2024-03

2010・6・8(火)旅行日記第3日 ワーグナー「ラインの黄金」

  ケルン歌劇場  7時30分

 ウィーンからルフトハンザでミュンヘンに飛び、ケルン行きに乗り継いで、午後市内に着く。どこもかしこも、かなり暑い。ここケルンは曇り空。暑いが、空気には爽やかさがある。

 ケルンの「ニーベルングの指環」は、既に何年も前から話題になっていたものだ。
 話題の中には、たった2日間で全4作を上演してしまうという奇想天外の企画もあったわけだが、決してキワモノではなく、なかなかよくまとまっているという評判が高かった。遅ればせながら、今回初めて観る機会を得た次第である。

 演出は、天下のロバート・カーセンだから、「信用度」(?)は充分に高い。
 前奏曲の途中から非常にゆっくりと幕が上がって行く「ラインの黄金」冒頭は、河だか何だか判らないけれどもゴミが猛烈に散乱する場所で、通行人が野放図にゴミを捨てながら通り過ぎる。自然破壊を皮肉っている演出意図は明らかだろう。
 音楽がクレッシェンドするのに並行して通行人の数が増え、彼らの歩く速度も上がって行く様子が、聴覚的効果と視覚的効果とを一致させたセンスで面白い。

 第2場は、竣工成ったヴァルハルに運び込む巨大なコンテナなどが並ぶ場所。
 神々の長ヴォータンは高級軍人といったいでたちで、秘密警察か召使のような、正装した男どもが彼に従う。
 巨人ファーフナーとファーゾルトは、ツナギを着た工事主任であり、同じ服装の大勢の工事関係者たちを従え、彼らの無言の圧力をも利用して神々を威嚇する。火の神ローゲは、ここでは特に赤い服を着て出て来るというわけではなく、黒いフロックコート姿で自転車に乗って飛び出して来る設定だ。

 地下の「ニーベルングの世界」は当然ながら薄暗い場面だが、特に地下の工場を思わせるような大道具は無い。
 うごめくニーベルング族どもは、聞いた所によると、以前は軽犯罪の受刑者たちがエキストラで演じていたそうだが、今でもそうなのかしらん? 彼らは「拍手」を受けることが嬉しいので、更生にも大いに役立つとかいう話だったが――。

 最終場面、雷神ドンナーが嵐を呼ぶためにハンマーを振り回す仕種は、あたかもゴルフのスウィングのようで笑わせる。しかし、舞台奥の黒い幕が上がると、そこは深々と降り続く雪の光景が開ける。
 「ヴァルハル入城の場面」では、神々の一族は夜会服に着替え、部下たちの給仕でシャンパンか何かを飲みながら、その雪の中を通って奥へ消えて行く。あとには軍人たちや、「新居」へ運び込む家具などを持った使用人(?)たちが続く。最後の和音に合わせて幕が降りる――という段取りである。

 ロバート・カーセンの演出アイディア自体は、今日ではさほど珍しいものではない。が、カネをあまりかけない簡素な舞台(パトリック・キンモス美術・衣装)としては非常に良くまとまったものと思う。日常的な世界に設定された舞台は、以前ヴィースバーデンで観たジョン・デューのそれに共通するところもあるが、それよりはスケールも大きく、センスも良い。

 ラストシーン、昨夜ウィーンの「オネーギン」を観たばかりの目には「また雪か」と苦笑させられたが、カーセンの場合には要所で1回だけ降らせる手法――サイトウ・キネン・フェスでの「イェヌーファ」での雨も同様で、素晴しく効果的だった――なので、美しく感じられる。上下の縦線に降る雪と、奥へ縦線で動いて行く人物との対比が、視覚的にも絶妙に感じられるのだ。この幻想的な光景一つとっても、観客の熱狂的な拍手を受けるにふさわしいのではないかと思う。

 指揮はマルクス・シュテンツ。この人の指揮は何度聴いても味も素っ気もない音楽なので閉口していたが、今日はなかなか良く聞こえた。冷たい響きの音楽であることには変りないけれど、ワーグナーのスコアのテクスチュアが実に明晰に浮かび上がって、冷徹な叙情性といったものさえ感じさせたのである。この「ラインの黄金」の場合は、その指揮が良い方に作用するだろう。
 オーケストラはケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団で、全体としてはクリヤーな響きを出していた。

 歌手陣では、情報不足の私には、ファーゾルトの老練クルト・リドル以外、なじみの名前が見つからない。しかし全員が安定して手堅く、ドイツ各都市の歌劇場の水準の高さを感じさせる。
 ヴォータンのグリア・グリムズレイ Greer Grimsleyはまだ若いようだが、たいへんしっかりした歌唱と演技だ。アルベリヒのオリヴァー・ツヴァルク Oliver Zwargも聴き応えがあり、しかも第3場では散々に投げ飛ばされたりして大熱演である。フリッカのダリア・シェヒター、エルダのヒルケ・アンデルセンも悪くない。
 他の歌手はここでは省略するが、あとになって物知りたちに「あの時に出ていたじゃないか」と、突っ込まれることが起りそうな気もする。

 10時終演。観客は沸いて、カーテンコールはかなり長かった。シュテンツもここではたいそうな人気である。


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