2024-03

2009・5・2(土)旅行日記第3日
 ベヒトルフ演出 ワーグナー:「ラインの黄金」プレミエ

   ウィーン国立歌劇場

 7時より「ラインの黄金」のプレミエ。

 このツィクルス、最初の「ワルキューレ」はともかく、演出は作品を追うに従って単調になって来ていたが、この新作も予想通り、スペクタクル性も見所も全くない、平凡な演出になってしまっていた。舞台装置も仕掛けもいたって簡素なもので、制作費不足を窺わせるプロダクションとも言えようか。簡素なら簡素で、往年のヴィーラント・ワーグナーの舞台のように心理劇的な葛藤や陰翳があればいいのだが、そういうのとも違う。

 冒頭のライン河底の場面は、それでも緑色の光に照らされて、かなり美しい。背景のスクリーンに映写される波の映像と、舞台に波打つ布の動きが効果を出し、乙女たちは身体を揺らせながら優雅に動き回る。アルベリヒも冒頭から布(波)の中に潜ったまま舞台に登場している。
 布の覆いが外れて現われた「黄金」は、金色に輝く木材オブジェ(?)のようなもの。アルベリヒがその一つを掲げて高笑いをする――まではいいのだが、そこで早くも幕が下りてしまうあたりから、な~んだ、策がないな、という白けムードに陥って来る。
 その後も、場面転換はすべて幕を下ろして行われる。ウィーン国立歌劇場ともあろうものが、もう少し見せ場を作れないのかと思わせる。

 「天上の場面」は、背景に大きな曇りガラスのようなものがあって、出来上がったワルハラ城なるものは、そこにうっすらと投影されている格子のような絵柄だ。
 「ニーベルハイムの場」には、宝の陳列棚のようなものが一つ。大蛇だけは背景に映写されるが、蛙はアルベリヒが隠れ頭巾をかぶって真似するのみ。
 「神々のワルハラ入城」では、ガラスの向こう側に入った神々がシルエットのままセリで上がって行くという演出で、――その他は推して知るべし。

 演技表現の面では唯一つ、中性的な炎の神ローゲが、神々の一族を破滅に陥れようという願望を諸々の仕草に表わし、時にヴォータンの不意を衝いて背後から槍で刺そうとしたり、畏れのために思い止まってワナワナ震えたりする動きなどは面白かったが、その他にはとりわけ新機軸や深い読み込みなどは見られなかった。

 ところが、最後の幕が下りると、場内は割れんばかりの大拍手とブラボーの歓声。カーテンコールで、スヴェン=エリック・ベヒトルフら演出チームが登場した際にも、ブーイングはわずかに出たものの、それも大ブラボーの声と拍手にかき消された。
 こういう、何の変哲もない演出が――こんなに受けるのでありますか。
 ウィーンのワグネリアンも、結構甘いんですねえ。
 ウィーン在住の音楽ジャーナリスト・山崎睦氏と食事をしながらそうぼやいていたら、「そんなもんよ、あーた」と一笑された。
 「音楽を邪魔しない演出のみを支持する」とウィーンの人々が考えているのなら、それはまた一つの見識だろう。私もそれには共感するのだが、しかし、それにしても――。

 ツィクルスが進むごとに演出が単調になって行ったのに対し、逆に1作品ごとに勢いを増して行ったのが、フランツ・ウェルザー=メストの指揮だ。
 「ワルキューレ」「ジークフリート」ではオーケストラを控えめにし、そのためもあって音楽が叙情面に傾きすぎるきらいもあった彼の指揮だったが、「神々の黄昏」では突然別人のようにオーケストラを鳴らしはじめ、合唱すら打ち消すほどの音量で音楽をダイナミックに構成するようになったのである。
 そして今回の「ラインの黄金」では、ただ鳴らすだけではなく、オーケストラのバランスへの留意が感じられ、しかも「ニーベルハイムへの下降」の個所などではデモーニッシュな迫力さえ生み出していたのであった。たとえ演出がつまらなくても、演奏が良ければ、それはそれで結構なのである。

 歌手で光ったのは、第一にローゲ役のアドリアン・エレード。赤髪の中性的なキャラクターで前述のような複雑な役柄を巧妙に演じ歌っていた。
 次いでアルベリヒのトーマシュ・コニーチュニーで、ライン河で乙女たちを追い回すエロおやじ的な性格と、黄金を奪って成金になったあとの若々しい颯爽とした悪役とを、演技でも声でも巧く演じ分けていたのが面白い。
 もともとこの2役は儲け役ともいうべきもの。神々の長ヴォータンよりも遥かに栄えるのが通例である。
 そのヴォータンは、ユハ・ウーシタロ。今回は安定している。
 その他、フライアにリカルダ・メルベット、エルダにアンナ・ラーション、フリッカにヤニア・ベヒレといった人たちが演じていた。
 ドンナーのマルクス・アイヘは、歌唱はまず普通だったが、例の「雷の一撃」の場で目にも留まらぬ勢いの腕のワインド・アップを見せていたのが、妙に可笑しかった。ヴォータンの牛太郎さんが「ワルキューレ」第2幕最後で槍を派手に振り回し、大見得を切っていたのといい勝負。

 ウェルザー=メストのテンポは、極度に速い。演奏時間は2時間20分という驚異的な短さだ。カーテンコールを含め、9時35分にはすべて終った。

コメント

A.エレードの躍進は嬉しい。

ドイツの演出と違い、「ウィーンはウィーン」みたいですね。個人的には、アドリアン・エレードへの賞賛はわが意を得たりです。昨年1月同地における、ティーレマン指揮「マイスタージンガー」でのベックメッサーの演唱は、忘れられません。狡知かつ小心だが愛嬌のある正に「マイスター・ベックメッサー」。また、映画「ラ・ボエーム」のショナール役も印象的。ローゲもさぞかしぴったりでしたでしょうね。これから一捻りした名脇役として活躍しそうですね。

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