2024-03

2023・12・9(土)カーチュン・ウォン指揮日本フィル 12月東京定期

       サントリーホール  2時

 桂冠指揮者アレクサンドル・ラザレフは結局来日できなかったが、代役として首席指揮者カーチュン・ウォンが自ら登場したとは豪華な話。
 外山雄三の交響詩「まつら」、伊福部昭の「オーケストラとマリンバのための《ラウダ・コンチェルタータ》」(マリンバのソロは池上英樹)、ショスタコーヴィチの「交響曲第5番」を指揮した。コンサートマスターは田野倉雅秋。

 「ラウダ・コンチェルタータ」での池上英樹のマリンバ・ソロはさすがにスケール感があり、しかも刻々と変化するような色彩感まで感じさせるといった演奏で、この曲をさらに面白く聴かせることに成功していた。

 ウォンの指揮のもとで、日本フィルが新境地を開拓したと感じられた演奏は、やはりショスタコーヴィチの「5番」だった。これは白眉であったろう。特に日本フィルの弦楽器群がこれほど怜悧で鮮烈な音色を響かせるなど、一昔前には考えられなかったことである。

 ウォンはその弦楽器群を、内声部を明晰に浮き上がらせ、曲全体を驚くほど豊かな和声感を以て包み込んで行った。第1楽章の頂点の個所や、第4楽章の熱狂の部分など、普通の演奏なら金管楽器群を痛烈に鳴らしまくるものだが、今日のウォンはむしろ弦楽器群を強靭に響かせ、金管はその奥の方から聞こえて来る、というバランスを構築していた(これは2階RC席で聴いた音響バランスである)。これがいっそう和声感を強くする要因にもなっていたと思われる。

 といって、ウォンの指揮が音響的に茫洋としていたわけではない━━弦のアクセントの強烈さ(例えば第1楽章第12小節最後のヴァイオリンの2分音符。総譜ではフォルテひとつなのに、ほとんどフォルテ三つで切り込んだようにさえ感じられた)、クレッシェンドの鋭さなどは並外れたものがあった。
 これほど隅々まで神経を行き届かせた「5番」の演奏も、滅多にないだろう。テンポは全体に速めで、終楽章の冒頭や大詰めでの昂揚も凄まじく、エンディングは総譜通りリタルダンドなしで、猛然と終った。

 カーチュン・ウォンという指揮者、やはりただものではない。日本フィルは、いい人選をしたものだ。

 4時15分終演。池袋の東京芸術劇場へ移動。

コメント

アンビバレンツの具現化

初日を1階11列目で聴きました。自分では決して選ばないブロックで、いつものRAとかなり違う音響には戸惑いました。とにかく音がかなり上に抜けていってしまい、指揮者の意図した音塊とはどうにも違う感じです。名手福島さんのシンバルの音も、全然飛んでこないのにはびっくりです。やはり一階、特に通路より前は好みではありません。という以外は、全く同じ感想です。マーラーよりも指揮者の個性の刻印がはっきりしていたように思います。耳タコの曲を、本当に新鮮に聞くことができました。とりわけ最終楽章の説得力は空前絶後で、作曲家のアンビバレンツの具現化、という言葉が思いつきました。やはりカーチュンはかなりの天才型だと思います。自分の中ではカルロス・クライバーとユーリ・シモノフレベルでした。オケ共々今後がとても楽しみです。

ラウダ・コンチェルタータの土俗的なシャーマンの音楽に酔いました。マリンバの池上秀樹さんの姿は、まるで能登の「御陣乗太鼓」の太鼓ををたたく背の高い鬼神のように見えました。P席ですから音は飛んでこないのではないかとの危惧はありましたが、ピアノのように反響板を立てることもないマリンバ。マレットを変えるたび、新たな世界が音楽の中に浮かんできました。
メインのショスタコービチの5番symphony。1楽章からなにかとてつもすご凄い演奏になる予感がし、それは的中しました。弦の音がいつもと違っており、コントラバスがこんな音を出すのか?と思うくらい大音量でなったり、3楽章の繊細なバイオリン群は、数人のエリート(選抜されたと言う意味)での演奏となってボリューム感を押さえながら、ただ美の極致もしくは恐怖の極致を奏でるような背筋が凍るような演奏でした。4楽章のティンパニ、スネアドラム。タムタム、ピアノとハープ。すべてが渾然一体となりながらも、すべての音が聞こえていた。特にピアノの音が単なる低音を支える役割だけでなく、もっと前に出てきていて、しかるべき音楽の中での意図を持つ旋律の一つとしてとして聞こえた。
演奏後、誰の演奏に近いか?と隣にいた友人に聞かれこう答えた。演奏スタイルは違うけれど、感動は1977年NHKでライブで聴いたムラヴィンスキーに匹敵する、と応えた。

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

«  | HOME |  »

























Since Sep.13.2007
今日までの訪問者数

ブログ内検索

最近の記事

Category

プロフィール

リンク

News   

・雑誌「モーストリー・クラシック」に「東条碩夫の音楽巡礼記」
連載中