、久しぶりに聴くオピッツのいかにもドイツの正統派といったピアノ━━和声の積み重ねの妙味を明確に出して転調の素晴らしさを利かせ、そして飾り気はないけれども真摯で血の通った情感をたたえたソロに心を打たれたが、それに応えるノットと東京響の、内声部の交錯すら定かにならぬほど柔らかく溶け合ったサウンドにも舌を巻いた。
 気鋭の青年ベートーヴェンが放った意欲作というイメージとは違った解釈の演奏ではあったけれど、この音の美感には別の意味で魅力を感じないではいられない。

 「田園交響曲」は、さらに精緻で、軽やかで、柔らかな演奏だった。弦や管の音符の随所に細かいクレッシェンドやデクレッシェンドを付し━━「嵐」でのティンパニでもそうだった━━そのような細かい動きの中で主題を美しく歌わせて行く見事な呼吸。第2楽章ではやっと聞こえるほどの最弱音まで落とした響きの裡に、フルートとオーボエがささやくように歌って行く。

 第3楽章のスケルツォのリズムと来たら、まるでそよ風が吹き抜けて行くような軽やかさだ。
 内声部の細かい動きさえ柔らかい流れの中に溶け込ませてしまうアンサンブルは協奏曲での演奏と同様だったが、それでいながら、第5楽章の、あの通常はよく聞こえないようなヴィオラの素晴らしい旋律(【I】の個所と【L】の個所)が、はっきりと聞こえて来たのには驚いた。

 そしてこの見事な演奏は、最後に壮麗な夕陽の頂点を築いたあと、日が沈んだ後の安息にゆっくりと向かって行く。
 かくして「そよ風の田園」の1日が終る━━なんかこんな光景は、あの映画「ファンタジア」でも視たような気がするのだが、ふだんは全く連想しないそのような標題音楽的な要素が、何故か今日は最後に至って頭の中に浮かんで来てしまったのである。

 ノットと東響の巧さ、そして━━ベートーヴェンの巧さ。

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