2024-02

2010・6・14(月)旅行日記第9日 ウィーン祝祭週間の「ルル」

  アン・デア・ウィーン劇場  7時


 ケルン空港からほぼ1時間半、昼少し過ぎにウィーンに着く。

 「ウィーン祝祭週間」の一つ、アン・デア・ウィーン劇場での「ルル」(アルバン・ベルク)は、ダニエレ・ガッティの指揮、ペーター・シュタインの演出。3回の上演のうち、今夜が2回目。2009年4月にリヨン・オペラでプレミエされた3幕版によるプロダクションを持って来たものだ。

 6列目9番という、ど真ん中の席ではあったが、前に座った男がやたら大きな奴だったため、舞台の3分の1、それも中央部分が見えないという悲惨な状況。平土間前方の席というのは、こういうことがよくあるから嫌いだ。
 第2幕からはこちらも開き直り、後ろの席の客に遠慮しながらも姿勢を少し高くしてみたが、さっぱりうまく行かぬ。最前列に座っていた知人の話によれば、舞台美術(フェルディナンド・ヴェーゲンバウアー)や衣装に日本の影響がいくつかあったそうだが、そんなものは見えればこそ。ルルがある場面でキモノを羽織っていたのが判ったくらいなものである。

 垣間見えた(?)範囲での舞台の印象を記せば、ペーター・シュタインの演出はすこぶるオーソドックスなもので、全体の解釈も個々の演技も、常識的なテリトリーから踏み出さない。これまで観て来た様々な「ルル」に比べ、何か新しい視点を提供してくれるといったものでもない(負け惜しみで言っているのではない)。
 極端に言えば、40年ほど前にこのオペラを初めて見たベルリン・ドイツオペラのルドルフ・ゼルナーの演出(あれは2幕版だったが)と大して変っていないと感じたくらいだ。

 その意味では、あまりややこしいことを考えず、寛いで観ていられるたぐいのものであろう。
 ただ、シェーン博士(つまり切り裂きジャックを兼ねる)役のスティーヴン・ウェストをはじめとして、歌手がしばしば客席を向いたまま歌うという類型的な仕種が多かったことだけは、いまどきどうかと思う。まさか、幕開きの口上を、本編の中でも応用しているとも考えられないし。
 総体的には、きっちりとは出来てはいるが、あまりノリのない、燃えない舞台という印象だ。先月見たリヨンの「チャイコフスキー3連発」の方がまだ良かったのでは、という気がする。

 ダニエレ・ガッティの指揮が聴きものだった。
 マーラー・チェンバー・オーケストラを思い切り鳴らし、歌手の声を消し気味だったのには多少問題もあろうが、まあこれだけ豊満な音色とカンタービレとを効かせた「ルル」の演奏も、珍しいだろう。
 あの何度となく繰り返されるルルのおなじみのモティーフも、実に「美しく、詠嘆的に、甘く、切なく」響いて、このオペラの情感的な要素――普通は滅多に出て来ない――を浮かび上がらせる。ガッティ流「ルル」というべきか。こういうアプローチも非常に興味深い。
 それにしても彼、バイロイトの「パルジファル」でもそうだったが、このところドイツ・オペラの領域にも己の個性を些かの躊躇もなく押し出して勝負するという姿勢にあるようで、ますます面白くなった。

 題名役のルルを歌い演じたのは、ローラ・アイキンである。シェーファーやプティボンのルルに比べると少々肉付きがよすぎるけれども、別にジュネーヴのオリヴィエ・ピイ(今年1月)演出のようにヘア・ヌードになるわけでもないから、まあよかろう。声には些か無理が感じられなくもないが、ガッティの大音量攻勢に対抗するには致し方ないだろう。
 その他、ゲシュヴィッツ伯爵令嬢にナターシャ・ペトリンスキー、アルヴァにトーマス・ピフカ、シゴルヒ老人にフランツ・マズーラらが出ていた。

 最後の場面は、台本のト書通り、屋根裏部屋である。切り裂きジャックに殺害されたルルが上手側のドアから血塗れの上半身を覗かせて倒れ、同じく刺されたゲシュヴィッツが彼女に手を差し延べつつにじり寄り、オーケストラの音が残る間に、静かに幕が降りて来る。
 音が静かに消えた瞬間、上手バルコンから、音楽は此処でもう終ったんだぞ、みんな知らんのか、と言わんばかりに手を叩き始め、他の観客が悲劇的な終結を受け止めている間にもしつこく叩き続けていた奴が一人いた。悪質なフラインガー(?)はどこにもいるものだ。
 ちょうど11時に終演。


コメント

フラインガー

連日のレポート、楽しく拝見しております。フラインガーは、まさか日本人では‥。まあ、これだけ確信的なフライングなら、日本人の気質ではなさそうですが(笑い)。

小生もっと悲惨な状況に遭ったことがあります。演目が「白鳥の湖」の時でした。(泣)

大野氏へのCompliments?

原制作を、リヨンに就任したばかりの大野和士が指揮したので、気を利かせたのですかね。画家が藤田嗣治。尾形光琳「燕子花図」。源氏物語絵巻柄の着物。これらが、恐ろしくト書きに忠実な演出に異彩を放ってました。美術もバブリーになるほどモダンになり、様式のわかる方には興味深かったのではないでしょうか。

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