2024-04

2024・2・28(水)東京二期会 「タンホイザー」初日

      東京文化会館大ホール  5時

 昨日のGPの際に、キース・ウォーナーによく似た頭の人がいたので、てっきりご本人が来日しているのだと思い、それをブログに書いてしまったのだが、二期会のY氏に確認すると「その予定だったが結局来られなかった」とのこと。その代わり、再演演出担当のカタリーナ・カステニングら「御一統様」の何人かが来日して直接指示を出しているとのことで、「あの頭の人」はそのうちのだれかだったようである。

 ともあれ、昨日も書いたことだが、このプロダクションは3年前にも上演されたことがあり(☞2021年2月17日、☞2021年2月18日)、舞台はそれと基本的に同一なので、詳細は省略する。
 ただ、前回時は新型コロナ大流行の真っ只中だったため、演出指導もZOOMによるものだったそうで、そのゆえ徹底を欠いていたとのことだ。その点今回は御一統様の直接指示のおかげで、特に人物の動きや照明の変化などの面では3年前の上演よりも引き締まっていたような印象を受けた。

 とはいえ、昨日のGPに比べてオヤオヤと思ったのは、第3幕の幕切れ場面、逆さ吊りのエリーザベトの不気味な姿が天上から下がって来る個所で、その人形(と言ってしまっちゃミもフタもないが)を下すタイミングがちょっと遅かったのではないか? あれでは上階席の観客にはよく見えなかったのではないかという気もする。(※人形ではなくて生身の役者さんだったのですか、M.K.さん!)

 いずれにせよキース・ウォーナーのこの演出では、タンホイザーは「恩寵」のきざはしの中に入って救済されたのかもしれないが、無惨にも自死した「聖なるエリーザベト」は悲惨なことになる。つまり、いかにも身勝手極まるタンホイザーという男━━この男は、彼女の棺が運ばれているのを見たその期に及んでさえ、「エリーザベト、悪かった」ではなく「俺のために祈ってくれ」などと、まだ自分本位のことを言っているのである━━を非難しているように感じられるのだが如何。(そう言えば、エリーザベトが縊死した姿は、客席半ばより後ろの方では、よく見えなかった)。

 今日の初日の歌手組は、サイモン・オニール(タンホイザー)、渡邊仁美(エリーザベト)、林正子(ヴェーヌス)、大沼徹(ヴォルフラム)、加藤宏隆(領主ヘルマン)、高野二郎(ヴァルター)、近藤圭(ビーテロルフ)、児玉和弘(ハインリヒ)、清水宏樹(ラインマル)、朝倉春菜(牧童)という顔ぶれである。

 不思議なことに今日は、歌手たちの声が妙に散って、客席にまっすぐ届いて来ない。舞台はほぼ一貫して狭い部屋の構造になっているので、反響板としての役割は充分だと思われたのだが‥‥天井が空いていたのか? しかし、昨日のGPの時にはそれほどの印象はなかったのだが‥‥。二期会合唱団も、いつもだったらもう少し厚みのある響きを出していたものだが‥‥。

 だがその中でも、今日のサイモン・オニールは、やはり一段と抜きん出た声量で、他の邦人歌手陣を圧倒していたのである。かなり癖の強い声質と歌い方だが、ビンビンと響く声は力強く、「ローマ語り」の個所では凄まじい迫力を聴かせて、「怒れる自暴自棄のタンホイザー」としての性格を見事に表現していた。

 今回の収穫のひとつは、アクセル・コーバーの巧みな指揮だ。読売日本交響楽団の弦(12型と聞く)を豊かな厚みを以て響かせ、全管弦楽を最強奏の個所でも比較的バランスよく鳴らしてくれた(ティンパニだけはあまり全合奏に溶け込まないのが気になったが)。
 感心したのは音楽の起伏のつくり方で、特に第2幕後半の大アンサンブルにおける緊迫感に富んだ盛り上がりは見事なものだった。
 彼の指揮する「タンホイザー」は、2013年のバイロイトでも聴いたことがあるが、音楽の持って行き方の巧さでは、今回の方が遥かに上を行っていると思う。

 なお今回は、パリ版楽譜を基本とし、一部ドレスデン版を入れているという触れ込みだった。序曲途中から「バッカナール」に移行し━━これは厳密にはウィーン版と呼ぶべきだと主張する人もいる━━以降パリ版は第1幕第2場のタンホイザーとヴェーヌスの場面から第3場冒頭の「牧童の歌」途中までの個所、同第3場のアンサンブルの中の1ヵ所、第2幕および第3幕の終結個所などが全て生かされている。
 ただし、第2幕の歌合戦の場での「ヴァルターの反論の歌」は、ドレスデン版のそれが復活されていた。謂わば折衷版による演奏、であろう。
 このパリ版、第1幕はチト長いが、第3幕終結部分は絶対このパリ版の壮麗な昂揚感の方が素晴らしい。

 25分程度の休憩2回を挟み、終演はほぼ9時。

コメント

本日、2/28(水)のタンホイザー(初日のキャスト)の公演は、20〜30年前の日本人歌手のみで上演するワーグナーもの、を思い出させる公演。
「ワーグナーを歌うには声量が物足りない」といった感じが蘇る。 
初日だからなのか?
ヴェーヌスの林正子はこもった声でホールに響かず、やはり池田香織だったらと強く感じた。
エリーザベトの渡邊仁美は演技が「ぶりっ子」なのが気になる。声量も足りない。
牧童の朝倉春菜は音程が不安定で、ソロに続くピットからの音とズレ、気持ちが悪かった。
オニールは、他日本人歌手との重唱部分では声量を抑え、ソロの部分でピーンと張る声。特にエリーザベトとの重唱部分で感じた。
男声陣は丁寧な歌唱ではあるが、声量不足。
ここまで声楽陣が総じて声量不足という公演は、最近では珍しいのではないのか?
オケの読売日響は、3年前のヴァイグレの時と比較すると、やはりオケも抑え気味。3年前は輝く音を届けてくれたのに、舞台上のみならずピットも控え目で物足りない。
声楽陣に配慮して控え目にしたのだろう。
演出は再演もののせいか、雑に折った折り紙といった感じ。

二期会はほぼ日本人キャストで公演を行ない、充実した舞台を見せ、聴かせてくれたが、今回のタンホイザーは今一つ。

明日2/29、3/2、3/3、ともう一組のキャストを加えて公演は続くが、本日が初日ということで解消すれば良いが…。

ここ最近はワーグナー、R.シュトラウスもので日本人歌手がとても輝かしくホール、劇場に響きわたる声で楽しんでいたのだが、本日の公演では昔抱いていた不満が蘇った。
どの位準備に時間をかけていたのかが、気になる。

3/2(土)のタンホイザー、初日のキャスト2日目の公演は、2/28の公演と変わらず、声量不足の公演。オニールのみ張りのある声だが、他出演者へ配慮しての声量だろう。
ヴェーヌスの林正子は低音も高音も苦しく、ドイツ語の発音が良くないせいか、ベトベトしていて芯のない声。ヴェーヌスの凄みは一切感じられず、やはり池田香織の存在の大きさを再確認した程。代役としてもっと適任者はいなかったのか?

牧童の朝倉春菜は音程が不安定なのは半音階(鍵盤で言うと黒鍵)の音程が曖昧。従って次に歌う音程が定まらず狂っていく。だからピットから出てくるオケの音程と合わず気持ちが悪い。

エリーザベトの渡邊仁美は丸みのある良い声だが、ワーグナーの声とは違う。アンサンブル・オペラであれば存在感があるだろうが、ワーグナーの様に強い歌い方を必要とする場合は埋もれてしまう。実際、高音のHの音で辛そう。

男声陣も声量不足の為、ハインリヒに詰め寄る場面では、もごもごと何を言っているのか分からない歌い方。

これではバイロイトに日本人歌手が主役級の役で招かれないのは致し方ない(いかに藤村実穂子がずば抜けていることか!)。

アクセル・コーバーの緻密な演奏は美しく、これが舞台上の声楽陣が満足に歌っていれば、もっと雄弁な演奏となり、本領を発揮していただろう。実に惜しい。読売日響定期で再招聘して、その演奏に接したい。

3/3(日)、タンホイザーの公演最終日。
これまで初日の組を2日聴いて、余りにも集中力に欠けた公演の為、疲労感が半端なく、千秋楽は行くのを躊躇ったが、重い腰を上げ文化会館へ。

序曲から熱を帯びているオーケストラ。初日の組とはかなり違うオケの響き。コーバーも緻密ながらも煽る。

片寄純也のタンホイザーは、一部音程が不安定ながらも勢いのある、思い切りの良い歌唱が好感を持てる。声をてっぺんに飛ばす、勢いのある輝きのある声。

ヴェーヌスの土屋優子は、初日の組の林正子とは全く違い、声を遠くに飛ばし、迫力と妖艶さを併せ持つヴェーヌス。

牧童の七澤 結は安定して瑞々しい声。

エリーザベト梶田真未は高音のB、Hの音も余裕で歌い、演技も自然で嫌味がない。歌唱にゆとりがあるから演技も自然なのだろう。

タンホイザーとエリーザベトの重唱部分も互いに歌い上げ、オーケストラはもっともっとと盛り上げる。

ヴォルフラムの友清 崇、ヘルマンの狩野賢一も深みのある声で聴き入った。

これだけ声楽陣が揃えば、指揮者コーバーも変に気を使うことなく、オーケストラをドライブ出来る。
舞台上の声楽とピットのオーケストラがせめぎ合い、燃焼度の高い公演であった。

初日の組は揃って臆病で不安定、かつ声量不足の歌唱であったため、舞台への集中力は欠け、観ている方はただ疲労感だけが残った。

今回の公演、チケット発売当初は初日のキャストのタンホイザー役は未発表であり、私個人としては「伊藤達人」さんを期待し、2日分を購入。2日目のキャストを1日分購入。併せて3日間東京文化会館へ通った。
カヴァーキャストして伊藤達人の名前が表記されていたので、近い将来「伊藤達人」さんのタンホイザーが聴けるだろう。

今回の公演、初日と2日目のキャストでこれ程まで落差があるとは…。
客演のオニールと指揮者のコーバーに余計な気を遣わせてしまったのではなかろうか?

エリーザベト

最後の場面で上から下りてきたエリーザベトは人形ではなく、プログラムにも名前が記されている広瀬絵理香さんではないでしょうか。3年前ははっきり見えたおぼえがありますが、おっしゃる通り今回はタイミングが少々遅くてわかりにくかったですね。

大満足です!

2日目に参りました。コーバーさんの音楽の進め方は、本当に見事ですね。オケの音の美しさもあって、強奏してもソロが聞こえなくなるということがなく、何度かある合唱も含めたtuttiの響きに胸が熱くなりました。あっという間の4時間でした。
振り返れば3年前の公演は、リモートで行われた演出、花道にも並んだオケと少人数の合唱等、様々な困難を乗り越えて実現した奇跡だったと思います。

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非日常から日常になったワーグナー

オニールとコーバーによって印象的で素晴らしい公演になった「タンホイザー」を楽しみました。前回(3年前)に続いての片寄純也さんのタンホイザーも悪くなかったと思います。
それにしても国内のワーグナー上演は、演目も公演回数もものすごい勢いで続いています。ワーグナーファンも増える一方の感じで、3/2の公演で「オペラはよく観ているのですか?僕は初めてなんです。」と声をかけられた臨席の若い方の熱心な鑑賞態度に感心しました。
年寄りの理屈っぽいオペラファンからすると、新鮮な若いオペラファンが増えることほどうれしいことはありません。

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